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離職率を低下させたはるやまHDの「退職者ヒアリング」


口コミサイトの“批判”がヒント。 退職者の本音を引き出した秘策

2020.08.24

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強い組織づくりを目指す上で欠かせないのが人材をいかに定着させること。新卒・中途問わず採用難が続き人材の流動化が進む中、企業が離職を防ぎ「社員が活躍し続けられる」組織を作るために、人事はどんなことができるだろうか。離職防止で組織の活性化を図った好例を紹介しよう。

「一身上の都合」の6文字の裏には、一言では片付けられない本当の退職理由がある――。

人事課題の一つに、若手社員の離職増加があったはるやまホールディングス(岡山市)。改革を決断をさせたのは、転職口コミサイトにあふれた会社への“批判コメント”だった。
退職の真因を聞く「退職者ヒアリング」を導入し、その回答を基に「職種」「転勤」「人間関係」「給与」といった課題への打ち手となる多くの施策を実行。組織改善を推進している社長室・竹内愛二朗さんに、本音を引き出し、離職を思いとどまらせるパワーワードを聞いた。【取材:2019年4月11日、記事最終更新:2020年8月24日】

目次
  1. 「人間関係が悪い」転職口コミサイトの批判に愕然
  2. 「社員が働きやすい環境になるなら」という社長の熱意
  3. ヒアリング役は1クッションを置くことがカギに
  4. 「職種を選べる」「上司を選べる」施策が生まれた
  5. 退職届提出者のうち、年12人の引き止めにも成功

「人間関係が悪い」転職口コミサイトの批判に愕然

前職から竹内さんが入社した2013年当時、はるやまHDには全社的に人事課題があふれていた。もともと交流があった治山正史社長と入社以前から課題点を共有。業務量の改善、社員教育制度、男性中心の組織など、山積みだったという。

「当時離職率は15%ほどで世間の平均より低かったものの、『活躍しているのに、なぜ?』という若い社員の離職が気になっていました。風土的には素直な社員が多い一方、男性中心で縦社会。いわゆる大企業病になっていましたね」

最初のヒントは、転職口コミサイトの退職者による書き込みだった。どんな企業でも同じように、目を覆いたくなるような批判コメントばかり。ただ、竹内さんはこれにふたをしなかった。「人間関係が悪い、サービス残業がある、など悪いことしか書いていないんですね。全てが真実ではないかもしれないけれど、これを直さなければいけない、という気持ちになった」と、正面から受け止めた。

「社員が働きやすい環境になるなら」という社長の熱意

社長と毎週月曜日に1対1でミーティングの時間を持ったことが、その「思い」をすぐにアクションに移せたポイントだ。「社員が働きやすい環境になるなら何をしてもいい」というトップの熱意の下、竹内さんが提案したのが「退職者ヒアリング」。退職届を出した際には社員が決して言わない「本当の理由=真因」を拾い上げる試みだ。

同社の社員の多くは全国に展開する店舗に配属されている。ヒアリング専用シートを作って店舗をエリアごとに統括するマネジャーに共有し、理由を「転勤」「仕事内容」「人間関係」「給与・賞与」「休日・勤務時間」「家庭環境」「会社の将来性・方針」の中から選び、内容を「真因」として記入する方式にした。一見難しそうなヒアリングだが、始めてみると「想像以上に聞き出せた」という。

はるやまホールディングス「退職者ヒアリング」のシート画像

実際の退職者ヒアリングシート

ヒアリング役は1クッションを置くことがカギに

成功のカギは、ヒアリング役を直属の上司である店長ではなく、その上のマネジャーにしたこと。どうしても普段接している店長への不満が多くなりがちだからだ。もしマネジャーとの関係が築けていないことがわかっていたら、接点のある先輩に声をかけて聞き役を頼むこともあった。

もちろん、退職者の本音をうまく聞き出せない場合もある。竹内さんが採用担当として関わっていた社員の場合、当時役員の立場ながら自ら直接電話をかけることも。「まずは思い出話から始めましたね。面接の時、こうだったよね、と。それから絶対に責めない。涙を流す社員もたくさんいました。『他の社員に役立てるために教えてほしい』という言葉は効きましたね」

はるやまホールディングス・竹内さん

はるやまホールディングス・竹内愛ニ朗さん

前向きな理由の場合は応援し、自己中心的な理由の場合は引き止めなかった。全国転勤がある同社では「◯◯さんは転勤を断ったのに総合職のままでずるい」という他人への恨み妬みが目立ち、「店長と働きたくない」といった名指しの不満もあった。こうした赤裸々な声を集め、15年度からデータ化。「真因」で目立ったのは、15年の場合は上位から「他の職種に転職したい」(43.7%)、「給与が上がらないことへの不満」(10.7%)、「望まない場所へ転勤となることへの不安」(10.0%)。そして、多くの退職者が人間関係に不満があったことも浮き彫りになった。

「本当の退職理由」を拾い上げるコツ

コツ1   ヒアリング役は1クッションを置く

コツ2 うまく聞き出せない場合は関係性のある先輩、上司に依頼

コツ3 絶対に責めない

コツ4 入社当時の話をして気持ちを和らげる

コツ5 パワーワード「他の社員のために役立てたい」

「職種を選べる」「上司を選べる」施策が生まれた

課題を解決する施策実行のスピードも早かった。月曜日に社長からゴーサインが出たら、火曜日に役員会で決定することもあり、「退職者ヒアリング」の結果を基に実に30もの施策を導入した。例えば、退職理由「職種」の打ち手として、他部署への異動を立候補できる「社内公募制度」、「給与」の打ち手として、現場で働きながら販売専門職として管理職と同水準の給与がもらえる「スペシャリストコース」、「転勤の不安」の打ち手として自分が希望した4都道府県に転勤場所を限定する「総合職:地方限定コース」。

さらに、「上司への不満」の打ち手として、社内評価基準を満たした社員が、勤務地の店舗が選べる「キャリアチャンス制度」を導入し、ホームページでの紹介には「上司が選べます」と記した。「好きな上司がいる店舗の異動希望を出す社員もいます。信頼できる上司と働けるのは、すごくいいことだと思いますよ」と竹内さん。ヒアリングの中に名指しで「真因」になってしまった上司には、「こんな声が出ています」と改善を促すようにしたという。

退職届提出者のうち、年12人の引き止めにも成功

導入から6年が経ち、15%以上だった離職率は16年度に10.2%、17年度に8.8%まで低下。また、退職届を出してからヒアリングによって会社にとどまった社員が18年度は12人もいた。「本当は聞いてほしかった」というのが退職者の本音でもあったのだ。

今後の課題は、経営のゴールといかに結びつけるか。社員の満足度も上がり、利益も向上する理想形には「まさにバランスの難しさを感じているところ」という。それでも、多くの施策によって社内全体の風土改革や組織改善が進んでいることを竹内さんは感じている。「社員のグチってグチじゃない。もっとこうなるはず、と前向きになれるヒントです」【取材・編集:@人事編集部】

はるやまホールディングス・竹内さん3

企業情報

株式会社はるやまホールディングス
・事業内容:紳士服及び関連商品の販売
・従業員数:連結1,600人(2018年3月末時点)※嘱託社員含む、パートタイマー、アルバイト除く
・設立:1974年11月
・東証一部上場(2002年9月)
・本社所在地:岡山県岡山市北区表町1丁目2番3号

【編集部より】
離職率低下、社員満足度をアップさせる人事制度に関する記事はこちら

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