トップインタビュー・ファーストキャリア 瀬戸口航さん
大手企業が優秀層をつなぎとめる3つの施策とは。研修設計からはじめる若手社員の離職防止
2019.04.16
いま、大手企業で起きている「優秀な社員の離職」
新卒採用では若者の安定志向を追い風に、採用数を確保しやすい状況にある大手企業が「優秀な社員の離職」に悩んでいる。中小企業と比較して、研修環境が充実していると言われる大企業の人材育成の現場で何が起きているのか。
内定者から新卒3年目までの研修に特化し、国内最大規模の4月の1カ月間で17,000人の新入社員研修を実施している、ファーストキャリアの瀬戸口航さんに、大手企業の人材育成の現状と解決策を聞いた。【2019年3月8日取材:編集部】
瀬戸口 航(せとぐち・わたる)
株式会社ファーストキャリア 代表取締役社長
株式会社セルム 執行役員
大手コンサルティング会社にて自動車業界を中心に新規事業開発支援・ビジネスプロセス構築などの各種コンサルティング業務に従事。事業会社を経て2010年にファーストキャリア入社。16年4月より現職。大手企業を中心に新人、若手人材の育成支援施策のコンサルティング、及び教育研修体系の構築を手がける。
優秀な社員ほど早く辞めていく
3年3割と言われる離職率は、実は昔も今も数字自体は大きく変動していません。ただ、その中身が変わってきています。
新卒で採用した社員を仮に2:6:2の優秀・普通・戦力的に劣る層として考えると、これまでは下の2割がついていけずに離職していくことが多かった。それが、大手企業の人事担当者や経営者の話を聞いていると、最近は上の2割の優秀層ほど辞めるというのです。
この原因は、大企業の魅力が相対的に下がっていることが考えられます。魅力とは、成長環境があるかどうかで、さらにいえばスピード感のことです。「石の上にも三年なんて待ってられない」のが今の若者の感覚です。
そのため、優秀な学生ほど、大企業でもGAFAでもなく、ステージアップやスタートアップの企業、もしくは社会的意義のある貢献をしているところに進もうとしています。今はNPOでも収益性がしっかりしているところが増えてきている。優秀層はそういうところまで見ています。
当然、そのような志向を持った学生を採用していくわけですから、従来の人材育成の考え方では、離職してしまいます。インプットをいくら充実させていても、アウトプットまでが長すぎれば待ちきれずに飛び出してしまったり、アウトプットが不十分と感じれば、それを求めて去ってしまったりするわけです。
そのため、今の人事担当者には「学びと実践の場」というものをどう設計・準備していくかが問われています。ただ、研修だけを充実させようとしてもダメなんです。
当たり前ですが、研修が実践と結びついていなければならない。その点を踏まえて、より、成果が出るための研修と実践が結びついた設計ができるかどうかです。そのためには効果検証が重要になってくるでしょう。
大手企業ゆえの落とし穴
大企業の場合、採用数が多い企業だと1,000人規模で新入社員を採ります。いわゆるマスの採用になったとき、個別の育成には限界がある。現場に任せざるを得ないが、結果として育成もマスになってしまう。
個の時代で、大企業でも個の強みにフォーカスするように言われているが、実際は現場のメンターやOJT担当者が支える構造になっています。
ただ、現場が人材育成のすべてをフォローできるわけでもない。昭和の良い時代というのは、もっと人がたくさんいて、良い上司が職場や酒の席で時間を使って関わってくれました。
今は働き方改革や企業の収益性向上が問われており、経営者や人事は人員を削減しながらどれだけ一人当たり生産性を上げられるかを考えています。そうなると、育成をしている時間がないというのが、現場の本音として聞こえてきます。大事なのは分かっている。けど、「できない」のです。
もちろん、中小企業でも起きている問題ではありますが、大企業は社内の影響範囲が大きい点が違ってきます。規模が大きいので人事部門内で分業をしている。採用は採用チーム、育成は育成チーム、現場という風に分かりやすい形になる。
中小企業の「ひとり人事」は、対応するのが大変だけれども、その分、一気通貫して一人の新入社員に密に関われる。大企業は物理的にそれができないことが多い。採用、育成、現場がバラバラのまま、そうこうしているうちに、優秀な人から辞めていってしまうのです。
変化を嫌う大企業の研修現場
現状を変えたいがどうしても変化を嫌うという大企業もいます。例えば、研修がオペレーティブになり過ぎている企業はわかりやすいです。研修の対象人数も多いがゆえに、滞りなくプログラムを進めるために講師手配から使うテキストまですべてオペレーティブになっている。
そうすると、決まった型通りに、毎年研修を回していくことが大事と考えるようになってしまう。研修が完成してしまって変化する余地がないのです。
一方で、入ってくる新入社員は年々少しずつ変化している。そこに乖離が生じるのです。半分の企業は気付いて改めますが、半分は止められずに続けてしまいます。他社の研修事情を知らないため、自分たちがやっている研修が固定化されているかどうかも気付けないこともある。大企業が陥りやすい点です。
また、OJT制度が形骸化している企業を目にすることも多いです。
我々が実施しているアンケートでは、関係者の8割5分が自社でOJT担当者向けの研修を実施していると答えています。具体的な実施内容を聞くと、そのうち、6割強が「ガイダンス」と答えています。その内容は育成の記録を行うシートを渡して、その説明をするだけで済ませている企業が少なくないのです。
ここが問題で、本来やるべき自社にとって新入社員を採用する意義や自分がOJTを担当することの意義などを腹落ちせずに新入社員に向き合ってしまっている。冷静に考えると、大事なことでやって当たり前と気付けるのですが、オペレーティブに研修をやっている会社ほど意外に気付けないのです。
OJTで我々が推奨するのは、まず担当者を20代半ばから30歳手前ぐらいの管理職ではない社員にすることです。理由はマネジメントの疑似体験ができる点です。
新入社員1人を成長させられない人材が組織を引っ張ることなんてできないわけですから。この段階でマネジメントに必要な自分の課題に気付くこともできますし、OJT担当者の成長機会にもつながります。
優秀層の離職を防ぐための3つの解決策
解決できる方法は3つあります。
1.シンプルにまずできることから始める
育成であれば現場をアテにしすぎず、まず育成部門の中でできることをしっかりと教えきる。例えば、スキルを学ばせるのではなく、スキルを使ってどう自分が学べば良いのかの「学び方を学ばせる」というようなことを初期教育に盛り込んでいくのです。
確かに現場で人は育つのですが、ある意味、現場よりも濃い密度で、現場で学んでほしいことをできるだけリアルな体験で学ぶ設定をするのです。
実際の現場のさまざまな課題を巻き込んだアクションラーニングとして体験型の研修を行う企業もいますが、PDCAを回しながらより濃い学びの期間を過ごせるような研修設計ができるかがカギですね。
2.テクノロジーを活用する
いまHRテクノロジーの発展が追い風になっています。
「メンターとメンティーの相性を調べる」というように今までできなかったようなことがアプリやツールで、一瞬でできてしまう。これを上手く使っていくことです。
もちろん、魔法の杖ではないので、すべての課題を解決することは難しいです。しかし、時間や効率面で必ず自分たちを助けてくれますし、「自分の会社には何が合うのかを考え、マッチするツールを探しに行く」ぐらいでも良いと思っています。
3.「サクセッションプランニング」を新入社員研修に導入する
経営者に対しての提言ですが、「サクセッションプランニング」(後継者育成計画)を新入社員研修の設計段階から盛り込んでいくことです。
今の代は良いが、次、その次の時代は今よりもっと見通しの立たない、より複雑化された世の中になっていく。そうしたときにリーダーシップを発揮していく人材は、いま会社内のどこにいるのか、という話です。
だから、社内・社外にこだわらず、とにかく若手人材に投資をしていく。そうすることが、実は、離職リスクの高い優秀層の成長志向を刺激することになり、結果的に彼らを引き付けていくことができるのです。「会社の若手」を育てるというより、「社会の若手」を育てていくという考え方ですね。
大手企業も優秀な若手も生きる日本社会へ
我々が支援させていただく際に掲げているのは「ヤングタレントマネジメント」です。
今、優秀な若手がたくさんいる。彼らがパフォーマンスを発揮できずに離職してしまうのは、主に採用と育成が噛み合っていないことが原因です。
彼らが大企業を選んで入社してきているのは、大企業だからこそ実現できる成長環境があるからです。
マスの採用・研修があって、その後は配属先で10年頑張ってもらい、課長手前くらいでアセスメントをして、その時点でたまたま在籍している人達が上へと選抜されていくのではなく、最初の入社時点からタレントマネジメントを考えていくことです。
それを我々は「ヤングタレントマネジメント」と呼んでますが、そういうことをしていかなければ、優秀な社員が辞めていくだけでなく、採用すらも難しくなり、企業も衰退していきます。
今後も、日本の優秀な若手が活躍する場を増やしていけるようにしていきたいと思っています。
企業情報
株式会社ファーストキャリア
事業内容:ファーストキャリア構築期人材の成長支援、プロフェッショナル化支援
本社所在地:東京都渋谷区恵比寿1-19-19 恵比寿ビジネスタワー7F
設立:2006年8月
HP:http://www.firstcareer.co.jp
【問い合わせ】
TEL:03-3440-0013
FAX:03-3440-0014
MAIL:info@firstcareer.co.jp
【企画・制作:@人事編集部広告制作部】
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