@人事 ドイツ支部通信
こんな企業は願い下げ? 志望度ダウンにつながる面接官のマナー
2019.04.25
ネット上では定期的に、「学生の就活マナーについて」の記事が注目を集める。先日も、『企業説明会「机にペットボトル」で話を聞く学生は落とす! 人事が見ているマナー』という記事が物議をかもした。しかし、「こんな企業では働かない! 学生が見ている面接官のマナー」だってあるはずだ。というわけで、ここで一度、面接官のマナーについて考えてみたい。
ドイツ在住、1991年生まれのフリーライター。大学在学中にドイツ留学を経験し、大学卒業後、再びドイツに渡る。ブログ『雨宮の迷走ニュース』を運営しながら、東洋経済オンラインやハフィントンポストなどに寄稿。
面接官への印象で入社意思が変わる
冒頭で紹介した記事では、「説明会で社長が話しているときにお茶を飲んだ学生は落とす」「コートを着たまま説明会会場に入る学生もNG」といった主旨のことが書かれている。その行動がマナー違反かどうかはさておき、こういった主張を聞くたびに、「いつまで選ぶ側の上から目線でいるんだろう?」と思ってしまう。
人手不足、売り手市場の現在。どうやっていい学生を採用するか、長く働いてもらうかは、多くの企業が腐心しているテーマだ。そんななかで、お茶を飲んだだの、コートを脱がなかっただの、そんな理由で「マナー違反」のレッテルを貼る余裕があるんだろうか?
エン・ジャパンのアンケートによる『この会社には入社したくないと思った理由』という質問では、「面接官の不快な態度・言動」が63%とトップになっている。「求人情報と面接の話が違った」「想像していた仕事とずれがあった」という現実的な要素を差し置いて、「面接官への印象」によって入社をためらう人が多くいるのだ。
「面接」といえば、学生がノックして部屋に入ると面接官数人が仏頂面で長机に並んでおり、学生は向かい合うようにちょこんと椅子に座るシーンが思い浮かぶ。学生は面接官に勧められるまで席には座らない。座ることが許されて着席したら、「ではお願いします」と面接がはじまる。現在これが「ふつう」なわけだが、これって、初対面の人間同士が話す場として、本当に適切なんだろうか。
悪意のない威圧が面接の慣例になっている
ちょっと想像してみてほしい。
お見合い会場である小料理店の個室に、自分が先に着いたとしよう。少しして、相手が到着してノックをする。あなたは「どうぞ」とぶっきらぼうに言うだろうか? 立ち上がってドアを開けて、「はじめまして、どうぞどうぞ」と言うのが自然だ。すぐに座るように勧めるし、むしろ相手が座ってから自分も座りなおす。これが、「ふつう」じゃないだろうか。
それなのになぜ、面接ではドアを開けることすらせず、相手がどのタイミングで座るかを試すのだろう。学生のマナーうんぬん以前に、上から目線すぎやしないだろうか。
面接では面接官が名乗らず相手の名前を聞くところからはじまることもあるが、対人関係として改めて考えれば、(個人情報という観点もあるのかもしれないが)とても失礼だ。「名前を聞くなら自分から名乗る」というのは、当たり前のマナーである。「次の人どうぞ」と病院のように呼び、自分たちは机を使うのに学生には使わせず、仏頂面でこちらの様子をじいっとみている人の前で、リラックスして話せるだろうか?
そういえば一度、面接の最後、面接官の方に「ご縁がなくとも今後ともご贔屓にしていただければ」と言われた。しかし、机の上に手を置いたまま頭も下げずに定型文として「よろしくお願いします」と言われてもなぁと思った記憶がある。面接官は、慣例的に、無自覚に威圧したり、面接以外の場ならしないような悪意ないマナー違反をしたりしていることが結構あるんじゃないだろうか。
無意味に緊張させる面接にメリットはない
少し前、日本の面接官の態度に関するツイートが話題になった。それに対するわたしのツイートも、多くの方に拡散していただいた。
ツイートにもあるように、ドイツの面接は、日本で経験したものと大きくちがった。エントランスで名を告げてエレベーターで部屋に向かえば、人事の方が迎えに来てくれるところだった。握手をして互いに自己紹介し、コートをかけてくれたうえ、コーヒーも入れてくれたほど。すべて話し終えたあとは、エレベーターを呼んで見送ってくれた。面接後にオフィスを軽く案内していただいたこともある。
ただこれは、ドイツが新卒一括採用ではなく欠員補充式のため、面接官に時間的・労力的余裕があることが大きいだろう。また、面接ではスキルの確認や仕事内容の合意などはもちろん、給料額についても話すのが一般的だ。面接は「企業による学生選定の場」というよりも、「互いの交渉の場」という認識なので、このような雰囲気になるのかもしれない。
「文化のちがい」と言えばもちろんそうだし、企業によってもちがいがあるだろう。しかし面接される側として、自己紹介すらしない真顔の3人と向き合って淡々と質問されるのと、同じテーブルにつきコーヒーを飲みながら話すのでは、後者のほうが印象がいいし、リラックスできる。
そう考えれば、日本の面接方式は無意味にピリついていて、学生を萎縮させてしまっているんじゃないかと思うのだ。そしてピリピリした雰囲気で面接するメリットなんてたいしてないだろう。
ささいな言動で選ばれる企業になれるかもしれない
もちろん、学生の「ご機嫌を伺う」必要はない。ただ面接の目的と意義を考えれば、オープンな雰囲気で本音を話せる環境のほうがいいはずだ。面接官だって、なごやかな空気で会話する方が、望んでいる「学生の本音」を引き出せる。
学生のマナーをチェックしたい気持ちもわかるが、そもそも学生にビジネスマナーを求めるのもおかしな話だ。小さなことなら教えていけばいいし、なごやかな空気でも礼儀正しいかどうかは言動からある程度おしはかれる。
毎日何十人もの学生と会うような新卒一括採用では、面接官のほうもいちいち学生をエスコートできないかもしれないし、機械的にさばいていくほうが楽だとは思う。しかし学生だって、連日気の張る面接をこなしているのだ。そこで、「わざわざ来てくれてありがとうございます。人事の○○です。どうぞ」とドアを開けてくれる人がいたらどうだろう。それだけで、印象がぐっと上がるのではないだろうか。
「コーヒーと紅茶、水もあります。なにか飲みますか」と言いながら天気の話をしたり、問題なく来れたかを聞いたりすることから、人間関係というものはできあがっていく。たった1杯のコーヒーで学生の緊張がほぐれて笑顔になってくれるとしたら、安いものだ。
もし縁がなく採用、入社とならなくとも、互いの印象がいいに越したことはない。将来一緒に働く可能性だってあるし、印象がよければ顧客としてその企業を支えてくれるかもしれないのだから。
「面接」という特殊な場を想定するのではなく、「はじめて会う人と話す」と考えてみれば、「そんなつもりはないけど威圧的だったかもしれない」「そういえば名乗らないって失礼だな」「偉そうな物言いだったこともあった」という気づきがあるんじゃないだろうか。
いまだに少なくない「企業が学生を選ぶ」という認識で、いままでどおりの面接をしている企業を横目に、「リラックスしてお互い腹を割って話しましょう」という面接をすれば、それだけで差をつけられそうだ。
執筆者紹介
雨宮紫苑(フリーライター) ドイツ在住、1991年生まれのフリーライター。大学在学中にドイツ留学を経験し、大学卒業後、再びドイツに渡る。ブログ『雨宮の迷走ニュース』を運営しながら、東洋経済オンラインやハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。
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