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特集

非上場企業の成長戦略Vol.1/ヤンマー株式会社編


“ヤン坊マー坊”を封印したヤンマーが見据える未来

2019.04.12

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上場しないことで成功を収める企業がある。非上場ながら成長を続ける企業の本質を探る。

2019年で創業107年を迎えるヤンマー(大阪・北区)は、上場しないことでのメリットを享受し、業績を伸ばしてきた。なぜヤンマーが今の地位を築き上げてこられたのか。同社の人事部部長・神原(かんばら)さんと、経営企画部副部長・浜口さんを直撃。
そこには、穏やかな社風の中にも、鋭い目で未来を見据える老舗魂があった。【取材日:2019年2月21日】

目次

神原 清孝

ヤンマー(株)神原 清孝さん

1991年入社。部品事業部企画グループ(現:グローバルカスタマーサービス部)に配属後、ヤンマー西日本建機株式会社に出向し、営業を経験。その後、滋賀県長浜と本社でエンジン事業の企画部門を経験した後に本社の経営企画本部を経て、社長室長に就任。現在はヤンマー(株)人事労政部部長。

 

浜口 憲路

ヤンマー(株)浜口さん

1995年入社。経理部東京経理グループに配属後、長浜の汎用機事業本部企画管理部、本社の経営企画部を経て、岡山のヤンマーエネルギーシステム製造株式会社の立ち上げに携わる。経営企画部に戻って兼務で中国室のプロジェクトに加わり、その後ヤンマーアメリカに出向し、経営企画部グローバル化推進グループを経てヤンマーインターナショナルシンガポールの立ち上げに参加、2018年に本社の経営企画部に戻る。

 

ゆっくりだけど着実に。非上場だからこそ先を見据えた成長を

創業者である初代・山岡孫吉氏から現在の山岡健人代表取締役まで、4代続く同族経営で非上場を貫くヤンマー。1933年に小形ディーゼルエンジンを完成させて以降、耕うん機やトラクター、船舶用エンジンの製造など、華々しい功績を残してきた国内有数の大手メーカーは、あえて上場する道を選ばなかった。上場しない理由を、浜口さんはこう語る。

ヤンマー(株)インタビューをうける浜口さん
長期的にビジネスを考えられるのが一番の理由です。目先の収益ではなく、10年、20年、30年後に芽が出て儲かる仕組みを我々はつくってきましたし、これからもつくっていきたい。もちろん、上場すれば資金も麗澤になり、世間の厳しい目に晒されることでもっと収益に対して貪欲になるのかもしれません。しかし、100年以上経た今も、金融機関からの信用をいただき、安定した資金が調達できており、上場する必要性を感じないというのが正直なところです」

1921年山岡発動機工作所時代の写真

1921年山岡発動機工作所の写真。ガス発動機の修理・販売を行っていた

同族経営によるワンマン体制、トップの意見第一主義かと思いきや、非上場であるが故の閉鎖的環境もなく、会社の気質は至っておおらかで風通しがいいのだそう。

インタビューをうけるヤンマー(株)神原さんうちはトップダウンがほとんどないんですよ。みんなで議論しながらみんなで決定していくので、逆に一人ひとりの意見が通りやすい。でも、非上場で会社の状況をこれまで公開していなかったので、社外から我々の雰囲気が見えにくかったのは確かです。僕らは閉鎖的だとはまったく思っていませんでしたが、100周年をきっかけに以前よりは随分オープンになっていますね」(神原さん)

社歴や階級に関係なく、一社員の意見を汲み取れるのは上場していない企業の強みであり、いい意味で穏やかな社風だ。しかし、貪欲さや激しさという面では少し物足りなさもあった。
そこで、2012年の創業100周年を機に、次の100年に向けてさまざまな改革を実行。その一つが、大阪本社ビルの建て替えだ。

“YANMAR FLYING-Y BUILDING”と命名された社屋は、“食料生産”と“エネルギー変換”のミッションを掲げるヤンマーの新しい姿を体現している。生産者の想いを身近に感じられる社員食堂の運営をはじめ、壁面緑化やCO2の排出量を大幅に削減するシステムの導入、部門の垣根を越えてコミュニケーションが図れるフロアの見える化など、風を受ける船の舳先をイメージした外観然り、未来に向かって漕ぎ出すために大きく舵をきった。

ヤンマー(株)社屋ビル

2014年に完成した新社屋。ガラス張りの開放的な空間が、社員同士のコミュニケーション活性化にもつながった

ヤン坊マー坊からFLYING-Yへ。モノ売りからコト売りへ

さらなる成長を目指すうえで、グローバル化は避けられない。世界に出ていくには、“ヤン坊マー坊のヤンマー”では厳しい。そこで大きな決断をする。
2014年をもって、誰もが一度はあのテーマ曲を耳にしたことがあるでだろう『ヤン坊マー坊天気予報』の放送終了に踏み切った。

YANMAR PREMIUM BRAND PROJECT

佐藤可士和氏がデザインしたブランドアイデンティティは、新しいヤンマーのシンボルに

その後、国内と海外でブランドのイメージが分散してしまわないよう、ブランドロゴの刷新と同時にクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏を起用した“YANMAR PREMIUM BRAND PROJECT”を立ち上げ、これまでになくエッジを利かせたデザインのトラクターやクルーザーを世界的なデザイナー奥山清行氏を中心に作り出し、大々的なリブランディングを実施。100周年で打ち出したミッションをコンパクトにまとめた“A SUSTAINABLE FUTURE”~テクノロジーで新しい豊かさへ~を合言葉に、快進撃が始まる。

 

「ヤン坊マー坊の優しいキャラクターのイメージを封印したのは、もっとアグレッシブにいこうという、社員の心を変える狙いがあったのだと思います。ブランドチェンジの際も、先に外に向けてPRして外堀から埋めたのが功を奏しました。外部からどんどん入ってくる情報で『なんや、うちの会社変わってきたで』と、徐々に社員たちの中で意識の変化が生まれましたね」(神原さん)

ヤン坊マー坊変遷

左が「ヤン坊マー坊天気予報」が放送を開始した1959年のヤン坊マー坊。多くの人は右の2人(2009年時)に見慣れているだろう

スペインの発電機会社を買収したり、インドのトラクターの会社へ出資を進めたり、海外展開の動きが活発になったのも、ちょうどそのころ。リーマンショック後も業績は緩やかに伸びていたものの、国内市場が縮小傾向にある中で、海外の新市場にも積極的に参入。事業戦略の転換期もやはり、100周年前後だった。

「これまではずっとモノを売っていましたが、バリューチェーンで見て、売った後に提供できるサービスを収益の柱に持っていくべきだという考え方にシフトしました。その代表的な例が、スマートアシストです。トラクターや建設機械にスマートアシストを搭載し、お客様がどういった使い方をしているのかデータを収集してそれを元にソリューションを提供する“コト売り”に変えたんです」(浜口さん)

国内では農業人口が減少する一方、土地は農地の集約により大規模化しつつある。スマートアシストや自動運転農機など、最新のテクノロジーを活用した農業の省人化・軽労化で生産性の向上を目指すヤンマーのスマート農業は、今後の大きな収入源だ。人が豊かに暮らせて、自然が豊かにあり続ける持続可能な未来を、テクノロジーを核に創造する。時代に合わせて提供するモノ、価値、方法は変わる一方で、農家の人たちが少しでも楽になるように、お客様に貢献しようといった根底にあるものは、創業時から一貫して揺るがない。

平均点より“尖った部分”を重視。自主性重視の育成で人材を確保

大きく躍進するヤンマーを支えているのは、やはり技術と人。今、最も求めているのは、電気・電子系と自動化に対応するロボティクスやセンシング系の技術を持ったエンジニアで、毎年100名ほど募集をかける新卒採用の75%は技術系だ。そのうえ離職率は1桁台をキープと、人材の見極めや育成にも成長し続ける秘訣が隠されているようだ。
人事部を総括する神原さんに、採用する人材のポイントを聞いてみた。
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「面接では海外を意識しているか否かを重要視しています。社歴が浅くても海外出張や海外駐在がありますから、グローバルで勝てる資質を持っているかどうか。あと、すべて平均的にできる人よりかは、劣る部分があってもそれをカバーできるちょっと尖ったものを持っている人。社風に合った明るい性格で、芯がしっかりしていて、少し変わった人が多いかも知れません(笑)」

採用に関しては国籍・性別・年齢を問わない、ダイバーシティを取り入れている。本社には祈祷室があったり、社員食堂にハラールメニューがあったりと、宗教や文化の違いにも深い理解を示す。また、海外で競合に打ち勝ってスピード性を高めるためにも、欧州、アメリカ、中国、アジアと、各拠点に統括会社を作って現地化を推進し、今後は現地採用も増やしていく。

こうした先進的な動きは採用だけでなく、入社後の研修体系にも大きな変化をもたらしている。昨年度から社員各自にこの先のキャリアプランをどうしたいのか、そのために何年後に何ができるようになりたいかなど、将来の展望と5段階評価で現在のスキルを評価する“フライングフューチャーシート”を導入した。

「研修を受ける本人が成長しようと思わない限り、どれだけ会社がサポートしようとも意味がない。夢を叶えるために何を勉強しなければいけないかを気付かせ、そのシートを持って年初に上司と議論を交わすんです。強制的にではなく、自分の夢の実現に向けてキャリアアップ、スキルアップを自主的に行う研修体系に切り替えました」(神原さん)

いばらの道も覚悟の上。即断即決で豊かな未来を目指す

ブランドイメージから社員の意識、事業戦略、人材育成まで、100周年を皮切りに見直しを図って次の100年へと突き進むが、見通しはそう明るい話ばかりだけではない。順風満帆に進んで行くかのように思えるヤンマーの未来だが、危機感が必要だと浜口さんは言う。
「30年先くらいまでの技術はある程度想定できていますが、電動化がこれからどういう方向に進んでいくのかが脅威です。我々がコアに扱うエンジンの電動化となると、近い将来で5年後、10年後にゲームチェンジが起きるかもしれない。そのタイミングを見誤らないように、危機感を持って本社を起点に発信し続けなければいけないと思っています

急速に変化する世の中の動きを冷静に見ながら、ここぞという時に舵をきるのが本社の役割。グローバルに展開し、人と自然が共存する豊かな社会を創造するために事業フィールドを地球規模で多角的に広げてもなお、起点はここ大阪しか考えられないと口を揃える。

「今の時代、どこででも情報収集できますし、どこからでも世界に発信できるので場所はあまり関係ありませんが、飾らず本音で向き合う大阪人らしさが、ヤンマーらしさでもある。上場していたら東京の方が有利に働くこともあるかもしれませんが、上場せず長期的視点で大阪から世界を見る方が、我々には合っているんだと思います」(神原さん)

ヤンマー(株)インタビューの様子

その社風を現すように、終始和やかにインタビューに応えるお二人。しかし、未来を見る目は穏やかな輝きだけではない

100周年を機に転換期を迎え、これまでの100年とはやり方は違うが、創業から根付く“最大の豊かさを、最小の資源で実現する”というスピリットは変わらない。新しい方針で人・自然の輝かしい未来を見据えている。

【取材・編集:@人事編集部】

【シリーズ】非上場企業の成長戦略

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