社員に選ばれる会社の人事制度・人材開発
企業が社員の複業を容認するメリットと留意すべき3つのポイント
2019.03.27
複数の会社に所属している、あるいは別の事業を行う複(副)業(以下、複業と記載)を行っている人は増えつつあると思います。これは、仕事環境だけではなく、職業観にも影響を与えているでしょう。まず、仕事とは「同一人物が週5日、同じ会社で働かないと成り立たないもの」なのでしょうか?確かに、中にはそういった仕事もあるかもしれませんが、たいていの仕事はそうとは限らないと思います。そのような固定観念は、変わりつつあるのではないでしょうか?
外資系企業および一部の日系企業では、各ポジションにおける仕事内容を定義・文章化した「ジョブディスクリプション」を作成しており、それに基づいて社員の採用・異動・登用を行っています。ジョブディスクリプションに書かれている内容を半分にすれば、週2.5日のポジションを2つつくることができます。もちろん、実際にはそんな単純なものではありませんが、少なくとも「週5日勤務」の社員1名ではなく、仕事を分割することによって複数名で行う環境をつくることができるでしょう。これは社員の視点から見ると、1人が複数の仕事を持てる環境=複業が可能な環境をつくることができるといえます。
今回は企業が複業を認めることによって得られるもの、および複業を容認する際に留意すべきことについて述べたいと思います。
複業を認めることによる2つのメリット
企業が社員の複業を認めることによって得られるメリットを2つ挙げたい思います。
新たなマーケットが得られる
勤務条件を緩やかにすることで、それまでは「週5日フルタイムで勤務できる人」のマーケットだけで人を探していたのが、例えば以下のような人も自社の採用マーケットに加わることになります。
- 週5日で働けるが、育児・介護などの関係で1日6時間までしか勤務できない
- 介護のため週1日は在宅勤務だが、残りの週4日は通常どおり働ける
- 週3日は通常勤務だが、他の日は別の仕事をしている
「フルタイムで働かない(働けない)」ことを除けば、仕事の遂行能力はむしろ他の人よりも有能な方を採用できるかもしれません。しかも、勤務日数や時間数が少ないことによる給与面の調整もできるでしょう。
有能な人材を採用できる可能性が広がる
スタートアップ企業や中小企業でマネージャー以上のポジションを募集する場合、マーケットに見合った年収を提示するのは難しいかもしれません。その場合は、たとえ年収が低くても、大企業よりも責任範囲が広く、自分自身の成長にもつながるため、そこで働きたいと考える方しか採用できないのが現状でしょう。年収がすべてではないですが、本来は、多くのリスクを受け入れた上で責任度合いの高い仕事を遂行できるスキルのある方に対しては、それに応じた年収を設定すべきでしょう。
それがどうしても難しければ、勤務を週4日にすることで、理論上は想定年収の80%にすることができます。上述したように絶対に週5日勤務でないといけないことはなく、何とかできる部分の方が多いでしょう。
※関連:なぜ副業を禁止するの? 社員の副業を推奨すべき7つの理由
複業を容認する際に留意すべき3つの点
既にサイボウズのように複業を認めている企業もありますし、エンファクトリーのように「専業禁止」を掲げて、全社員に副業を推奨している企業もあります。社員が複業を行う際に、企業として一定のルールは持っていた方がよいかもしれません。その場合は以下のような点に考慮してください。
同業他社への就業制限
これは業種によりますが、同業他社での就業は控えてもらうよう周知した方がよいかもしれません。法律上は「職業選択の自由」が規定されているので、完全に禁止することはできませんが、就業することで知りえる「機密事項」が同業他社に容易に漏れやすい状況が発生しているとも言えます。それに対して、企業として予防線を設けておくべきでしょう。
勤務時間・勤務日の調整
就業時間外や休日のみ複業にいそしむこともあるかもしれませんが、もともと就業している企業の勤務時間をずらすことが必要なケースもあるでしょう。その場合は、フレックス勤務制度や(職種によるが)裁量労働制の導入、あるいは給与調整も含む時短勤務制度を設けるなど、複業しやすい環境の整備が必要です。また、そういった勤務体制をささえるリモートワーク制度や、外部からも社内システム環境にアクセスできる仕組みづくりも必要でしょう。
※関連:2019年度就業規則改定で知っておくべき副業・兼業の法的リスクと回避
確定申告の周知
複数の会社から収入を得ている場合、企業が行う年末調整だけではなく、確定申告(毎年2~3月)を個別に行うケースも多いでしょう。確定申告や納税をしないことによって、住民税などの納税額に影響が出るだけではなく、延滞税や無申告加算税など申告漏れによるペナルティが科されることもあります。
また、刑事罰が課されることもあり、「知らなかった」ではすまされません。複業を認めるならば、個人で確定申告を行う必要があること、そのために会社が年度末に発行する源泉徴収票を用いることなどは周知しておきましょう。
厚生労働省が2016年にまとめた「働き方の未来2035 :一人ひとりが輝くために」という報告書の中でも、「働く人が働くスタイルを選択する」具体的な例として、「複数の会社の複数のプロジェクトに同時に従事するというケースも多く出てくるだろう」と挙げています。仕事のために生き方を変えるのではなく、生き方に合わせて仕事を選ぶ。これからは、そのような社員に選ばれる企業になっていくべきだと思います。
【編集部より】
複(副)業に関する記事はこちら
執筆者紹介
永見昌彦(ながみ・まさひこ) アルドーニ株式会社代表取締役。外資系コンサルティングファームなどで人事コンサルタントとして勤務した後、事業会社(ラグジュアリーブランド持株会社)で人事企画担当マネージャーとして人材開発・人事システム・人事企画を兼務。事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして、2016年にフリーランス人事プランナー・コンサルタントとして独立。2018年に法人化。現在、人事全般のプランニング・コンサルティング・実務にたずさわっている。
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