「ひとり人事」が人事課題の解決に120人の社員を巻き込んだ方法とは
「人事が全部やれよ」が辛かった。ひとり人事が社内に業務分掌した秘策
2019.03.15
人事なんだから人事のことは全部やれよ――。
この言葉ほど人事担当者が孤独を感じるフレーズはない。特に中小企業では人事担当者が1人で採用や育成、人事制度の設計など全ての人事業務を担うことがある。「ひとり人事」は多忙な日々と誰も助けてくれない孤独感に苦しむ。
美容健康商材などのD2C事業やメディア事業を手掛ける「ビーボ」(東京・港)では、複数の人事課題を全社的な「組織横断プロジェクト(PJ)」にして人事業務を社内に分掌している。PJメンバーとなった社員が自ら課題解決に取り組み、ひとり人事の鈴木千帆さんが各PJの手綱を握る。鈴木さんが社内で人事業務を分掌した経緯や社員の巻き込み方、PJ化のメリット・デメリットを赤裸々に語った。【取材:2019年2月25日 @人事編集部・大西里奈】
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「皆に任せるのが申し訳ない」気持ちと「皆で会社をつくりたい」のせめぎあい
鈴木さんが入社した2016年当時、ビーボの社員数は30人程度だった。人事部はなく、武川克己社長や社員が自ら人事業務をこなしていた。
鈴木さんは内定者時代に仲間の内定辞退が相次いだ原体験から、入社後は内定者育成の担当になった。2年目からは新卒・中途採用や社内人事も兼務し、人事担当者としての役割が増えた。さらに、会社の事業拡大とともに社員数が120人に増えて人事課題が次々と出現し、ひとり人事の鈴木さんの負担も増えた。
30人規模の時代に全社員が抱いていた「全員で会社をつくる」思いは、社員数が増えるにつれて変化していた。各自が自分の部署の目標達成に集中するようになり、「人事業務は人事担当者の仕事」の雰囲気が生まれていた。そこで、人事や広報担当者の会議で「組織横断プロジェクト」を発案した。
本来は私が1人で対処すべきことかもしれないのに、皆に任せるのが申し訳ない――。
責任感の強い鈴木さんは悩んだ。それでも、昔のように「皆で会社をつくりたい」という気持ちの方が強かった。人事業務を社員に委譲して「自分ごと」化してもらうこと、ひとり人事の負担を軽減して鈴木さんが取り組むべき人事課題に集中することを目的に、2018年9月からPJを始動した。
組織横断プロジェクトは人事評価制度とも連動
現在の組織横断プロジェクトは5つ。新卒採用、リファラル採用、全社員が参加する年4回の総会運営、人事制度改善、社員のモチベーションを測るサーベイ分析で構成する。
PJメンバーは武川社長と相談の上、鈴木さんが各部署で影響力がある社員を選んだ。全部署の社員がいずれかのPJに参画するように、各PJに3~5人のメンバーを迎えた。メンバーはPJで決まった施策を各自の部署の上司に伝達し、上司が各部署に情報共有して施策を動かす。鈴木さんは一部PJにメンバーとして参加しつつ、全PJの進捗状況を管理する役割も担う。PJの内容や構成は半年ごとに見直して継続、廃止、新たなPJ立ち上げなどを判断する。メンバーの任期も半年で、PJは半年間PJをやり遂げた社員は人事評価が上がり、報酬にも反映される。組織横断プロジェクトと人事評価制度を連動させ、メンバーの参画意欲を高めている。
立ち上げ直後の3カ月間の苦しみ
PJは立ち上げ直後の3カ月間が試練だった。PJメンバーのモチベーションを上げるのに苦労したからだ。
PJは社長直轄事業とし、発足時には社長が全社員参加の総会でメンバーを発表した。人事評価制度との連動もあり、一時的にはPJ自体の権威付けやメンバーの責任感、モチベーション向上を促すことができたはずだった。しかし、いざPJが始まると通常業務が多忙なメンバーから「なぜPJ業務をやらなければいけないのか」との声が上がった。鈴木さんは週1回のPJごとの会議に加えて、メンバーのモチベーションに変化がある度に各PJのリーダー5人と個別面談を実施。メンバーやリーダーの話を何度も聞き、その度に「組織横断で人事課題を解決することの意義」を伝えた。
「人事1人では各部署の声が分からない。一緒に会社をつくりたいから、そのためにどのようなアクションをすべきか一緒に考えたい」
3カ月間、各所で面談を重ねてPJの意義や重要性が理解され始めると、次第にメンバーに自律性が生まれた。PJのために積極的に行動し、リファラル採用のPJではメンバーが各部署の上司に働きかけて年間100人の採用候補者との接触に成功した。「やらされている感」ではなく、PJの必要性を感じて「やりたい」気持ちが生まれたPJは確実に成果を上げた。
直属の部下の働きかけで、各部署の上司が組織課題の解決に協力的になった
組織横断プロジェクトのメリットは、ひとり人事の時より各部署の協力が得られやすくなった点だ。普段関わる機会の少ない人事担当者が協力を求めるより、普段隣り合わせで仕事をしている直属の部下が上司に働きかける方が施策の意義がスムーズに伝わる。上司は「協力しなければ」との思いが高まり、人事施策を実行しやすくなった。
デメリットは、メンバーが自分の通常業務に注力したい時期にPJとの兼ね合いが難しくなる点だ。特に事業が難航している際には社員からのPJへの視線が厳しくなる。メンバーの上司からPJに疑問が上がることもあり、その都度鈴木さんや社長自ら面談して再度PJの意義の理解や権威付けを促している。
「PJメンバーの巻き込み」から「会社全体の巻き込み」へ
3月でPJ開始から半年を迎える。鈴木さんは各PJの管理や会議や面談の対応もあり、業務量そのものが減ったわけではない。それでも「社員が動いてくれないストレスが軽減した(メリット)方が大きい」(鈴木さん)。
次に待ち受ける課題は「各部署の上司の巻き込み」だ。メンバーが積極的に組織課題の解決に動いても、それを各部署に伝える上司がPJを推進してくれなければ意味がない。PJの2期目となる4月以降は上司をPJメンバーに選び、上司のPJの理解促進や実践具合に変化があるか確かめる予定だ。
「全社的には変わっていない。もっと社員一人ひとりが『会社をつくる』感覚を持てるようにしたい」(鈴木さん)。PJメンバーの思いを動かすフェーズを終え、会社全体を巻き込んで動かす新たな試練にどう立ち向かうのか。ひとり人事の挑戦は続く。【取材・編集:@人事編集部】
企業情報
株式会社ビーボ
・事業内容:美容健康商材を中心に扱うD2C事業、メディア事業、コンサルティング事業、ウエブサービス・アプリ事業、医療サービス事業
・従業員数:120人(2019年2月時点)
・設立:2010年9月
・本社所在地:東京都港区北青山3-3-5 東京建物青山ビル5階
【編集部より】
「ひとり人事」の悩み解決に役立つ記事はこちら
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