活力を生み出すダイバーシティ(障がい者雇用編)
【第4回】ベンチャーマインドで障がい者雇用に挑戦~沖ワークウェル~(1)
2016.04.06
OKI(沖電気工業株式会社)の特例子会社OKIワークウェル(正式名称:株式会社沖ワークウェル)は、在宅勤務の障がい者が中心となり、ホームページ制作や顧客管理といったWebシステム開発などを行う。通勤が困難な重度肢体障がい者が自宅でパソコンとネットワークを使いこなし、2015年度売上は約2億を数える。同社の障がい者雇用の取り組みと、特例子会社の立ち上げについて取材をした(全2回)。【2015年12月取材:編集部】
鹿児島の自宅で東京からの仕事を受ける
鹿児島の自宅で仕事をする新原さん
「来月納期のポスター制作についてですが、資料を見ていただけますか」
「わかりました。指定のフォルダにアクセスします」
本社(東京)にいる十川清孝チームマネージャから音声通話ツール「ワークウェルコミュニケータ(WWC)」※を通じて指示を受けた新原弘一さんは、鹿児島の自宅からインターネットを通じて資料をダウンロードすると、さっそくポスターの図案の構想を始めた。
業務時間帯はメールやWWCを仮想のオフィスとして使用し、本社メンバーや全国にいる在宅勤務者間で頻繁に連絡を取り合いながら仕事を進める。主な仕事はホームページ制作や顧客管理といったWebシステムの開発などで親会社またはグループ企業からの依頼が中心だ。
東京で新原さんとやりとりをする十川氏
新原さんは現在、IT第二チームデザイン班に所属し、ポスターやイラスト、ロゴマーク、DTPによる冊子の作成などを行う。頚椎損傷の障がいのため首から下が麻痺し、握力はほぼないため、PC操作はトラックボールマウスを使用し、キーボードは専用の棒を指に挟みキーを1個ずつ押して入力を行いながら、デザインやメールでクライアントとやりとりもこなしている。「重い障がいがありながらも会社が体調に配慮してくださっているので仕事ができており、とても感謝しています」(新原さんのご家族)。
新原さんは2004年にOKIワークウェルが設立されたという新聞記事を見てメールで応募して入社した経緯を持つ。新原さんを採用し、現在、OKIワークウェルの代表を務める津田貴氏は障がい者の雇用環境についてこう話す。「意欲や能力がある障がい者に対して、働くことができる環境を作る必要がありますし、まずそういう環境があっても『知らない』ということはなくしていきたい」
障がい者雇用の仕組みをゼロからつくりあげる
OKIワークウェル代表の津田貴氏
OKIワークウェルは大手企業の特例子会社ではあるものの、最初から親会社の意向で設立された会社ではない。1996年に親会社のOKI内に設置された「社会貢献推進室」が母体となっている。推進室の初期メンバーはソフト開発部門から異動してきた津田氏と、総務部出身の木村良二氏の2人のみ。「まだ世の中でそんな会社はないのでやってみようと。社内ベンチャー提案制度で経営層に訴えて、スタートしました」(津田氏)。
IT企業らしい社会貢献活動の一環として、重度障がい者の在宅雇用を目指した。
障がい者の採用や雇用も手探りで始めた。重度障がい者のIT教育を長年やってきていた社会福祉法人に相談し、人材の紹介や在宅勤務のマニュアルを提供してもらった。「採用するうえで一番大切なのは『働く意欲』ですが、そういう場所に行く方はもともと働きたいという意欲があります。マニュアルは参考程度にして、実際に試しながら自分たちのものをつくりあげていきました。始業と終わりに挨拶があったほうがいいからメールでやろうというように」(津田氏)
ベンチャーマインドで試行錯誤を繰り返し、WWCのシステム開発や評価・人事制度を少しずつ整備していった。仕事もOKIの総務部の簡単なエクセル入力の仕事から始め、実績を積みあげ、OKIグループからの依頼を受けるまでに業務内容を拡大させていった。
会社の行事で足を骨折し、2カ月の自宅療養がキッカケで社会福祉分野へ興味を持ち、社会貢献推進室に異動してきた津田氏。会社の立ち上げをこう振り返る。
「医者ではないので障がいに関する専門的な知識はないですし、会社の制度や体制も整っていませんでしたが、それが障がい者雇用をやらない理由にはならない。失敗や苦労はありましたけど、自分たちがつくりあげたものを後で誰かが真似をする。それを最初にやる楽しみっていうのがありましたから。ベンチャーの意識でしたね」
同社は特例子会社化後、約10年で売上と障がいを持つ従業員の数が2倍に増えた。取り組みは厚労省をはじめ業界内外から評価を受け、毎年多くの企業が視察のため訪れる。
(次回に続く)
脚注と参考情報
※「ワークウェルコミュニケータ(WWC)」:インターネットを介し、PC上で在宅勤務者と本社社員など場所の離れた複数メンバー同士で一度に会話することが可能な常時接続型多地点コミュニケーションシステム。評価や労務管理にも役立てられる。
http://www.oww-networkers.net/wwc/index.html
「特例子会社制度の概要」【厚生労働省】
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha/dl/07.pdf
会社概要
株式会社 沖ワークウェル( 東京都港区芝浦)
OKIの特例子会社を目指し2004年に設立。全社員数74名のうち障がい者が62名。62名中41名が重度障がいの在宅勤務者。通勤困難な重度肢体障がい者は、自宅でパソコンとネットワークを活用してホームページ制作やWebシステム開発(顧客管理システム、研修システムなど)冊子類の編集や各種デザインなどの業務を行っている。
【HP】 http://www.okiworkwel.co.jp/
- 【第1回】企業風土が働きやすい環境を守る~ダイキンサンライズ摂津~
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- 【第3回】日本の障がい者雇用の現状と、障がい者雇用が生み出すメリット~キーパーソンに聞く・埼玉県立大学・朝日雅也教授
- 【第4回】スキルの高い障がい者を雇用できるよう教育支援に注力~OKIワークウェル~(2)
- 【第5回】スキルの高い障がい者を雇用できるよう教育支援に注力~OKIワークウェル~(2)
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