特集

社労士が解説する働き方改革のポイント vol.12


健康経営のためにも必要な「治療と雇用の両立支援」。企業のとるべき対策は?

2019.02.27

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2019年の4月から順次開始される働き方改革関連法の施行にあたって、人事がとるべき実務対応から働き方改革が持つ可能性を明らかにする連載「2019年4月施行。社労士が解説する働き方改革のポイント」。

今回は、働き方改革の中の「治療と雇用の両立支援」と「健康経営」について解説します。
治療と雇用の両立は、ただ単に労働者を保護するだけにとどまりません。これからは企業の義務だという認識を持つ必要があります。

※関連:2019年4月施行。社労士が解説する働き方改革のポイント【特集トップ】

目次
  1. いま企業に求められる治療と雇用の両立支援
  2. がん患者に対しての雇用義務について
  3. 両立支援のための具体的な対策

いま企業に求められる治療と雇用の両立支援

働き方改革が目指すことの中で最も重要な1つは「多様な働き方」の実現です。
特にその対象となるのは、これまではできなかった働き方を望む人や、働きたくても働けなかった人でしょう。

そのケースは大きく2つに分類できます。

1つは、育児や介護の後で職場復帰をされた方や、中年期以降の有期労働者の方など、いままでに正当な待遇・評価を受けていないと考えられる方の雇用状態を改善するというケースです。

もう1つは、高齢者・障碍者・罹患者など、いままで働くこと自体が難しいと見なされてきた方の働く場を広げていくというケースです。

病気に罹患した方の治療と雇用の両立支援は、2つ目のパターンの典型です。働き方改革で政策方針の1つとして採り上げられるまで、障碍者や高齢者と比較すると注目されてこなかったといえます。

がん患者に対しての雇用義務について

病気の治療と雇用の両立支援については、社会的にもニーズがとても高まっているといえます。厚生労働省の資料によれば、医療技術が進歩したために、治療を受けながら仕事を続ける人が増えているようです。

特にがん治療においてその傾向が高く、がんと診断された後の5年生存率は一貫して上がり続けており、入院でなく外来で治療する患者数は増え続けています。また通院しながら働く方も、現在は30万人を超えています。

がん患者の 5 年相対生存率の推移のグラフ

入院患者・外来患者数の推移

参考資料:事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドラインについて(平成28年2月厚生労働省)

このほかにも厚生労働省の調査によれば、1カ月以上休職している社員の疾病の割合は、メンタルヘルス38%、がん21%、脳血管疾患が21%となっています。がんの割合が2割というのは意外と多いのではないでしょうか。

こうした対象者が発生した場合に、業務能力が完全に失われるケースの他は、退職や解雇を行うことは基本的に違法であると考えられます。一般的な解雇法理においては、解雇には「客観的に見て合理的で、社会通念上相当といえる理由があること」が必要となります。
この基準において、労働能力が大きく損なわれていない限りは、罹患は原則として解雇する事由に当たらないと解されるためです。

また2013年改正の障害者雇用促進法において、企業は心身に障害のある労働者に対して、配慮をしながら雇用を維持することが義務付けられました。ある程度労働能力が損なわれた場合であっても、こうした法令が適用、あるいは準用されると考えられ、さらに就業を継続させる必要性が高まっています。
あまり認識されていないように思いますが、治療と雇用の両立は企業の義務であるという視点が大変重要であると思います。

参考:障害者雇用の現状と課題 「自分の価値を発揮する」意識の定着化が鍵

両立支援のための具体的な対策

治療と雇用の両立支援が求められる中で企業のとるべき対策は?イメージ画像

こうした病気の治療と雇用の両立の支援のための対策としては、以下のようなことが考えられます。これらは企業の規模を問わず、必要な対応であるといえます。

① 素早く罹患を把握するルール作り

病気の罹患時や不調時に、企業側で状況を把握できるようなルールの整備が必要であるといえます。がんのような身体的疾患でも、症状が疑わしい段階で早めに把握することが、体制の維持や素早い対応につながります。すぐに共有することを促すような企業の中での広報や、信頼関係づくりが大切でしょう。

また、メンタルヘルスの不調に関しても早期発見が特に重要であるといわれています。うつ病の罹患については、社員がどの程度のストレスを感じているのかを把握する必要があります。一定規模以上の企業ではストレスチェックの実施が義務となっていますが、日頃から社員の心理状態を把握できるようなマネジメント体制づくりも重要です。

② 健康管理のための体制の整備

治療と雇用との両立支援では、専門性が高い医療や臨床心理的な配慮が求められることが多く、社内外の産業医・保健師・カウンセラーや健康保険関連スタッフの助言が欠かせません。

また、働き方改革全般で健康管理への要請は強く、例えば残業時間に関する36協定の締結時には、特別条項に該当する残業者が出た場合の健康確保措置を明記することも義務付けられました。従業員数50人以上の企業では産業医の選任が義務付けられているので、選任していなかったり形骸化している企業は直ちに見直しが必要です。

③ 両立支援への理解は経営層や管理職層にも必要

社員の健康の確保や治療との両立支援は、周囲の理解がないとなかなかうまく進められません。そして実際の事例を踏まえますと、社内での役割ごとに、理解すべき点は異なると思います。

・経営層は両立支援そのものへの理解や、経営的にもそれが合理的な対応であることを理解することが重要です。

・管理職層は現場での早期発見の方法と、その後の対応について理解しておくことが求められます。定められたルールに基づいて、対象者の働き方の調整や、必要があれば要員確保の体制整備、社内の健康管理体制との接続が必要です。

・一般社員は、両立支援の必要性や該当する社員が健康状態によって働き方が変わる可能性があること、またほかの人と協力して仕事を遂行していく方法を考えておく必要があります。

参考:社員がうつ病になった際、会社が行うべき3つの初期対応

健康経営が企業のステータスに

このように、社内の階層ごとに必要な対応を理解していくことで、治療との両立支援に適した体制が整っていくのではないかと考えられます。

また、関連した事項として「健康経営」が近頃非常に注目されています。健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する経営方針のことです。従業員への健康投資を行うことは、活力向上や生産性の向上などの組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながることが期待されます。

経済産業省や厚生労働省でも外部の団体と連携して健康経営が推奨されており、上場企業が対象となる「健康経営銘柄」の選定や、「健康経営認定優良法人」の認定・選定が行われています。こうした認定がされると融資や公共発注での優遇がされるとともに、広報が強化され、人材採用などでも有利になると思われます。

病気の治療と雇用の両立支援を進めることは全ての企業の義務であるとともに、積極的に工夫することで経営上の変革を推進し、企業の大きな魅力につながるような領域です。

執筆者紹介

松井勇策(まつい・ゆうさく)(組織コンサルタント・社労士・公認心理師) フォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表、情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議議長・責任者。 最新の法制度に関する、企業の雇用実務への適用やコンサルティングを行っている。人的資本については2020年当時から研究・先行した実務に着手。国際資格も多数保持。ほかIPO上場整備支援、人事制度構築、エンゲージメントサーベイや適性検査等のHRテック商品開発支援等。前職の㈱リクルートにおいて、組織人事コンサルティング・東証一部上場時の上場監査の事業部責任者等を歴任。心理査定や組織調査等の商品を。 著書「現代の人事の最新課題」日本テレビ「スッキリ」雇用問題コメンテーター出演、ほか寄稿多数。 【フォレストコンサルティング経営人事フォーラム】 https://forestconsulting1.jpn.org

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