コラム

左遷はチャンス【第1回】


左遷はなぜ生じるのか?(『左遷論』著者・楠木新氏寄稿)

2016.03.25

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私は、この1年間、左遷の用例を調べ、日本企業のみならず外資系企業の人事担当者、キャリア官僚の元人事課長にも取材を行い、左遷されたという会社員にも個別にヒアリングを実施してきた。また左遷をテーマにした古典や小説、映画にも数多くあたってきた。

左遷の面白いところは、組織側の論理を推量できるとともに、社員側の働き方の課題、対応策も見えてくることだ。そういう意味では、左遷は組織と社員との接点にある特殊な概念である。今回@人事にて3回にわたって「左遷」について書く機会をいただいた。今回は、「左遷はなぜ生じるのか?」について考えてみたい。

目次
  1. 人事異動の意図や理由を説明しない
  2. 組織やポストに序列がある
  3. 「自分のことは3割高く評価している」
  4. 背後には日本型の雇用システムがある

人事異動の意図や理由を説明しない

人事部内では、左遷は、建前上は存在していない。適材適所が原則だからだ。ところが社員が左遷だと受け取ることは日常茶飯事である。このギャップが生じるのは、人事異動の意図や理由を社員にきちんと説明しないことが一因だ。日本の企業では、言わないでも分かるだろうという雰囲気が強い。

異動の権限は、会社が一方的に持っていると考えているので、社員はオープンに聞きづらいという心理もある。会社の意図を誤解して左遷されたと勘違いしたある社員も、異動の理由を誰かに確かめたことはなかったそうだ。ただ、人事部や上司が一人一人に納得いくまで説明するには、自ずと限界があることは言うまでもない。

組織やポストに序列がある

組織やポストについての序列意識が強いことも関係している。組織図の上では、横並びであるはずの部や課であっても、組織パワーや位置づけに差異がある。また同じ本店の課長職でもポストの持つ力やその後の昇進の可能性に格差がある。

本来ならば、仕事の内容が第一であるはずなのに、どの職場で働いているか、どのポストに就いているかが重要視される。この組織偏重とも呼ぶべき実態が左遷を呼び込んでいる。降格ではなく、給与も下がらないのに左遷だと受け取るケースもある。特に、霞が関のキャリア官僚は、組織やポストに対する序列意識が強い。

「自分のことは3割高く評価している」

かつて私は支社内で女性事務職の大幅な人事異動を行った。全力で取り組み、業務に支障も生じなかった。ところが半数の5割ではなく、社員の7~8割くらいが不満を持っていた。納得がいかなかったので、対象者一人一人に改めて話を聞いたことがある。そこで分かったのは、各社員は自分のことを3割程度高く評価していたことだ。一方、他の同僚に対する異動に関しては問題なしと判断していた。実際よりも自分を高く見積もっているので、客観的には問題のない異動も左遷に思えてしまう心理が働く。

背後には日本型の雇用システムがある

米国や欧州の外資系企業で人事担当者として働いたことがあるビジネスパーソンに聞くと、左遷のような微妙なニュアンスを含んだ概念はないという。
欧米では、個別の仕事が個人と結びついているので、そもそも定期異動が存在しない。欠員がでたときにその仕事に見合った人材を募集して補充すれば足りるからである。

定期異動で多くの社員を一度に動かすというのは、一人一人の社員と個別の仕事との結びつきが弱いからである。また対象の社員が取り替え可能な人材であり、同等な能力があるということを一応の前提にしておかなければできない。

日本では、欧米と異なり、新卒一括採用が中心で、毎年同期として同じスタートラインにつく。全員が頑張るという文化があり、同期同士の競争もあるので比較する意識が高まる。これが左遷の感情を生みやすい。欧米には、「同期入社」という概念すら存在しない。こうしてみてくると、左遷の背後には、日本型の雇用システムが横たわっていることが分かる。

次回は、左遷に遭遇して、それをチャンスに変えた方も紹介しながら、社員側の対応について考えてみたい。

※『日本国語大辞典』(小学館)によれば、「左遷」は、「(昔、中国で右を尊び左を卑しんだところから)朝廷の内官から外官にさげること。また、一般に、それまでよりも低い官職、地位に落とすこと。中央から地方に移すこと。左降。さすらい」とされている。

>>>「【第2回】左遷をチャンスにするには?」に続く

『左遷論 - 組織の論理、個人の心理』
楠木新氏の近著
『左遷論 – 組織の論理、個人の心理』
出版社:中央公論新社
発売日:2016年2月24日
価格:886円
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内容:左遷という言葉は「低い役職・地位に落とすこと」の意味で広く用いられる。当人にとって不本意で、理不尽と思える人事も、組織の論理からすれば筋が通っている場合は少なくない。人は誰しも自分を高めに評価し、客観視は難しいという側面もある。本書では左遷のメカニズムを、長期安定雇用、年次別一括管理、年功的な人事評価といった日本独自の雇用慣行から分析。組織で働く個人がどう対処すべきかも具体的に提言する(Amazonページより)。

執筆者紹介

楠木新(くすのき・あらた)(人事コンサルタント) 1979年京都大学法学部卒業後、大手生命保険会社に入社し、人事・労務関係を中心に、経営企画、支社長を経験。勤務と並行して、「働く意味」をテーマに取材・執筆・講演・大学講師に従事。朝日新聞beにて、「こころの定年」を一年余り連載。15年に定年退職。「人事部は見ている。」(日経プレミアシリーズ)「働かないオジサンの給与はなぜ高いのか」(新潮新書)など著書多数。16年2月に、「左遷論」(中公新書)を出版。

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