社員に選ばれる会社の人事制度・人材開発
ニーズが高まる“在宅勤務”。企業は本当に取り入れるべき?
2019.02.22
オフィスで行う業務の場合、ネットワーク環境が整えば自宅や社外でも仕事ができるようになりつつあります。そのため、在宅勤務(「リモートワーク」「Work From Home」とも呼ばれる)を制度として設けている企業が増えてきています。
今回は、在宅勤務制度を推進している・あえて実施していないケースと、導入・運用に伴う考慮点について述べたいと思います。
いま企業が在宅勤務制度を検討・導入する背景
在宅勤務制度は、労働人口の減少に対応するための施策の1つではないかと思います。労働人口が減ることで、不要になる・縮小するサービスもあるかもしれません。しかし、一度享受した利便性を維持してほしいという消費者からの需要が、企業の事業継続のニーズにもつながっているとも言えます。
そのような状況で、「フルタイム勤務かつ転勤も可」という方だけで事業を継続しようとすると、継続に必要なだけのマンパワー(社員)を保持できなくなるかもしれません。そのため、企業も社員の多様性を受け止めるための土壌をつくる必要性が出ています。
厚生労働省が2016年にまとめた「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」という報告書の中でも、「時間や空間にしばられない働き方」として「各個人が、自分の意思で働く場所と時間を選べ」「自分のライフスタイルが自分で選べる」ことが重要だと記載されています。
そういった状況をふまえて、オフィス以外で勤務しても業務遂行ができるような環境を構築した上で、在宅勤務を認めている企業は増えています。まず、在宅勤務を推進しているケースをみてみましょう。
参考:管理職の8割がテレワーク推進派 現状は過半数が利用せず
企業が在宅勤務を推進しているケース
例えば、製薬会社のMSD社の情報システム部門では、日数に上限のない在宅勤務を認めています。1人当たりの月間での在宅勤務日数は導入時よりも増えつつあり、特に子供が夏休みである8月は在宅勤務の使用日数が多いようです。
また、ヤフー株式会社では「どこでもオフィス」と呼ばれる、場所を選ばずどこでも仕事ができる制度があります。在宅勤務だけではなく、社外の生産性が上がる場所で勤務することが許可されているとのことです。
参考:社員の要望をカタチに在宅勤務をスタート~NTT都市開発~
在宅勤務を取り入れていないケース
次に在宅勤務制度を取り入れていないケースをあげたいと思います。
株式会社メルカリは、在宅勤務(リモートワーク)を禁止しています。その背景として、組織において重要なことは「周りの顔が見えて一体感がある、頼れる仲間がいると感じること」だと考えているからだそうです。また、社内の空気感や言語にならないカルチャーを肌身で感じ取ってほしいという狙いがあるようです。
また、ウォンテッドリー株式会社は、在宅勤務を禁止はしていないものの推奨はしていないとのことです。「直接のコミュニケーションの方が正確に情報や意図が伝わり、トラブルがあった時の処理もスピードが早い」と考えているからだそうです。「家よりも働きやすい快適なオフィス環境」を整備したことも、そういった思想の表れでしょう。
参考:【専門家に聞く】中小企業のテレワーク推進を阻む4つの要因と解決策
在宅勤務の場合、評価は成果がメインに
「在宅勤務は家で勤務するから楽なのでは?」と思うかもしれませんが、実際にはその反対ではないかと思います。上司と部下が常に同じ場所で勤務しているわけではないので、業務に対する評価も「何時間勤務したから」「何日休んだから」「こういったやり方だったから」といったことは重要視されません。「最後に出したパフォーマンス=結果・成果」がどのようなものだったのかが評価の基準となります。
参考:城繁幸氏が語る、日本企業でテレワークがいまいち普及しないわけ
導入しない方がよい場合は?
「勤務開始時・終了時に上司にメール(電話)で連絡する」「1日2回はオンラインで業務報告をする」「PCの使用ログを取って勤務実績報告とつきあわせる」
在宅勤務制度に、このような「性悪説」に基づく管理方法を取り入れようとしている場合、そもそもこういった制度を導入することはお勧めしません。なぜなら「社員を信頼している」ことが在宅勤務制度の前提となっているからです。管理工数だけが増え、業務が煩雑になってしまうようでは導入してもメリットは生まれません。
企業が在宅勤務制度に期待できる効果
在宅勤務制度を実施することで、社員は「勤務スタイル」の選択肢が増えることになります。育児・介護といった家庭の事情で在宅が必要な状況でも通常勤務が継続できるだけではなく、多様化しつつあるライフスタイルにも適しているので、人材保持の視点でも有効な施策と言えます。
また、そういった企業であることが周知されることで「働きやすい会社」として世間から認識されるので、採用戦略としてもプラスの影響を及ぼすでしょう。
【編集部より】
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永見昌彦(ながみ・まさひこ) アルドーニ株式会社代表取締役。外資系コンサルティングファームなどで人事コンサルタントとして勤務した後、事業会社(ラグジュアリーブランド持株会社)で人事企画担当マネージャーとして人材開発・人事システム・人事企画を兼務。事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして、2016年にフリーランス人事プランナー・コンサルタントとして独立。2018年に法人化。現在、人事全般のプランニング・コンサルティング・実務にたずさわっている。
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