特集

活力を生み出すダイバーシティ(女性活躍推進編)


【第5回】人事担当者に求められるワークライフバランス定着のポイント

2016.04.01

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ワークライフバランスは福利厚生のためだけにあらず――。従来の考え方から脱却し、ワークライフバランスを経営戦略(ダイバーシティ)の一環として推進しようとする企業が増えてきている。なぜ、経営戦略として重要なのか。ワークライフバランスコンサルタントとして多くの講演やセミナーを実施している武部純子氏に話を聞いた。(聞き手:編集部。取材:2015年12月)

優秀な人材の獲得・定着、新たな発想・企画、生産性の向上を図ることができる

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武部純子氏

―武部さんが考える「ワークライフバランスは社員への福利厚生ではなく、経営戦略として重要」とは具体的どういうことか。

この考え方自体はすでに定着してきていますが、なぜ重要なのか。私は3つのポイントを挙げます。1つ目は、優秀な人材の確保のためです。ここ数年、ワークライフバランスという言葉が一番定着しているのは新入社員層です。

いまの学生は、会社に滅私奉公して出世を目指すより、自分の生活も大事にしたいと考える層が多い。結婚後に共働きを考える人も増えているので、会社を選ぶ際に「ワークライフバランスが取れているか」は重要視されるのです。

―採用の先にある定着、すなわち雇用についても同様に重要になりますか。

せっかく優秀な人材を採用しても、辞められてしまえば、予定していた事業の立ち上げや拡張ができないなど経営戦略的に大きな損失となるのは当然です。それまでかかっていた教育コストや採用コストも再び計上してしまう。

有名な話ですが、サイボウズさんの例があります。生活を重視したい人、働きたい人たちで人事制度を分けたとたんに、5割近かった離職率が、数パーセントまでに下がりました。これからは企業規模や業種に関わらず、優秀な人材の確保・定着のために、経営戦略の一環としてワークライフバランスの推進が重要になります。

ワークライフバランスが生産性を向上させる

―採用、雇用以外にはどういった点が重要になりますか。

2つ目は、新しい発想や創意工夫を生み出すために大切だと言えます。新しいサービスや商品を生み出せるかどうかも、経営戦略上無視できません。創意工夫や新しい発想というものは、仕事一辺倒だと生まれにくくなります。24時間仕事や会社のことばかりを考えていると、視野が狭くなり、その会社の理屈の中でしか物事を考えられなくなってしまうのではないでしょうか。

ワークライフバランスを実践するということは、自分がひとりの市民として働き、しっかりと社会生活を営むということですから、消費者や生活者の視点で物事を考えたり、見たりすることができます。また、自分の時間を持って、趣味や好きなことをやることで、仕事にもプラスのフィードバックを得ることがあります。それが新しい発想につながるのです。

―仕事をする時間、会社にいる時間を減らすことが逆に会社の利益につながるということですか。

そうなります。その考えから、3つ目のポイントとして、生産性の向上のために重要だということを指摘します。少しでも早く帰るために、「どのように行動すれば良いのか」と考えることから、働き方の工夫や新しい発想が生み出され、生産性が上がることにつながります。労働時間の短い会社のほうが生産性は高いというのは国内外のデータにもはっきりと示されています。

日本は欧米諸国と比較して、労働生産性は低いですし、国際競争力をつけていくためにも、やはりワークライフバランスが必要なのです。こうしたことから総合的に考えても、ワークライフバランスは、社員への福利厚生ではなく、経営戦略上重要な取り組みだといえます。

ワークライフバランスを定着させるために人事がすべきこと

―いまワークライフバランスの重要性が叫ばれているのは、裏を返せば、まだ日本では浸透させにくい状況があるからとも言えます。

たとえば、職場に初めて結婚、または育児中の女性社員が誕生した場合はおそらく、周囲に比較的応援する雰囲気があると思います。周囲の社員自身も、「自分もそういう風に育児休業を取りたい」と、特に若い社員は考えるでしょう。しかし、複数すでにそういう人たちがいる状況になると、「あの人が休む分、また私たちにしわ寄せが来る」という考えが出てきて、当事者もそれを感じて、休みをとりにくくなる。休みどころか、その手前の結婚や出産を控えるようにもなってしまう。

そのようなケースにおいて、私はいつもキーワードとしてお話しするのですが、「ワークライフバランスは老若男女のもの」です。決して、既婚女性のための優遇政策ではないのです。

―つまり、全社員のあらゆる時期において大切なことだということですか。

初めに話した、経営戦略として大切だということとリンクしますが、決して、働き続けたいという子育て中の女性だけのためだけではなく、子育て中の男性はもちろん、思春期の子どもがいる親にとっては子どもと向き合うことが大事な時期ですし、年配になれば子育てが終わり、これからの人生をパートナーとどう向き合っていくかということも大事になります。

会社以外のコミュニケーションをとる時間、居場所というものを作っておかなくてはいけないですし、そして若い男女にとっては、先ほどお話ししたような、趣味を持つことなどが仕事にもつながっていく。そう考えると、子育て中の女性だけを対象にワークライフバランスを図るのではなく、「すべての社員にとって大切」ということを全社員一人ひとりが意識変革できるよう、推進していく必要があります。

―人事担当者はどのように推進していけば良いでしょうか。

いま、周囲に「申し訳ない」と思いながら必死に頑張っている女性社員が多いと思いますが、なかには「権利だから当然だ」という人がいて、周囲が困っているケースもあります。ワーキングマザーや子育てに積極的な男性が定着している会社では、周囲の支える社員に負担がかかっているという現象が起きている。周りの不満は権利をとる側が肩身の狭い思いをすることにもなります。

人事の方に言うのは、若い独身の男性・女性社員に対しても、有給休暇をとったり、早く帰ったりして、自分の好きなことに時間を使えるように応援し、保障してあげること。そういう“おかげさま”“お互い様”ということが風土としてある会社にしていくことです。人事担当者にとっての使命は、全社員に目配りをすること。それがワークライフバランスを定着させることになると思います。

プロフィール

武部純子(たけべ・じゅんこ)
ワークライフバランスコンサルタント

社会保険労務士の経験をいかしたコンサルタントとして、女性の活躍推進やワークライフバランスなどをテーマにしたセミナー・講演の実績がある。著書に『脱・不機嫌な女』 (柏書房)、『麻布アメフト部員が育つまで ~と、母が見た麻布~』 (エール出版社)。ワークライフバランスコンサルティング
【HP】http://www.wlbc.jp/

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