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特集

特集「介護離職」第3弾


中小企業でも今すぐできる、介護離職防止の基本と対応策

2019.03.19

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介護は誰にいつ、どんな状況で始まるか予想できない。だからこそ、全ての企業がなるべく早く介護離職防止策について考え、備えるべきだ。

@人事では、介護転職(離職)を経験して現在は「介護離職防止対策促進機構」の代表理事を務める和氣美枝さんに取材。介護離職してしまう人の特徴、介護者がほしい情報、企業が介護離職防止策として今すぐできることを聞いた。中小企業や特別な制度がない会社でも実践できるノウハウを伝える。

【特集】介護離職(トップページ)

目次
  1. 介護開始直後の混乱が離職原因に
  2. 介護者をなるべく早く介護の専門家につなげる
  3. トップメッセージで「介護離職防止」の雰囲気を醸成する
  4. 介護者と介護予備軍を把握し、それぞれに必要な情報を届ける
  5. 介護離職を防ぐのに一番効果的なのは「騒ぐこと」

介護開始直後の混乱が離職原因に

介護離職の原因となりやすいのが「介護開始直後(初動時)の混乱」だ。この時、介護者はどのような精神状態になってしまうのか。

和氣さんは「そもそも、介護者は『自分が介護をしていること』にすら気付けない」と説明する。介護が始まるパターンは、けがや病気の発見・延長から始まるケース、家族や医師が心身の異変に気付くケースなどさまざまだ。しかし、介護者は事前に「介護が始まること」が何なのかを知らないため、経験がない出来事に直面して介護が始まったことに気付けない。介護のために手続きすべきこと、悩みを解決できることがあっても、このような状態ではどこの誰に相談し、何をしたらいいのか分からない。介護者は「分からないことが分からない」状態に陥るのだ。

また、介護者には自分だけで家族を介護しようと抱え込み、他の家族やケアマネジャーに悩みを相談できない人もいる。職場で「介護」というプライベートな事情を公にしたくない、自分のキャリアに傷がつくかもしれない、職場の同僚に迷惑をかけたくない……と考え、会社にも相談できなくなると、より一層介護離職になる可能性が高まる。

介護者をなるべく早く介護の専門家につなげる

社員の介護離職を防ぐために、企業がすべきことは何なのか。和氣さんは「周知すること、それが全て」と強調する。

介護離職防止対策促進機構の和氣美枝さん①

介護が始まった人に対しては、専門の相談窓口になるべく早くつなげることが大切だ。全国の各地域に設置された「地域包括支援センター」では、社会福祉士や保健師、ケアマネジャーらが住民の介護全般の相談を受け付けている。企業はまず、社員にセンターの存在を知ってもらい、介護を必要とする人の居住地がどのセンターに該当するか調べることから支援できる。

和氣さんによると、介護者は突然介護に直面して何をするべきか分からず、煮詰まってしまうことが多い。なるべく早期に介護の知識がある専門家と出会い、さまざまな介護の「選択肢」があることに気付くだけで、介護者の心身の状態は大きく変わるそうだ。和氣さんは「介護者の不幸は選択肢がないこと。情報(選択肢)を提供できる、介護の知識のある人につないでほしい」と訴える。

センターのほか、介護者が集まる会を紹介することも重要な情報提供となる。また、可能であれば社内で介護を経験している社員に引き合わせることも勧める。

トップメッセージで「介護離職防止」の雰囲気を醸成する

人事担当者が介護離職防止策を進める上で、経営者が全社員にトップメッセージを出すのも効果的だ。企業の姿勢として「社員に介護離職をしないでほしい」と考えていることが伝わり、「これだけで一定数の介護離職を防ぐことができる」(和氣さん)。また、経営者の後押しを受けることで、人事部が実際の離職防止策に取り組みやすくなることもある。

もし、経営者からの理解を得られない場合は、労働組合や介護経験者の社員と協力して「ボトムアップで経営者に介護離職防止の重要性を訴えるといい」(和氣さん)。それでも難しい場合は、2016年に政府が「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定して介護離職ゼロを掲げたこと、経団連が「仕事と介護の両立支援」に関する報告書を出していることを伝える。介護離職防止が社会的な課題として捉えられていることを強調し、対策の重要性を訴えるべきだ。

介護者と介護予備軍を把握し、それぞれに必要な情報を届ける

介護離職防止の根幹である「社員への周知」だが、具体的にはどのような情報を周知すべきなのか。

情報の内容は対象者が介護者か、介護予備軍(介護をしていない社員)かによって異なる。まずは社内で誰が介護をしていて、誰が介護していないのか、毎年行う人事面談やキャリア相談の際にヒアリングして実態を把握できるといい。

介護予備軍に届けるべき情報は、介護初動時に向けた備えだ。介護はどのように始まるのか。介護認定を取って介護サービスを受けるためにどの機関に行き、担当者に何を伝え、手続きには何を持参するのか。社内の制度を使いたい場合はどのように申請すればいいのか……。介護保険制度や社内の支援制度の内容を単純に伝えるのではなく、それらを利用する際の「行動」を具体的かつ丁寧に伝えなければならない。和氣さんは「最低でも『介護が始まったら地域包括支援センターに行く』ことは覚えてもらいたい」と話す。これらの情報があれば、介護初動時の混乱を軽減できる。

介護離職防止対策促進機構の和氣美枝さん

介護が始まった社員には、仕事と介護を両立したいのか、どのような形で両立したいのか、離職を考えている場合はその理由は何なのか、丁寧に聞くことから始まる。その内容に応じて、必要な制度や手続きを伝えるといい。「両立を希望する社員には、介護との兼ね合いを考えて週3日の勤務に変更する提案もできるかもしれない。もちろん、それに伴うデメリットも話し合った上で、選択肢を示す」(和氣さん)

和氣さんによると、介護者にとっては仕事が介護中の気分転換になるケースもある。社員が介護中も仕事にやりがいを感じられるよう、社員に合った業務上の目標を立てて、達成できるように支援することも大切だ。一方で、社員の状況や考え方によっては離職や休職も選択肢の一つとなる。退職の理由が介護を含めさまざまな原因が複合的に絡んでいる場合もあるため、状況に応じて多くの選択肢(情報)を提供する。

人事担当者が一貫して意識すべきことは「社員一人一人に手渡しするような気持ちで、丁寧に情報提供すること」(和氣さん)。ただし、社員数が増えると、人事部だけで全社員にそのように接することは難しい。そこで重要になるのが各職場の管理職の協力だ。管理職は現場の社員にとって「最初の相談先」となる可能性がある。管理職が介護の知識が少なく、誤った判断や情報提供をしないように、管理職研修も欠かせない。介護休業や休暇の知識、社員が諸制度の利用時に必要な手続きも理解してもらい、管理職が「正しい情報提供者」になれるようにする。また、管理職では判断や対応が難しい事案は、なるべく早く人事部に連絡するように声を掛けるのも必要だ。「人事担当者は管理職に『部下の介護の問題を一人で抱えないでほしい』と伝えてほしい」(和氣さん)

介護離職を防ぐのに一番効果的なのは「騒ぐこと」

最新の平成29年就業構造基本調査(総務省統計局)で過去5年の介護離職者の推移を見ると企業ができる対策にも応用できる重要なヒントが隠されている。

平成29年就業構造基本調査(総務省統計局)で過去5年の介護離職者の推移

平成29年就業構造基本調査(総務省統計局)を基に@人事編集部が作成

「介護・看護のため」前職を離職した人は14年10月~15年9月で10万人に達していた。15年10月~16年9月には8万1200人に減少したが、2016年10月以降は9万9100人と増加している。

和氣さんはこの理由を15~16年に介護離職が全国的に周知されたからと考える。政府は15年に『新・三本の矢』として介護離職ゼロを打ち出し、16年にはニッポン一億総活躍プランを閣議決定。メディアが一斉に「介護離職」を取り上げ、離職した人々の現実が度々強調された結果、「介護離職」の言葉が浸透して介護離職者が減少した。しかし、働き方改革をはじめとする新たな社会問題が注目されると、再び増加してしまった。

会社の中でも同じ現象が起こり得る。介護離職を防ぐために最も効果があるのは「騒ぐこと」(和氣さん)だ。制度を周知させて離職防止のメッセージを伝え続けることで、会社の雰囲気は必ず変化し、離職防止につながる。和氣さんは「介護者が各種制度を知った上で利用するかどうかは本人の意思次第。しかし、制度を知らないために利用できないのは違う。いざ社員が介護に直面したとき、社内に掲示された介護離職防止のポスターがふっと見えるだけで、人生が変わるかもしれない」(和氣さん)

福利厚生として「介護相談窓口」を設けるだけでもいい。会社近くの地域包括支援センターのチラシを置くだけでも、十分周知になりえる。和氣さんは「重要なのは、制度の利用率ではなく周知率。その努力をし続けてほしい」と呼び掛けている。

和氣美枝(わき・みえ)

1971年埼玉県生まれ。マンションデベロッパー業界で働いていた32歳の時、母が精神疾患となり、38歳で介護転職(離職)する。40歳の時、介護者の支援団体で悩みを聞いてもらい救われた経験から、自身も介護者をサポートする活動を開始。2014年に株式会社ウェブユニオン内にワーク&ケアバランス研究所(2018年に法人化)、2016年に介護離職防止対策促進機構を設立。著書に『介護離職しない、させない』(毎日新聞出版)、『仕事と介護の両立をサポート! 介護に直面した従業員に人事労務担当者ができるアドバイス』(第一法規)。

【編集部より】
■介護離職に関する記事はこちら

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