オフィス新時代。大手デベロッパーが新事業にかじを切った理由
オフィスの在り方について、三菱地所グループがどうしても言いたいこと(後編)
2019.02.12
@人事では特別企画として、大手デベロッパー「三菱地所グループ」がオフィスに関して新たな挑戦を続ける思いを明らかにしてきた。後編となる今回は、三菱地所レジデンスが2014年から新たに取り組む「Reビル事業」に焦点を当てる。大規模な都市開発によるオフィス賃貸が中心だった同グループが、築古の中小規模物件のリノベーション事業に踏み切った背景とは。実際にスタートアップから人気を集める物件を紹介しながら、三菱地所グループがオフィス新時代に「多様な働き方」を実現させる理由を明らかにする。(前編はこちら。オフィス新時代。本社移転に踏み切った「大手財閥の本気」)【取材:2018年12月12日】
企業が入居後にアレンジできる、自由度の高い物件
Reビル事業の物件の一つ「ザ・パークレックス日本橋馬喰町」。ガラス張りの扉の先には、開放感のある空間が広がり、人工芝でできたじゅうたんや白いブランコが目に飛び込んでくる。フロア内にはコーヒーカウンターとワインセラーもあり、一見するとオフィスとは思えないようなデザインだ。
このビルは築30年以上で、以前はブライダル用品のショールーム兼倉庫として使われていた。築年数の経過から持ち主が新たな活用方法を模索し、三菱地所レジデンスが「UNDER CONSTRUCTION(工事中)」をコンセプトにリノベーションを実施。従前の倉庫としての機能を生かし、間仕切りや設備、装飾のないシンプルな空間に仕上げた。コンセプトを意識し、天井や壁はコンクリートむき出しのスケルトン状態にして、外装もあえてタイルを剥がしグレーに塗装している。
Reビル事業の物件の特徴は、入居企業が自社の業態や働き方に合わせてオフィスを自由にアレンジできること。
Reビル事業部リーダーの酒井勇生さんによると、通常のオフィスリノベーションでは床を新しくして天井パネルを貼り、新築に近い形で提供することが多い。Reビル事業の物件ではあえて床や天井を剥がした状態で提供し、入居後の装飾やカスタマイズの自由度を高くしているという。
実際に入居した企業はさまざまな工夫を凝らしている。キッチンを設置して社員のコミュニケーションの場にする、靴を脱いで自由にブレインストーミングできる空間にする、全員がそれぞれの要望に合わせて異なるデスクと椅子を使い、各個人のパフォーマンスを高める――。彼らは独自にオフィス空間をアレンジすることで、社員の交流促進やアイデア創出を促し、「働く原動力」を高めていた。
「三菱地所グループが築古の中小規模物件を改装」のギャップが新規顧客獲得に
Reビル事業で賃借し、リノベーションが完了した物件数(2018年12月稼働中)は東京都中央区、千代田区を中心に都内で11棟に及ぶ。計約40のテナントが入居し、同12月時点でほぼ満室となっていた。
入居する企業は、社員数が数人~30人ほどのスタートアップが多い。スタートアップは自分らしさを出すために「一からオフィスをつくりたい」というニーズが高く、Reビル事業との親和性が高いそうだ。三菱地所グループが丸の内を中心に各地で展開する新築ビルと比べて、スタートアップでも入居しやすい賃料で入居できるのも魅力となっている。
これまで、三菱地所グループは都市部を中心に大規模な都市開発を行ってきた。一般的には「三菱地所の物件は設備も立地がいいが、広すぎる」「条件が良いため値段も高いのでは」と思われることがあるかもしれない。しかし、Reビル事業では周辺へのアクセスが良い場所で、オフィス規模も賃料も手が届きやすい物件に仕上げた。伝統とブランド力のある三菱地所グループが、築古の中小規模物件を手がけるギャップも相まって、これまでに獲得が難しかった新たな企業層から好評を得ている。
「スケルトン状態で、床も天井も、柱も全てむき出し。一見やんちゃにも見える物件を三菱地所が提供しているという点で、オーナー様やテナント様から『安心感がある』と評価をいただいている」(酒井さん)
オフィスを持たない選択肢がある今、「出社したくなる場所」をつくる
そもそも、新規事業は三菱地所レジデンスが主軸とする住宅開発から着想している。築年数の古い住宅物件をリノベーションして売り出す中で得たノウハウを、オフィス賃貸でも活用する狙いがあった。これまでになかった形態の物件は、結果として同グループの新規顧客の獲得に結びついている。
また、近年は働き方や働く場所に対する考え方が変化している。「社員が全員同じ場所に集まって働くのが当たり前」の時代は終わり、オフィスを持たない、もしくは社員が集まる空間は少なくてもいいと考える企業が増え始めた。三菱地所グループも、従前の大型物件だけでは大きなメリットを見込むのが難しいかもしれない。Reビル事業で自由度の高い物件を提供することが、同グループのオフィス賃貸事業の可能性を広げている。
また、入居企業が自分で創りあげたオフィスは「出社したい場所」に進化していく。「働く場所を選ばない」という時代に、オフィス空間の新たな役割を提案している。
※参考:Reビル事業の公式サイト
人と人とが顔を合わせるからこそ生まれる価値を創造する
現在の物件は都内のみだが、今後は地方の主要都市への展開も検討している。酒井さんは「企業がReビル事業の物件で自分らしいオフィスを実現し、事業成長にもつなげてもらえたらうれしい。いつか、Reビル事業の入居企業が丸の内の大規模オフィスへ来てくれたら、という思いもある」と期待を寄せる。
三菱地所グループが進める「働きたくなるオフィスづくり」は、企業の社員の交流促進、新しいビジネスプランの創出をも促す。オフィスを持たない選択肢がある時代に、自らが本社を移転して新しい働き方を体現し、新規事業にも取り組んでいく姿にはグループの「本気」が伺える。人と人とが顔を合わせるからこそ価値が創造されていく。そんな働き方改革もあっていいはずだ。
(撮影:高井直樹)
執筆者紹介
下地くにこ(株式会社スキマタイズ) 本職は、女性の働き方相談を行う社団の代表。商社・広告代理店で17年間人事職に就いた後に独立。女性が「働くことを楽しめる環境」をつくるため、企業内で女性社員相談のほか、人事職コミュニティーの運営や働く女性の個別相談を受けている。プライベートでは1児の母。
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