社員に選ばれる会社の人事制度・人材開発
新入社員の定着・活躍を後押しする「オンボーディング」とは?
2019.01.25

新たに入社した社員に対して、早く活躍できるように組織としてのサポートを行うことをオンボーディングと言います。もともと、外資系企業を中心にオンボーディングは取り入れられていましたが、スタートアップ企業を中心とした国内企業でも実施するケースが増えつつあります。
これは、組織における人材の定着および即戦力化が期待されている背景があるためです。そして、オンボーディングの実施対象は、新入社員に限らず、管理職・プロフェッショナルとして入ってくる中途採用社員も含む全階層に広がっています。
今回は、採用活動の効果を最大限に生かすためのオンボーディングについて、具体的にどのようなものなのかを解説します。
オンボーディングの目的とその効果
企業のニーズに合った有能な社員を採用するのには時間がかかります。オンボーディングは、せっかく入社した社員が戦力として活躍する前に短期間で退職してしまうのを避けることが目的です。適切な人材を採用することで終わりではなく、その後の定着化も人事部門にとってはとても重要なテーマです。
中途入社のデータにはなりますが、ある調査によると、8割近くの転職者は「転職に対して何らかの不安を感じた」と回答しており、その不安が解消された時期は6割程度の方が「入社してから半年以内」とのことです。
その一方、入社初期の段階では、「何をどこ(誰)に尋ねればよいのか・どうやって必要な情報を確認したらよいのかがわからない」「新たな人間関係や仕事内容への不安」といった戸惑いは階層に関係なく、どの社員でもあるとのことです。
すなわち、入社早期段階に特有の「不安」を何らかの方法で早期に解消できれば、その社員は短期間で戦力としての活躍が期待できると言えるでしょう。
また、社員が定着することによって、「短期間での退職を避けることができる」=「採用コストを抑えることが可能」となります。さらに、既存の社員がオンボーディングの施策にも大きく関与・連携することによって、「社員を大切にしようとしている会社なんだ」という認識が生まれ、エンゲージメントや組織としてのつながりが高まるでしょう。
オンボーディングの代表的な4つの具体例
「オンボーディング」は目的や業種また会社によって具体的な施策は異なってくると思います。そこで、新入社員向けのオンボーディングの具体例を4つご紹介します。なお、これらは中途社員に対しても応用できる施策です。
メンター
新入社員にとって、直属の上司の存在や影響はとても大きいと言えます。その一方で、マネジメントだけではなく、自身も業務を行うプレイングマネジャーが増えています。
そういった環境において、上司でなくてもできる新入社員へのサポート(経費精算方法や社内制度の利用・申請方法など)まで、上司が行うのは負担が大きいでしょう。そのため、所属部門の先輩社員や人事部門などに新入社員をフォローするメンターとして一定期間(入社3~6カ月程度)アサインすることがあります。
入社オリエンテーション/新人研修
これは、多くの会社がオンボーディングという概念が定着する前から行っているかと思います。会社組織、行動規範や会社のバリュー、人事制度、就業規則などのルール、セキュリティーポリシー、オフィスの案内などについてのオリエンテーションを半日から1日程度かけて、入社初日あるいはできるだけ早い時期に受けてもらうようにしている会社も多いでしょう。
「ほぼ同じ時期」に入った社員同士の横のつながりを生み出す効果があるだけではなく、オリエンテーションへの参加を通して会社から入社を歓迎されていると感じることで、不安な気持ちが薄れるでしょう。
新入社員紹介
社内のイントラネットや掲示板などに、新たに入社した社員の顔写真付きで本人のコメントを掲載することで、既存の社員に対して「誰が新たに入社したのか」を周知することが可能です。それを見て、実際のコミュニケーションが生まれるきっかけにもなるでしょう。
入社1~3カ月後の目標とアクションプランの作成・表明
入社直後の目標やアクションプランについては、実務に直結するだけではなく、周囲がどんなサポートをすればよいのかを明確にする役割があります。「自分自身が新たな環境で何をやっていきたいのか」といったことは何かしら考えているとは思いますが、それを実際に文章にすることで、後で振り返ることもできます。自分自身でつくった目標に対する成功体験を、新たな環境で得ることにもつながります。
オンボーディングはフォローも大切
オンボーディングの運用は、新入社員の所属部門が中心として行うことになりますが、その仕組みをつくることや、実際に運用がうまくいっているのかをモニタリングするのは人事部門の役割になります。また、運用がうまくいっていない部門に対しては、何らかのフォローも必要となるでしょう。
最近、Employee Experience(従業員体験)を重視する会社が増えています。これは、「社員が働くことによって得られる体験」のことです。オンボーディングは、まさにこのEmployee Experience(従業員体験)そのものでしょう。この体験が素晴らしいもとなり、社内での人間関係と心理的安全性が確立されることで、社員は新たな環境(会社)に定着するだけではなく、より成果を出していくためのアクションをとるであろうと思います。
【編集部より】
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執筆者紹介

永見昌彦(ながみ・まさひこ) アルドーニ株式会社代表取締役。外資系コンサルティングファームなどで人事コンサルタントとして勤務した後、事業会社(ラグジュアリーブランド持株会社)で人事企画担当マネージャーとして人材開発・人事システム・人事企画を兼務。事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして、2016年にフリーランス人事プランナー・コンサルタントとして独立。2018年に法人化。現在、人事全般のプランニング・コンサルティング・実務にたずさわっている。
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