コラム

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妊娠前後に発症する「周産期うつ」の原因と対処法 

2019.01.25

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皆さんは「周産期うつ」という言葉をご存知でしょうか? 周産期というだけあって、妊娠前後のことだという想像はつくかもしれません。妊娠・出産をあくまで社員のプライベートな事情として捉え、仕事とはあまり関連がないと思われる方も少なくないのではないでしょうか。しかし、周産期うつはとても身近な心の不調で、長期化すれば仕事にも大きな影響を与えます。

そこで今回は、周産期うつを発症する要因を明らかにした上で、その対処法を、「周産期の女性社員」「周産期の社員を抱える企業・人事担当者」の双方の立場に向けて提案したいと思います。

目次
  1. 周産期うつとは
  2. 周産期うつを引き起こす5つの要因
  3. 周産期を迎える女性へのアドバイス
  4. 企業・人事担当者へのアドバイス

周産期うつとは

周産期うつとは、周産期に呈するうつ症状のことを指します。周産期は、狭義では妊娠22週から出生後7日未満の期間が当てはまります。しかし女性は、これよりも長い期間で妊娠による心身の大きな影響を受けます。よって今回はより広義に、妊娠期から産後数ヶ月のことについてお話を進めていきましょう。

出産後はホルモンバランスの変化で精神的な変化が起こりやすく、その状態を「マタニティブルー」や「産後の肥立ちが悪い」という言葉で表現されることもあります。しかしこれらは、あくまで数日間に渡って生じる一過性の気分の浮き沈みによるものです。その一方で周産期うつとは、下記のようなうつの症状が2週間以上認められる場合を指します。

うつの主な症状

・憂うつな気分
・興味、喜びの喪失
・不眠または過眠
・食欲不振もしくは過食/体重の減少・増加
・疲労感・気力減退
・無価値感・罪悪感
・思考力や集中力の減退
・死についての思考

一般的に「子どもを授かったばかりの女性=幸せ」というイメージはまだまだ根強くあります。しかし、平成25年度の厚生労働省の調査では、出産後に生じる「産後うつ」だけでも9.0%の母親が経験している恐れがあることが明らかになりました。

また、国立成育医療研究センターなどのチームによる研究では、2015〜16年の2年間に妊娠中や産後1年未満に自殺した女性は全国で102人おり、妊産婦死亡原因の1位となっていることが明らかになっています。つまり、周産期のメンタル不調は誰でも発症しうるもので、時には深刻な事態を引き起こす可能性もあるのです。

周産期うつを引き起こす5つの要因

ではなぜ周産期うつは引き起こされてしまうのでしょうか? どんな不調もさまざまな要因が複雑に絡み合って発症に至りますが、周産期うつもその例外ではなく、下記のような要因が関連し合い引き起こされると考えられます。

1.ホルモンバランスと生活リズムの変化

妊娠期間中、体内ではエストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンが10ヶ月かけて増加していきます。しかしこの2つのホルモンは、出産後急激に減少します。この急激なホルモンの変化によって、イライラや不安が引き起こされやすくなるといわれています。

また、妊娠期は体調の変化によって寝付きが悪くなることがありますし、出産後は授乳のためまとまった睡眠を取ることができません。このような生活リズムの変化も心を不安定にさせる要因になりえます。

2.新しい役割へのプレッシャー

どんな人も、職場や家庭においてさまざまな役割を期待されていますが、妊娠してからはそこに「母親役割」が追加されます。この母親役割というのは大変なもので、お腹の中でヒトを育て、身体に大変な負担をかけながら出産し、その後何年にも渡って育てるというものです。

初産婦の場合、経験したことのないこの役割を想像するだけでも大きなプレッシャーや不安を感じますし、経産婦の場合は、既に出産や育児が大変なことを重々承知なので、その負担が増えると考えるだけでも気が重くなることが多々あります。

3.これまでの自分を失う恐怖

上記のような役割が増えると、どうしても妊娠以前の生活から変化せざるを得ません。できることがどんどん減っていきますし、否応なく体型や体調が変化していきます。また、周囲の目を気にして「これまでの自由な生活を続けてはいけない」という気分になることもあるでしょう。

これらの変化が数ヶ月の間で一気に押し寄せるので、それまでの自分が失われてしまうような恐怖を感じることがあります。この「それまでの自分と別れる」経験は喪失体験として心に残り、やがて子どもがいない女性を羨ましく思い、育児に前向きになれない心理状態を引き起こすこともあります。

4.将来への不安

これまでの自分と別れて母親役割を担っていくことは、決して一時的な体験ではありません。その後何年も続いていきます。仕事と育児の両立、家庭内での役割分担、実家と自分の家とのバランス、母親ではなく個人としての自分の在り方、家族の将来設計、教育費を含む家計など、将来のことは考えだしたらきりがありません。

しかもこれらは妊娠を機に初めて考えることばかりなので、不安を感じやすく悲観的になってしまうことがあるというのもこの時期の特徴です。

5.夫婦間でのミスコミュニケーション

女性は自身のお腹の中で子どもを育てるので、妊娠期から自分の変化に直面したり、母親になる実感を募らせたりします。

その一方で男性は同じ経験をすることができないので、なかなか女性側の心理を察することができません。また、自分が育った家庭がよい家庭だと思い込み、自身の幼少期とは時代や状況が異なるにもかかわらず、自分が理想とする母親像・妻像を押し付けてしまう男性も多くいます。

その結果、前述の周産期うつの原因となりえる事柄に対して、配慮が足りない言動を取ってしまったり、女性を物理的にも精神的にも十分にサポートできなかったりすることがあります。

また女性側も、男性の「女性側の変化についていけない」という不安や苦悩を想像することが難しく、怒りすぎてしまったり、塞ぎ込んでしまったりすることがあります。このような事態が重なることで夫婦間でミスコミュニケーションが生じ、女性は夫婦関係を継続することに強い不安や怒り、悲しみを感じることがあります。

周産期を迎える女性へのアドバイス

さて、これまで色々と周産期うつについて説明してきました。今働きながら周産期を迎えている方は、読んでいて怖くなってしまったかもしれません。でも大丈夫です。周産期うつの予防のためにできることはいくつかあります。

周囲を頼ろう

周産期に入った後は、仕事と家庭の双方で、頼れる人をどんどん頼っていきましょう。体調の変化に直面したり、検診などで急に忙しくなったりする中、全てのことを今まで通り一人でこなすことは不可能です。相手に理解してもらいながら上手く協力を仰ぐには、まず、自分の体調や仕事・家事が今どういう状態で、今後どうなっていくことが予測されるか、ということを具体的に話してみてください。

相手が家族の場合

加えて、相手が家族であれば、今の心理状態と今後考えられうる心理的変化について伝えておきましょう。

その際にあまり相手が理解できていないようであれば、周産期うつや産後離婚率が急増する「産後クライシス」の実例などを伝えてみるというのも効果的かもしれません。また、気分の変化が激しくなった場合はどうしてほしいか、ということについても話し合っておくとよいでしょう。

相手が会社の人の場合

一方で、相手が会社の人であれば、いつ急激な体調の変化が起きてもいいように、体力と気力があるうちに周到な準備をしておきましょう

例えば、普段から情報共有をまめに行ったり、出社することができない場合のタスクの振り分けを明確に行ったりしておくことで、自分も周囲も安心していざという時を迎えることができます。

しかし、なにかが起きる前からわざわざこんなことを話し合うのは躊躇してしまうかもしれません。そんな時は「できるだけ皆さんにご迷惑をかけたくないので、万が一のことも踏まえて少しお話させてください」とワンクッションを置くことで、相手も聴く準備が整います。

「仕事と育児を一人で両立しなければならない」という固定概念を捨てよう

周囲を頼るにあたって邪魔になってくるのが「仕事と育児を一人で両立しなければならない」という固定観念です。この固定観念が非常に厄介で、無意識に刷り込まれてしまっていることも多く、「気付いたらワンオペ状態になっていて、心も身体もボロボロだった」というのはよくある話です。

「あれもこれもやらないと!」と精神的に焦っている自分に気付いたら、一度「私以外がこの作業をやるとしたら、誰にお願いしようかな?」と考えてみましょう。身近な人を思い浮かべてもいいですし、家事代行サービスやベビーシッターを利用することを検討してもいいでしょう。

家事育児において人を頼ることに罪悪感を覚えてしまう人もいるかもしれません。昔は複数世帯で同居している家庭が多く、自然と周囲のサポートを受けやすい環境がありました。しかし、核家族化が進む今、それは難しい状況にあるので、今のあなたにあったサポートをどんどん取り入れてみましょう。

企業・人事担当者へのアドバイス

ここまで周産期うつについてお読みになった方は、周産期の女性の大変さについてよく分かっていただけたと思います。大切な社員を周産期うつで休職・離職させないためには、会社としてもできるだけ周産期の女性をサポートすることが大切です。

例えば、周産期の体調不良による遅刻、早退、欠勤の届け出を出しやすくしたり、周産期女性に関するセミナーを妊婦向けだけでなく、マネージメント層向けに開催したりするとよいでしょう。

周産期うつだけに関わらず、社員のメンタルヘルスにきちんと対応するためには、時間がかかっても会社全体の制度を見直し、仕組みを整えていくことが重要です。そして、雰囲気づくりだけで終わらせないために、実例を多く作り、女性が実際にサポートをお願いしやすい環境を整えていくことも必須です。

周産期の女性をサポートすることが、「職場の人材定着」の第一歩に

中には、「正直、周産期の女性を会社で抱えるのは大変だな」と思った方も多くいるでしょう。しかし、彼女らができるだけ働きやすい環境を整えることによって、トラブルを回避したり、離職を防いだりすることが可能になります。

また、周産期の女性が働きやすい環境を構築するノウハウが整うことによって、周産期の女性のみならず、あらゆる事情を抱えた社員を受け入れることが可能になります。

働き方が多様化している今、優秀な人材を定着させるためには、社員の私的生活を尊重することが非常に大切になってきます。つまり、彼女たちをサポートすることが、長期的には会社にとっても「人材定着」という大きなメリットにつながるのです。

今のご時世、働く母親のサポートが不十分であれば国際的には2流扱いですし、マタハラが発覚すれば会社の評判はすぐに落ちてしまいます。もしまだ周産期の女性へのサポート体制が十分に整っていないのであれば、これを期に検討を始めてみてはいかがでしょうか?

イラスト:さっこさん

【編集部より】
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執筆者紹介

清水 あやこ(株式会社HIKARI Lab代表) 新卒で数年間外資系証券会社で勤めた後、退職し東京大学大学院臨床心理学コースにて臨床心理学を学ぶ。在学中に株式会社HIKARILabを設立。会社のモットーは「今までにない心理ケアを提供し、簡単に心理ケアを受けられる社会を実現する」。現在は、オンラインカウンセリング「ココロワークス」と心理ケアゲーム「SPARX日本語版」などの開発に携わる。著書に「ちょこっとポジティブ。」(大和出版)、「女子の心は、なぜ、しんどい?」(フォレスト出版)がある。

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