失業経験アリ人事コンサルによる直球コラム
業績・経営不振で解雇・減給を行うときの注意点
2016.03.11
昨今、好景気といわれているにもかかわらず、業績不振に陥っている企業が多く見受けられます。業績不振に陥った企業では、利益の回復を図るために支出である経費のカットを断行することを余儀なくされる場合も多く見受けられます。
整理解雇や減給は「諸刃の剣」
その手法としてよくとられるのが、企業支出の多くを占める人件費削減、すなわち整理解雇と減給です。しかし整理解雇や減給は、確かに人件費支出の削減には大きな効果があるものの、実行しただけで従業員全体のモチベーションを著しく低下させ、さもすれば会社の人材に対する愛情のなさの表れとして、人材の大量流出につながりかねない諸刃の剣であることを肝に銘じなければなりません。
そこで、まず「本当に整理解雇や減給することが最善の手段なのか」ということを今一度考えるべきです。売上回復や人件費以外の経費削減を行うことで、整理解雇や減給自体は避けられないにしても、従業員に対する直接不利益である解雇や減給幅を小さくできないかなどの策を講じないと、企業の努力不足としてそれ自体が認められないこともありえます。
解雇整理をするには厳しい要件がある
- 人員整理の必要性
経営状態が切迫し、解雇を行わない限り、企業の存続に関わる状態にあると客観的に見なされること。ただし最近では存続に関わる状態まで待っていては手遅れになると判断されるケースでは、解雇が認められることもあります。 - 解雇回避努力義務の履行
役員報酬の削減、新規採用の抑制、希望退職者の募集、配置転換、出向等により、整理解雇を回避するために相当の経営努力をはらわないと、整理解雇は認められません。 - 被解雇者選定の合理性
人選基準が合理的であり、かつ具体的人選も合理的かつ公平でないと、整理解雇は不平等とみなされ、認められません。 - 手続の妥当性
被解雇者に対する説明・話し合い・納得を得るための手段を経ていない一方的解雇は認められません。
このように整理解雇はかなり労働者の権利を失わせるため、厳しい要件が定められています。
減給するための手順と方法
それでは減給はどうでしょうか。労働法では、企業都合で賃金(基本給)を引き下げたり、各種手当を減額したりすることは、労働者にとって「不利益変更」となるため、原則として禁止となっています。つまり企業側が一方的に賃金カットしたり、手当を廃止したりすることは法律上できないのです。しかしながら、業績不振により、減給を断行しなければならない状態に追い込まれている場合は、実際に減給するまで、段階を踏む必要があります。
1.制度の策定
まずは減給の仕組み作りである制度策定です。従業員に対してどの程度減給を行い、その結果経営状態がどのように改善されるのかを綿密にシミュレーションし、従業員個々人の受ける減給の不利益を算定しなければなりません。これを怠って、全社員一律20%賃金カット!などと一方的に宣言すると、従業員からは、「なんら納得できるものではない」「計算式がはっきりしない」と突き上げを受けかねません。労働法には減給するに当たって、制度策定せよとの記載は特にありませんが、ぜひ作っておくことをおすすめします。
2.役員の報酬カットを取締役会で決議
制度が固まったら、次は労働者に対する説明の前に、取締役等の役員の報酬カットを取締役会で決議することをおすすめします。会社経営が傾いている緊急事態に対して、役員のみ高給を維持しているようでは、合理性を欠く、従業員にだけ不利益を押しつけた減給とみなされ、認められないこともありえます。
3.従業員に対する説明
次に従業員に対する説明です。現在の会社の置かれた経営状況や経費削減に尽力したことを逐一従業員や組合に説明し、従業員の理解を得られれば、たとえ不利益変更であっても、減給を実行できます。ここで大切なのは集団に対して一方的に説明するのではなく、できれば個別に説明し、従業員の生命の糧である賃金を下げる理由を丁寧に説明し、従業員の理解と相談に乗るべきでしょう。
4.賃金回復の約束
最後にやるべきことは、業績回復後には賃金を現状まで回復させるとの取り決め作りです。こちらも企業の義務ではありませんが、減給の合理性を飛躍的に高める手法といえるでしょう。
いかがでしたでしょうか。整理解雇や賃金カットは、企業人事にとって影響が極めて大きいものとなります。正しい手法をとり、労働者保護の観点で解雇や減給施策をすすめることができれば、従業員の安心を得ることができ、人材流出の危険は薄くなります。
執筆者紹介
田中 顕(たなか・けん)(人事コンサルタント) 大学を卒業後、医療系人材派遣会社・広告代理店で人事を担当したのち、密着型人事コンサルティング団体「人事総合研究所」を設立。代表兼主任研究員として、労務相談受付・課題解決に取り組む。得意分野は採用・法務・労務・人事全般の問題解決等、多岐にわたる。
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