社労士が解説する働き方改革のポイントvol.5
勤務間インターバル制度とは? フレックスタイム制の改正点も紹介
2019.01.09
2019年4月施行の働き方改革関連法を掘り下げる連載「2019年4月施行。社労士が解説する働き方改革のポイント」。今回は「勤務間インターバル制度」と「フレックスタイム制」について解説します。前者は休息時間の確保、後者は清算期間の上限の延長を定めていますが、いずれも強行法規ではありません。両制度の仕組みや導入前に検討すべき点、細かなルールを紹介します。
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勤務間インターバル制度とは?
勤務間インターバル制度とは、勤務の終業時間と翌日の始業時間との間を一定時間空けて、休息時間を確保し、実質的に労働時間を短縮させることです。「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(労働時間等設定改善法)」の改正により、制度が定められました。施行は2019年4月の予定です。
欧州連合(EU)の加盟諸国ではすでに、同種の制度を強行法規として導入しています。国際的に、労働者の健康管理やワークライフバランスの確保の上で必要性が高い制度として認識されているのです。
勤務間インターバル制度の仕組み。導入前に検討すべき4つのポイント
勤務間インターバル制度とは、具体的にどのような仕組みなのでしょうか。
例えば、午前9時~午後5時を労働時間と定める企業で、勤務間インターバルを11時間と設定するとします。労働者が午後11時まで残業した場合、11時間後の翌日の午前10時までは(始業時間の午前9時を過ぎても)労働させてはいけません。労働者は休息時間を確保できるため、過重労働による健康被害を防ぐことができます。
この制度は努力義務であり、企業に「勤務間インターバル制度」の導入を強制するものではありません。
導入に当たり、通常は以下の点の検討が必要です。
(1)インターバルの時間(休息時間)を何時間に設定するか
(2)対象となる労働者の範囲をどのように設定するか
(3)インターバル後の勤務について①始業時刻のみを繰り下げて終業時刻は維持する(繰り下げない)のか②始業時刻と終業時刻の双方を繰り下げる―のどちらを選択するか
(4)フレックスタイム制や裁量労働制を取っている労働者がいる場合、インターバル制度とどう整合させるのか
以上のように、制度の導入には判断が難しい点があります。社会保険労務士をはじめ、専門家のアドバイスを参考に、自社に適した内容を検討する必要があるかもしれません。
フレックスタイム制とは? 改正により清算期間が3カ月に
フレックスタイム制とは、労働者が共通して必ず出社しなくてはならない「コアタイム」と、社員が自由に出退社時間を選べる「フレキシブルタイム」を設定することです(コアタイムを設けない形も可能)。労働者は制度により自由に労働時間を決められます。
今回の改正のポイントは、時間外労働の基準となる「清算期間」です。
企業は、フレックスタイム制でも労働者に残業代を支払う必要があります。支払いに関わる「時間外労働」の定義は、「企業で定めた清算期間内に、法定労働時間の総枠を超えた時間」とされています。算出方法は以下の通りです。
(1)「40時間(1週間当たりの法定労働時間)×清算期間における暦日数÷7日」で労働時間の総枠を計算
(2)フレックスタイム制における労働時間を月末に合算し、総枠を超えた部分を時間外労働とする
従来、フレックスタイム制の清算期間は最長で1カ月とされていましたが、今回の改正によって上限が3カ月に延長されます。例えば、四半期制の会社の場合、労働者が清算期間の3カ月間の前半はあまり仕事をせず、後半だけ多く仕事をしても、時間外労働が発生しないという運用も可能になります。
ただし、細かなルールとして以下が定められています。
(1) 清算期間が1カ月を超える場合、清算期間の開始日から1カ月ごとに、月内の1週間当たりの平均労働時間を算出する。この平均労働時間が50時間を超えた場合、その月の給与支払時に残業代を支払う必要がある。
(2)清算期間が1カ月を超える場合、フレックスタイム制の労使協定を行政官庁に届け出る必要がある
清算期間を1カ月以内とする従前のフレックスタイム制と比較すると、運用や手続きが多少煩雑ではあります。しかし、事業内容や働き方の形によってはメリットがあるのではないでしょうか。
2つの制度は「日本の新しい労働観」を体現している
今回は勤務間インターバル制度の仕組みと、フレックスタイム制の清算期間が3カ月に延長されたことを解説しました。前者は健康管理の一環であり、後者は労働時間の管理を柔軟にすることを目的としています。制度そのものは全く異なりますが、両者を合わせて考えると、働き方改革関連法の典型的な特徴が見えてきます。
その特徴とは①時間管理の厳格化やインターバルの設定により、
わが国では戦前から戦後を通じ、「殖産興業」や「サラリーマン社会」といった言葉と共に集団的労働による生産性向上が推し進められてきました。しかし、今回の働き方改革が指向する働き方は、こうした旧来の考え方と全く違います。なるべく多くの人が自分にふさわしい多様な働き方で、主体的に労働に参加できるようにすること。その上で、社会が平等な雇用機会、労働者の適切な健康管理を実現するルールを整備すること。つまり、個人の創造性や主体性の活用と、労働の柔軟性と生産性の向上を同時にかなえられるような、新しい労働観を示しているのではないかと考えています。
現在はITの進展やグローバル化により、個人が関与し得るビジネスの領域が広がり、働き方にもさまざまな選択肢があります。働き方改革から見えてきた新しい労働観は、現代のニーズに合うものといえます。
働き方改革の制度を活用するためには、まずは企業が新しい働き方や経営を十分に考えることが重要です。同時に、個人がそれぞれの人生の一場面で既成観念にとらわれず、どのように自分を生かしていくかイメージし、主体的に工夫することが求められています。働き方改革は、企業と個人が大きく飛躍するチャンスでもあるのです。
執筆者紹介
松井勇策(まつい・ゆうさく)(組織コンサルタント・社労士・公認心理師) フォレストコンサルティング経営人事フォーラム代表、情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。東京都社会保険労務士会 先進人事経営検討会議議長・責任者。 最新の法制度に関する、企業の雇用実務への適用やコンサルティングを行っている。人的資本については2020年当時から研究・先行した実務に着手。国際資格も多数保持。ほかIPO上場整備支援、人事制度構築、エンゲージメントサーベイや適性検査等のHRテック商品開発支援等。前職の㈱リクルートにおいて、組織人事コンサルティング・東証一部上場時の上場監査の事業部責任者等を歴任。心理査定や組織調査等の商品を。 著書「現代の人事の最新課題」日本テレビ「スッキリ」雇用問題コメンテーター出演、ほか寄稿多数。 【フォレストコンサルティング経営人事フォーラム】 https://forestconsulting1.jpn.org
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