jMatsuzakiの「自己啓発書評」
グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ
2016.03.04


今日は一風変わったマーケティング本を紹介しようと思います。上質なラム酒を染み込ませたサヴァランのように、型破りで、衝撃的で、異端で、しかし実用的な一冊です。
タイトルは「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」です。ブライアン・ハリガンとデイヴィッド・ミーアマン・スコットという2人の著書ですが、日本版の監修・解説をあの糸井重里氏が担当しています。
一昔前にヒッピー相手にロックを演っていたバンドに最新型のマーケティングを学ぼうだなんて、決してあなたを馬鹿にしているのではありませんよ。確かに彼らは“それ”をやって成功したのです。
現代の最新型ビジネスを50年前に成功させていたロックバンドがいる
グレイトフル・デッドが結成されたのは1965年。いまから約50年前のことです。リーダーであるジェリー・ガルシアが1995年に亡くなるまで、30年あまり活動していました(現在は残ったメンバーで「ザ・デッド」を結成しています)。
グレイトフル・デッドはヒットチャートとは無縁で、グレイトフル・デッドといえばこの曲というような代表曲もありません。それもあってか、日本ではさほど認知度は高くありません。
にも関わらず、アメリカを代表する伝説のロックバンドとして君臨し続け、アメリカ国内のコンサートはトップを争う収益をあげていました。
グレイトフル・デッドのファンは「デッド・ヘッズ」と呼ばれ、有名なデッド・ヘッズとしては第42代アメリカ合衆国大統領であるビル・クリントン氏や、元副大統領のアル・ゴア氏、ご存知スティーブ・ジョブズやストリートアートの先駆者キース・ヘリングなどがいます。もちろんこの本の著者2名もデッド・ヘッズです。
なぜ彼らはCD販売を中心としたチャート争奪戦が主要な音楽マーケットであった20世紀後半に、それらと無縁の活動をしながら伝説とまで呼ばれるようになったのでしょうか。それは彼らが最新型ビジネスを誰よりもはやく実践していたからでした。
ロックバンドとレコード会社、その他いろんな取り巻きにとって収入の源になるアルバムの販売を促進するためにライブをするのが基本的な「ビジネスモデル」だった。だが、グレイトフル・デッドは、このモデルを覆した。
P.59
本書を読み解きながら、グレイトフル・デッドのマーケティングの秘密に迫りましょう。
グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ
正反対のやり方を試してみる
(いまでも状況は大して変わっていませんが)当時の成功したバンドのセオリーを考えてみましょう。
まずアルバムを作って、新しいアルバムの宣伝のためにツアーに出る。ライブを完売するために大げさなセットを用意して、ライブのセットリストは過去のベストソングと新しいアルバムのソングを混ぜあわせて構成する。ツアーは各地を回るが、そのセットリストはもちろんのこと楽曲の16分音符に至るまで同じもの。そして、なるべく多くアルバムを売ってチャートを駆け登れれば、狙い通りというわけです。
グレイトフル・デッドのやり方はそのまったく逆でした。アルバムを販売するより、ライブそのものに全力を注いだのです。
ツアーそのものが主な収入源であったので、グレイトフル・デッドは、自分たちのライブをほかのバンドとは違うやり方で運営した。例えば、演奏する曲のセットはライブごとに異なり、同じ曲でも演奏のしかたが異なる。毎晩違う音楽体験で楽しませてくれるので、ファンは1日だけでなく、毎晩(数週間、数ヶ月、あるいは何年も)続けざまにライブに行きたいという気になる。これは、ほかのバンドとは正反対のアプローチだった。
P.59
これがバンドにとってどれほど勇気のある試みだったでしょうか。ましてや、ビジネスにおいてはより困難を極めるでしょう。だからこそ違いを生むために試してみる価値があるのだといえます。
単純な方法を意外なほど突き詰める
正直なところ、ライブに注力するのは唯一無二な方法ではなかったでしょう。珍しかったことは間違いないでしょうが、同じようなことを考えたバンドは無数にいたはずです。では、なぜグレイトフル・デッドだけが突き抜けられたのか?
それは、単純な方法(彼らのケースではライブに注力すること)を人が意外だと感じるほど突き詰めたところにあるでしょう。
ただライブの本数が多かっただけでなく、演奏する楽曲はほとんどが即興演奏でした。30年あまりで500曲ほど演奏したそうですが、オリジナルはそのうち150曲に過ぎなかったそうです。セットリストはもちろん、演奏方法も毎回違いました。音響も照明も自前で最高の物を用意したそうです。
結果、会場には食べ物や飲み物、ドラッグ、グッズを売る屋台が並び、そこに数万人が集う巨大なお祭り会場になりました。これがアルバム販売に引けをとらない巨大なマーケットになったのです。
ライブに注力するというありきたりな方法をとことん突き詰めたことで、誰もがあっと驚く唯一無二の存在になりました。そして、誰も真似できないビジネスモデルに発展させたのです。
異なる才能を集める
グレイトフル・デッドはただ面白いマーケティングをしただけではありません。バンドのサウンドもユニークそのものでした。
詳しい経歴は省きますが、グレイトフル・デッドのメンバーはそれぞれがまったく異なった音楽的ルーツを持ったメンバーの集まりでした。ロックバンドはロック好きが集まって組むものですが、グレイトフル・デッドはそうはしなかったということです。結果的に、それがグレイトフル・デッドのユニークなサウンドを生む土台になりました。
しかし、現状では多くの仕事が同じ才能の寄せ集めで作られているのが現実です。どんな仕事でもチームでプロジェクトに取り組むものですが、IT業界に農業出身者が呼ばれるのは稀ですし、テレビ業界に路上の紙芝居あがりを呼ぶ人はいないでしょう。銀行員に詐欺師は呼ばれないし、ラジオ業界に手品師が呼ばれることもありません。
自分のチームに似た者同士ではなく、どのように異なる才能を持った人間を集めるかが腕の見せどころというわけです。
偽りの仮面を剥ぎ取れ
デッド・ヘッズが活躍しはじめた1960年代後半は、グラム・ロックの最盛期でもありました。
グラム・ロックは豪華な楽器構成に、奇抜な化粧と衣装、浮世離れした魅惑的な演出をロックに取り入れたグラマラスな(魅惑的な)ロックでした。
グレイトフル・デッドはここでも正反対をいきました。自分自身を魅惑的に見せようとするより、偽りがなく素朴であることを重視しました。彼らはスターになろうとせず、ステージの上でも普段通りに観客と似たような衣装で現れました。その偽りのない透明性は自由の象徴でした。
いま多くの人が企業に求めているのも、グレイトフル・デッドのような透明性といえるでしょう。しかし、いまでもグラム・ロックをやっている企業は後を絶たないのです。
熱心なファンを第一に考えよう
グレイトフル・デッドは初期からデッド・ヘッズという名のコミュニティづくりに熱心でした。
彼らが注力したのは、新しいファンをデッド・ヘッズの一員と呼べるような深いつながりに昇華することでした。
彼らはかなりはやい段階からファンの住所を収集し、会報づくりに熱心に取り組みました。ニュースはいち早くデッド・ヘッズへと知らされ、インターネットが登場すれば掲示板が作られ、デッド・ヘッズ専用のホットラインまで設けられました。
デッド・ヘッズにとって、デッド・ヘッズ同士のつながりは特別なものでした。グレイトフル・デッドの音楽自体とはまた別の、かけがえのない価値を持つものでした。
そして、グレイトフル・デッドはデッド・ヘッズ同士が深くつながれるようにサポートしたのです。
多くの企業はファンをまとめ上げるより新しい顧客を開拓することを第一に考えているのが現状でしょう。そして、新しい顧客のために最新情報をメディアに再優先で流したり、限定セールを打ったりするのです(昔からのファンを無視して!)。
無料コンテンツを熱心なファンに広めてもらおう
もう1つ、グレイトフル・デッドがやった正反対のことといえば、アルバムのミリオンセラーを狙うかわりに、観客によるライブの録音と撮影、そして共有を許可にしたことです。
通常、ライブで演奏される楽曲のほとんどはスタジオ・アルバムに収録されている曲ですし、ライブの演奏もライブ盤としてアルバム化されることもあります。そのため、録音と撮影と共有を許したらアルバムが売れなくなると考えられていたのです。
録音はもちろん共有なんてもってのほかというのが業界の常識でした。しかし、グレイトフル・デッドは録音と撮影を許可したどころか、録音と撮影をしやすいスペースまで自分たちで用意してあげました。
グレイトフル・デッドは熱心なファンの口コミ効果のパワーをよく知っていたのです。いまではSNSが一般的であったためそんなに違和感はないかもしれませんが、インターネットなどなかった当時、どれだけ画期的な考え方だったでしょう。
コンテンツを無料にすることで、人に「とりあえず試してみよう」と思わせることができます。無料のコンテンツが気に入れば、それを広めてくれたり、有料のコンテンツを買ってくれたりする確率が高まります。熱心なファンと無料コンテンツを交差させることで、爆発的な拡散力を発揮させることに成功したのです。
型破りな成功者に学べ!
本書は音楽における型破りなジャンルであるロックのなかでも、最も型破りなロックバンドからマーケティングを学ぶことのできる本です。
考えてもみてください。マーケティングというものは、引いてはビジネスというものは、セオリーにのっとって大衆操作することは違います。型破りな冒険のなかにこそビジネスの本質が眠っているのではないでしょうか。
そういう意味で、本書はビジネスというものを学ぶための実用書であるといえるでしょう。
ちなみに、日本版の本の装丁がものすごく凝っているので、紙の本を読むことをおすすめします。本の作りを眺めているだけでも”型破り”を体験できるユニークな一冊です。
執筆者紹介

松崎純一(jMatsuzaki) IT系専門学校を卒業後、システム屋として6年半の会社員生活を経て独立。 ブログ「jMatsuzaki」を通して、小学生の頃からの夢であった音楽家へ至るまでの全プロセスを公開することで、のっぴきならない現実を乗り越えて、諦めきれない夢に向かう生き方を伝えている。 2015年からはjMatsuzaki名義でバンド活動を開始。 ブログ:jMatsuzaki(http://jmatsuzaki.com/)
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