【潜入取材】ブラック企業体験イベント「THE BLACK HOLIDAY」
ブラック企業に潜入してわかった、ブラック企業で働き続ける人の共通点
2018.12.07
「長時間の残業をしてこそ一人前の社会人だろ!」
「返事しろよ! 聞こえねーよ!」
「相手を脅してもいいから契約をとれ!」
そんな怒号が飛び交うブラック企業への入社を疑似体験できるイベント、「THE BLACK HOLIDAY」が、勤労感謝の日である11月23日に開催された。実際にブラック企業で働いた経験のある人から寄せられた体験談を元にしたイベントで、パワハラ上司は劇団の役者が演じる。応募で集まった参加者が、架空のブラック企業を体験できる画期的な参加型イベントに、@人事編集部が潜入取材してきた。
※参考:ブラック企業のリアルを知る! 11/23「勤労感謝の日」に参加型イベント開催
飛び交う怒号! 容赦のない暴力! スタートからいきなりハイテンションに
舞台は架空の健康器具販売会社「スーパーミラクルハッピー株式会社」。参加者はこの会社の新入社員として、新人研修を受けることになる。自己紹介では上司から「この会社で叶えたい夢を語れ」と指示が飛ぶが、声が小さかったり、考え方が甘かったりすると上司から容赦なく罵倒される。机をドンと殴りつける大きな音に、参加者の顔も思わずこわばる。
朝礼では前に立たされて、大声で社訓を読み上げることを強要されるが、少しでも恥ずかしがったりすればここでも怒号が飛ぶ。残酷なことに、このときに「スーパーミラクルハッピー!」と大きく両手を広げてジャンプしながら言わなければならないので、もはや完全に自分を殺すしかない。
完全歩合制だから、仕事中のトイレは給料から天引き
この会社は完全歩合制で、成績トップの営業マンが「神」と呼ばれる。逆に売り上げがなければ給料はゼロ。もちろん有給休暇はいっさい認められない。仕事中にトイレに行けば罰金、会社に迷惑をかければ罰金。すべて給料から天引きされるため、働いているにも関わらず赤字に陥る社員も存在する。
営業ロープレでは、30万円もする健康器具を独居老人の家に訪問して売りつけるための手法を学ぶ。うまくできない社員には恫喝と暴力の嵐。さらに、他の新入社員にも「このクズ!」と言わせて、本人が号泣するまで徹底的に追い詰める。
ある参加者は「どうすれば怒られないですむか、そればかり考えるようになった。なるべく目立たず、上司に目をつけられないように立ち振る舞うことが、この会社で求められていることだと感じた」と打ち明ける。
異様な閉鎖空間は、さながら「囚人と看守」の関係
社長夫人でもある副社長は突然、ある新入社員に名前と生年月日を質問する。すると、占いの結果によって相性が悪いと言い出し、隣にいた社長はその場で社員にクビを言い渡した。すかさず副社長は「この水晶を買えば運がよくなるから」と新入社員に無理やり買わせて、なんとかクビは免れることに。あり得ない話のように思えるが、このエピソードも実話を元にしているという。
1日の終わりは、ご指導いただいた先輩社員をたたえる「反省文」の読み上げ
その後も、新入社員が良い企画を提案すると上司が手柄を横取りしたり、気に入らない企画書をビリビリに破って残骸を拾わせたりと、心が折れそうなシチュエーションが続く。怒号とピリピリとしたムードに疲れた参加者の顔からは、どんどん覇気がなくなっていくのがわかる。
1日の終わりには、参加者はその場で反省文を書かされ、それを一人ひとり読み上げることになるのだが、不自然なまでに、そこには美しい言葉ばかりが並んでいた。
「先輩社員の方々には、出来の悪い私たちを指導してくださって感謝しています」
「会社の発展のために、自分は何をすべきか反省して頑張りたいです」
「会社の士気を下げることはしないよう、誠心誠意精進します」
そして、ある新入社員の反省文を上司が取り上げてグチャグチャに丸め、思いっきり踏みつけてこう怒鳴りつけた。
「踏め! お前の夢はしょせんこんなものだ。お前の人生はこれなんだ!」
演出・脚本を担当した役者の益山貴司さんは、「このシーンは完全にアドリブでした。閉ざされた空間で他人を怒鳴り続けていると、なぜか気分が高揚してきて、自然とアドリブで攻撃的な演技をしてしまいました」と語る。さながら囚人役と看守役で行われた心理実験・スタンフォード監獄実験※のようだ。
※スタンフォード監獄実験とは、過去にスタンフォード大学で心理学者フィリップ・ジンバルドーが行った心理実験。一般募集された被験者が看守役と囚人役に分かれて役を演じているうちに、指示をしていないのにもかかわらず、看守役が囚人を拷問し始めるなど、実際の看守、囚人のような行動をとるようになったと発表したもの。
なぜブラック企業で働き続けてしまうのか?
目の前で起こる衝撃的な出来事の数々に、われわれも終始圧倒されっぱなしだったが、何よりも恐ろしいのは、これらが実話を元に再現されているという事実。正直、外から見ていると、「こんな会社ならすぐ辞めてしまえばいいのに」「自分だったら絶対に我慢できない」と思うのだが、実際に当事者になると、そうできない人が多いのだろう。
その原因には、日本の就活事情やこれまでの価値観などが、密接に関係しているように思う。新卒一括採用では、これまで学生だった人たちが突如として、一斉に社会人になる。まだ他の会社や社会のことがわからないうちに、一方的にブラック企業の常識をつめ込まれてしまうことはあるだろう。また疑問を持ったとしても、せっかく就職活動を勝ち抜いて入った会社を辞める勇気を持つことも、また簡単ではないはずだ。
さらに難しいのは、多くのブラック企業の中には、その環境に適応し、成功している人がいる事実だ。おそらく当事者には、そこがブラック企業には見えていない。そのような環境では、自分のつらさを会社が原因だと考えることができず、「自分が至らないからダメなんだ」と自責の念にかられる人が出てきてしまうのも、体験イベントを通して見れば致し方ないことのように思える。
「この会社はおかしい」と働く人が一致団結すれば、おそらくブラック企業は存続できない。しかし、先に上げた心情が個人の中で複雑にからみあい、団結して会社に意思表示することはそれほど簡単ではないはずだ。
ブラック企業と、そこで働く人たちの関係は、日本社会がこれまで培ってきた悪しき慣習が生み出したもので、両者はある種の共犯関係だと言えるのかもしれない。
ブラック企業とは何か、ブラック企業で働くとはどういうことかを考えるきっかけに
イベントの主催者である株式会社人間の花岡洋一代表は、このイベントの目的について「ブラック企業をリアルに体感してもらうことで、自分たちの働き方を見直すきっかけにしてほしい。特に会社の人事や経営層といった、働き方を作っていく立場の人にこそ、このイベントを体感して欲しい」と語り、こう続けた。
「一口にブラック企業と言っても、その定義は人によってさまざまで、指導をする側、される側でも、その感じ方は大きく異なるはず。いざ自分がやられる側に立った時、今まで自分が部下に対してやってきたことが、果たして純粋な『愛のムチ』だったと胸を張って言えるかどうか、考える機会になるかもしれませんね」
一方、参加したIT企業の社長を務める30代の男性は「自分も過去にこのような会社で働いた経験がある。その時代を思い出した。自分の会社では、いま働き方改革を進めているが、雇用する側としてあらためて考え直したい」としみじみと話した。
今月5日には、恒例となった「ブラック企業大賞」の候補に9つの企業・団体のノミネートが発表された。年々、世間の目が厳しくなっていくブラック企業。
ブラック企業とは何か。ブラック企業で働くとはどういうことか。それらを改めて考えることで、もっと多くの人がブラック企業と真剣に向き合う土壌を作る。今回のイベントには、そんな熱い想いが込められていた。
【編集部より】
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執筆者紹介
山岡ソースケ・リホ(ライター) 人材会社出身のフリーライター夫婦。インタビュー取材からコンテンツ執筆、コピーライティングまで幅広く活動する。得意ジャンルは採用関連、ビジネス、IT、グルメなど。旅行が趣味で、毎月1回国内外問わず飛び立つ。阿佐ヶ谷在住で、街のグルメや面白スポットを開拓中。
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