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社労士が解説 働き方改革のポイント vol.1


働き方改革関連法 年次有給休暇の取得の義務化について

2018.12.06

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2019年の4月に施行されることが決定した、「働き方改革関連法」。人事労務担当者はこれを受けて、来年の1~2月までには準備をしないと、対応が間に合わなくなります。そこで法律の施行に合わせて、今から担当者がとるべき実務対応について詳しく解説します。今回は、年次有給休暇の取得が義務化された際の、具体的な対応策を紹介するので参考にして下さい。

※参考:【業務ガイド】有給休暇の付与ルール・賃金の計算方法

目次

1.「働き方改革」と2019年4月「働き方改革関連法」の施行

「働き方改革」は、安倍内閣が提唱する「一億総活躍社会」をつくるための最大のチャレンジだとされています。企業の生産性の向上とイノベーションを促し、あらゆる人が主体的なキャリアプランをつくることを可能にする、日本の企業文化から、日本人のライフスタイルまでの全てを変える改革だと見られています。(内閣府ほか、政府各種資料より)

こうした「働き方改革」の一部である「働き方改革関連法」の主な部分については、2019年の4月に施行されることが決定しています。これらの法改正は、企業の労務管理の体制を整備することが大きな目的となっています。多様な働き方を許容するために、労働時間、休暇の取得、健康管理、処遇の平等性などを現在よりもきめ細かく整備することで、働く人の力を引き出す意図があると言えます。

よって、働き方改革関連法は、全て重要な内容となります。罰則付きの労働基準法の改正も多く、また全てが労務管理の仕組みに関わってくるので、企業規模に関わらず、趣旨から具体的な内容まで把握して対応することが必須となります。社会保険労務士などの外部の専門家を活用することも有効でしょう。

2. 年次有給休暇の取得義務化のポイント

年次有給休暇についての法改正のポイントは、「1年間に10日以上の年次有給休暇を取得できる労働者について、使用者は5日の年次有給休暇を必ず取得させなければならない」という非常にシンプルなものです。

 この法改正は企業規模に関わらず2019年4月から一律に施行されます。違反すると罰則も規定されているため、特に重要です。

 年次有給休暇については今までも政府から、取得率を上げるようにさまざまな広報がされてきました。ただ、あくまでも労働者の「休むことができる権利」だという前提があり、企業が権利を阻害しないように任意の努力を促すものにとどまっていました。

しかし、今回の法改正により、今後は労働者に年次有給休暇を取得させることは企業の義務となり、規定された労働者が5日の休暇を取得しなかった場合、企業側の労働基準法違反となります。最悪の場合は刑事罰の対象となり、企業の存続にも関わってしまうのです。

3. 法改正への基本的な考え方

先に述べたように、今回の法改正は10日以上の年次有給休暇を付与された労働者に5日の取得をさせなければならない、というものです。よって、現時点で多くの労働者が確実に年次有給休暇を取得できているような企業であれば、対応すべきことは多くはありません。

反対に、年次有給休暇があまり取得できていない企業の場合は、ルールの改定だけでなく、管理方法や、取得に関するマネジメントの仕方など、複数の点を見直す必要があります。そのため、施策の決定に多くの工数がかかる可能性も考慮した方がいいでしょう。

そして、最終的に来年には条件に当てはまる全ての労働者が、5日の年次有給休暇を取得した状態にしなくてはなりません。早めに対応策を検討し、改善に着手する必要があります。

4. 法改正により対応が必要なこと

具体的な対応策を以下の3つにまとめました。

(1)計画的付与についての就業規則の改定・労使協定の締結

まず、今回の改正によって、企業側が時季を指定して年次有給休暇を取得させる場合は、労基法上の計画的付与を行う扱いになります。これを行うためには、労働者代表との間で労使協定を締結する必要があります。また通常は、こうした扱いを新しく始める場合は就業規則の改定が必要になります。

事業主側から時季の指定を行わなくても、対象の労働者によって5日の年次有給休暇が必ず取得されるようであれば、計画的付与の準備を行う必要はありません。しかし、1年後を見越して、労働者による任意の取得のみで全く問題がない企業は多くはないでしょう。

また、計画的付与をルールとして定めている企業においても、今回の法改正の趣旨に則って一定の方のみに計画的付与を行う場合においては、今までとは別の趣旨のルールとなると考えられます。よって、多くの場合は、計画的付与の対象者を定義し、法改正の趣旨に則って就業規則に加筆や改定する作業が必要だと考えられます。

(2)年次有給休暇管理簿の作成

今回の法改正に関連し、年次有給休暇の残日数の管理を行うための年次有給休暇管理簿を、企業側で必ず作成しなくてはいけません。この管理簿では「年次有給休暇を与えた時季、日数および基準日(後述)を労働者ごとに明らかに」するものとされていますので、単に残日数だけを記載するのではなく、特に取得を時季指定した場合の日付についても記録を行う必要があります。

以上(1)(2)が、ほとんどの企業で対応する必要がある、就業規則などのルールの改定や帳簿の作成の事務です。こうした作業については、就業規則の労働基準監督署への提出や、労働者代表の選出方法、就業規則の他の規定との整合性など、本稿には書き切れない、さまざまな留意すべき論点があります。必要に応じて、社会保険労務士などの専門家に相談するのがよいでしょう。

(3)法改正への労務管理上の対応

ここからは、法改正への対応で必要になると思われる労務管理上の運用について説明します。今回の法改正では、対象となる労働者が5日の年次有給休暇を取得しなくてはなりません。よって、取得率が低い企業では労務管理自体を検討する必要があり、まずは年次有給休暇の取得日数を調査する必要があります。調査の結果ごとに考えられる対応は以下の通りです。

対象労働者の全員、あるいは大半が5日以上の年次有給休暇を取得できている企業の場合

現時点で法定の日数の取得ができている企業については、状況をさらに分析し、今後も取得されるかどうかを予測します。来年についても現状と同じような取得率であると予測される場合は、対応すべきことは多くはありません。

現状と同じような休暇取得がされるような風土やマネジメントが維持されるように管理することと、個別の労働者について取得ができない場合に備えて(1)で紹介したような形で計画的付与の準備をすることが考えられます。

対象労働者の多くが、5日以上の年次有給休暇を取得できていない企業の場合

現時点で法定の日数の取得ができていない労働者が多い企業の場合、まずは対応方針を定める必要があります。方向性としては、大きく下記の2つのいずれかでしょう。

  • 個別の労働者の任意の取得を促進するような方向性で管理する

各労働者について有給休暇を取得する時季について話し合いをし、長期的な見通しを立て、確実に取得できるように現場管理者がマネジメントしていく必要があります。また、取得がされない場合に備えて、個人別に計画的な付与を行うような対応策も必要となるでしょう。

  • 企業全体あるいは部署などの単位で、有給休暇の計画的な一律の付与を行う

この場合は、どの時季に一律で年次有給休暇を付与するのが妥当かを検討する必要があります。また同時に、年次有給休暇の付与日数が、一律で付与する日数に満たない労働者について、どのような扱いにするかを決定する必要もあります。休日でない時季に事業主の責任で出社ができないので、通常は6割の賃金を支給する休業手当を支給するか、会社が定める特別の有給休暇を付与することになると考えられます。

5. その他の重要な詳細ルールと、年次有給休暇への対応の重要性

以上のように、今回の法改正による年次有給休暇のルールには、さまざまな検討すべき点があります。

 他にも、1年に5日間の年次有給休暇を取得させる義務の対象となる1年の決め方が詳細に定められています。1年間の始期を基準日といいますが、各労働者によって付与日が違う場合は基準日がずれますし、年2回の付与日がある場合や、入社月次によって初年の付与日数を調整するようなルールを設定している場合について、さまざまなルールが定められています。

運用があまりに複雑になる場合、そもそもの有給休暇の付与のルールの変更が必要になる場合もあると思われますが、休暇の取得は労働者の重要な権利であり、不利益な変更にならないような配慮も必要になってきます。

休日休暇は、働き方改革の目指す多様な働き方を実現するための非常に重要な論点です。労務管理やマネジメントなどさまざまな事項と関わるため、社労士などの専門家を活用し、自社に最も適した、実現性の高い方法を決定し、運用を開始していく必要があります。

【編集部より】
■おすすめの業務ガイド
このページでは有給休暇(年次有給休暇)の基本的な付与ルールや有給休暇取得日の賃金の計算方法について解説しています。

■有給休暇についての記事はこちら

■働き方改革に関する記事はこちら

執筆者紹介

松井勇策(社会保険労務士・産業カウンセラー・Webアーキテクト) 東京都社会保険労務士会 広報委員長(新宿支部)。フォレストコンサルティング社会保険労務士事務所代表。名古屋大学法学部卒業後、株式会社リクルートにて広告企画・人事コンサルティングの営業職に従事、のち経営管理部門で法務・監査・ITマネジメント等に関わる。その後、社会保険労務士として独立。労働法務の問題や法改正への対応、IPO支援、人事制度整備支援、ほかIT/広報関連の知見を生かしたブランディング戦略等を専門にしている。

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