大阪の企業「カスタマーリレーションテレマーケティング」の事例を紹介
女性活躍推進。女性の離職率低下、昇進者数1.5倍を達成する方法
2018.12.06
女性活躍推進は、政府の成長戦略の中核に位置づけられた重要課題だ。企業も対応を進めているが、女性が希望する働き方は多種多様で、各職場の理解にも差がある。画一的な制度やツールを導入するだけでは解決できない問題に、頭を悩ませる企業も多い。
大阪市でコールセンターを運営する「カスタマーリレーションテレマーケティング(CRTM)」は、職場に女性だけで構成するチームを、社外には女性向けのコミュニティーを導入。女性同士の関係をつくり、各個人の意向にあったキャリアアップ支援を徹底した。リーダー職に昇進した女性が約1.5倍になり、離職率も改善した「女性が働きやすい職場」のつくり方を、女性社員3人に聞いた。
CRTMの女性活躍推進の取り組み
・職場に女性だけのチームをつくる
・女性社員が互いに悩みを共有できる定例の食事会を開く
・託児手当(0歳~就学前の子どもを持つ正社員(1世帯)につき月2万円を支給)
・キューティーサポート手当(女性正社員に、美容院やジムの費用、化粧品の購入費として最大で月1万円を支給)
企業情報
カスタマーリレーションテレマーケティング
・本社所在地:大阪府大阪市北区曾根崎1-2-9梅新ファーストビル9F
・設立年:2007年4月
・全従業員数2500人(正社員352人、契約社員9人、アルバイト2139人)
うち女性従業員数1400人(正社員130人、契約社員6人、アルバイト1264人)※2018年3月31日現在
・事業内容:CRM事業、アウトバウンド事業、インバウンド事業、人材派遣業、生命保険・損害保険の募集業務および付帯業務
「女性同士のつながりがほしい」
CRTMが女性活躍推進に取り組み始めたきっかけは、新卒採用やアルバイトの正社員登用制度の開始により女性の正社員が増えたことだった。
以前の正社員の構成は男性8割、女性2割。コールセンターと聞くと女性が多く、元々女性が働きやすい職場が整っているイメージがあるかもしれないが、オペレーター(多くはアルバイト)を管理する立場である正社員は男性が多かった。当時の女性活躍推進策としては、法律の範囲内で必要な産休、育休制度を整えるにとどまっていた。
2012年に新卒採用、2015年にはアルバイトや契約社員を積極的に正社員に登用する制度を開始。次第に女性正社員が増え、2015年ごろには正社員のうち、女性の割合が4~5割に達した。2016年、代表取締役社長の小林祐樹氏の発案で、女性が働きやすい環境を考える社内プロジェクトが始まった。
プロジェクトには女性正社員40人が参加。一般社員、リーダー職に当たるスーパーバイザー(SV)の職種別に2グループに分かれ、各グループに女性役員やマネジャーが加わる形で職場での悩みや改善したいこと、新しく取り組みたいことを話し合った。
そこで挙がったのが「女性同士のつながりがほしい」との意見だった。女性活躍に関する制度やツールの拡充以上に、女性が互いに日常の悩みや今後のキャリアについて話し合える関係性を求めていることが分かった。
また、社員によって今後のキャリアの描き方が異なることも明らかになった。責任者を目指したい社員、現在の職種で充実した生活を送りたい社員、それぞれの要望に合わせた支援策が必要となった。
職場に女性だけのチームをつくり、離職率が改善
まず、CRTMが取り組んだのは、社内外で女性のつながりをつくること。2017年、コールセンター内には女性だけで構成するチームを導入。1チームにつき正社員、派遣社員、アルバイトら35~50人で構成し、現在は3チームまで増えている。
女性チームでは女性目線の新たな業務改善案が生まれ、離職率にも変化があった。SVの米倉千優さんが責任者を務めるチームでは、座りっぱなしになりやすい勤務状態を改善しようと、業務中にストレッチを実施するようになった。適度なリフレッシュにつながり、仕事の効率も上がったという。人事戦略本部の山崎理香さん(SV)は「女性チームからは、男性だけでは発案しにくい業務改善策が提案される」と利点を語る。
また、女性チームの入社1カ月以内の離職率は、男性責任者による男女混合のチームに比べて、2018年10月時点で約10%低かった。女性チームの従業員は勤務中、プライベートともにつながりが深まり、「悩みをいつでも相談できる」「会社に行くのが楽しくなった」と話す従業員もいるという。
(女性チームの責任者を務める米倉さん)
勤務外の時間でも、女性のコミュニティーづくりを進めている。2016年からは3~4カ月に一度、女性正社員向けの食事会を開催。女性役員と現在の職場の悩みやキャリアアップについて相談できる。
CRTMでは、会社として職場内外に「女性が孤立しない組織」を提供することで、女性が働きやすいコミュニティーや、互いに何でも話せる関係性をつくることができた。
現場の女性リーダーが直接声を掛けて、キャリアアップにつなげる
CRTMがもう1つ力を入れているのが、女性のキャリアアップ支援だ。現場の女性SVを中心に、女性正社員が従業員に積極的に声を掛け、キャリア志向に合わせてアルバイトから一般社員(正社員)へ、一般社員からSVへの昇格を促している。
SVの佐古愛子さんは、2016年のプロジェクト発足時から女性活躍推進に携わっている。「女性の中には自己主張が苦手な人や、将来へのステップが定まっていない状態で、ひとまずアルバイトをしている人もいる」(佐古さん)。仕事を通じて何を得たいのか、どう成長したいのか、女性SVが丁寧に耳を傾け、少しでも希望があれば積極的にステップアップを勧めている。現場で一緒に働くSVが直接女性たちに声を掛け、キャリアアップに導く役割を担っているのだ。その結果、女性SVの人数は2018年9月時点で、2016年と比べて1.5倍に増えた。
(女性に積極的に声を掛け、キャリアアップを勧めている佐古さん)
また、女性SVの増加を受けて新たにSVを目指す女性が増える、という好循環が、SV全体の残業時間の改善にもつながっている。SVは各現場の責任者となるため業務量が増えやすいが、SVの増加により1人ひとりの業務内容を分担でき、残業時間が1人につき平均で月5時間ほど削減した。女性の活躍が会社全体の業務改善にも影響した。
現場で影響力を持つ女性社員を巻き込む
CRTMはなぜ、約2年でここまで女性の活躍を推進できたのか。山崎さんは「各職場で影響力を持つ現場の女性社員を巻き込むことができたから」と話す。
女性チームの導入も、協力的な現場の女性社員の力でまずは1チームをつくり、そこでの成功事例により現在は3チームまで組織が拡大した。女性のキャリアアップも、女性SVたちが自律的に声掛けに動くことで成り立っている。また、現場社員の意見や人事担当者が気付かなかった課題点も、人事まで引き上げてくれる。女性活躍推進には、「人事担当者が挑戦する」のではなく、「人事と現場の社員が一体となり新しいことに取り組む」意識が重要だといえる。
(「現場で影響力を持つ女性社員を巻き込むことが大切」と語る山崎さん)
CRTMでは今後、現状での働き方を続けたい社員、SVからさらに上のキャリアを望む社員へのサポート体制を整える予定だ。2019年1月からは、全女性社員が参加するチームをつくり、より幅広く女性の意見を吸い上げていく。
女性活躍推進は、現場の社員をいかに巻き込めるかどうかで結果が分かれる。成功事例が1つ生まれれば、周囲の職場へと影響し、大きな変革をもたらすことができる。人事担当者はその「1つ目の種」をどのような形で、どの現場にまくのか、自社の状況を見て考えを巡らせてほしい。
【取材・編集:@人事編集部】
女性活躍推進に関する記事はこちら
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