コラム

「HR Technology Conference & Expo 2018」参加レポート(後編)


「HR Technology Conference & Expo」から見る、HR業界のトレンドとは

2018.11.26

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前後編の2回にわたってお届けする、世界最大級のHRテクノロジーイベント「HR Technology Conference & Expo 2018」のレポート記事。前回の記事では、「Expo」にフォーカスを当てて、会場の様子やイベント内容をご紹介しました。

後編となる今回は、「Conference」の内容についてレポートします。イベント内容から読み取れるトレンドや、今後参加される方に向けての留意事項などについて取り上げたいと思います。

プレカンファレンスイベント「Women in HR Technology」

「Conference」は9月11日~14日の全期間を通して開催されていました。その中で、初日(9月11日)の午前中は、「Women in HR Technology」というプレカンファレンスイベントとして位置付けられていました。

このイベントではダイバーシティー&インクルージョンに関する考えを学ぶことができ、なかなかインパクトがあるものでした。中でも、特徴的だった2つのセッション内容をご紹介します。

「ダイバーシティー」は、女性をむやみに登用・昇格させることではない

「Women in HR Technology Opening Keynote: The Business Case for Diversity」というセッションでは、車のエアバッグの開発を例に、ダイバーシティーの重要性について説明していました。

アメリカの技術者・エンジニアは、採用や待遇面で男性が優遇されることが多いそうです。それは、個人の能力によって結果が大きく左右される中途採用だけではなく、日本で言う「新卒採用」においても同じ状況とのことです。そういった環境のためか、アメリカでは、車のエアバッグが男性基準のサイズで作られており、女性が利用するケースが考慮されていないといいます。

「ダイバーシティー」というと、既存の重要ポジションへ女性を登用・昇格させることを連想されがちですが、それは本来の目的ではありません。

男女間の異なる特性を理解した上で、女性に活躍の機会を与えたり、女性の活躍状況を数値で見える化することの方が大切だとおっしゃっていました。

業務プロセスの一部にAIを利用するべき

181122_HEC_01また、「AI, Blockchain and VR: Are They Here to Stay?」というセッションでは、近年注目されているAI、Blockchain、VRをテーマに、4人の人事スペシャリストの女性によるパネルディスカッションが行われました。

近年のAIやBlockchainの台頭は目覚ましいものがありますが、人間が行っている仕事が全てこれらに代替されるということはなく、人間がその場で思考・判断する役割に関してはそう簡単には代替できないものだと話していました。

登壇者がお勧めする利用方法として、業務プロセスの一部にAIを導入する、いわゆるRPA(Robotic Process Automation)の考え方が紹介されていました。人事業務の中では、給与計算や採用における候補者のスクリーニングといった業務が当てはまります。
※参考:「チャットボット」「AI採用」ソフトバンクが実践! 人事の業務効率化

また、各テクノロジーについて、AIは投資段階に来ているが、Blockchainはどう使うのかを検討する段階で、VRについては導入すること自体が時期尚早である、という見解がなされていました。

カンファレンスの種類

次に、カンファレンスの種類についてご説明します。カンファレンスは、以下の3つに分類されます。

・キーノートセッション
・カテゴリーセッション
・メガセッション

1.キーノートセッション

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1日に1回、1時間前後のキーノートセッション(基調講演)が開催されていました。

特に2日目(9月12日)、3日目(9月13日)は早朝8時台に開催されるので、その前に会場内で朝食が提供されました。こういうところがアメリカのカンファレンスイベントらしいサービスです。

キーノートセッションは、HR業界には限らず、インスピレーションを与えてくれるさまざまな業界の著名人が登壇されているように思えました。実際に、2日目のキーノートセッションでは、Randi Zuckerberg氏(Facebook社創始者 Mark Zuckerberg氏の姉)が登壇されました。

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そのセッションで話されていたことをご紹介します。コカ・コーラ社のTwitterアカウントは、そのフォロワー数から鑑みると影響度合いがもはや1つのメディアと言ってもいいくらい大きいものだそうです。さらに、「氷でできたホテルで宿泊をする」といった珍しい個人の経験は、SNSによってほぼリアルタイムで共有・拡散されるようになっています。

そういった状況から、Zuckerberg氏は「全ての企業はメディアであり、個人はブランドである」とおっしゃっていました。このメッセージは、上記のような近年の潮流だけではなく、Facebook退社後のブロードウェイミュージカルへの出演や書籍の執筆など、ポジティブなマインドでさまざまなチャンスを引き寄せているように見える彼女自身の生き方から出てきたものだろうと感じました。

日本においても、SNSの活用により個人がブランド化されている実例は多くあり、彼女のメッセージに納得できるものがありました。

2.カテゴリーセッション

カテゴリーセッションとは、以下の11種類に分類されたカテゴリーをもとに展開されるセッションです。

・CHRO
・Project Success
・Technical Success
・Market Landscape
・Research Insights
・Talent Acquisition
・Talent Management
・HR Transformation
・AI in HR
・Market Visionaries
・Workplace Innovation

1セッションあたり60分程度で行われ、同時間帯に複数のセッションが開催されるため、全期間を通して参加できるのは最大でも6つ程度です。(後述の「HR Tech Market Landscape: Learning Technology」は、「Market Landscape」というカテゴリー内のセッションの1つとして実施されたものです。)

そこで私は、1つのカテゴリーに対する知識を深掘りするため、上記の中から2,3個に絞ったカテゴリーのセッションを重点的に参加することを検討しました。

しかし、カテゴリーの定義そのものが完全に区分けされているというより、お互いにリンクする部分があるように感じたため、時間帯ごとに別カテゴリーのセッションに参加するようにしました。

3.メガセッション

3日目(9月13日)には、4つのメガセッションが開催されました。そのうち3つは午後の同時間帯に開催されていたため、事前に情報収集し、どのメガセッションに参加するかを決めておくことが必要だと感じました。

私は「Awesome New Technologies for HR」というメガセッションに出席しました。これは、有名なベンダー7社(ADP, iCIMS, PeopleDoc, ServiceNow, SumTotal Systems, YouEarnedIt)が、自分たちのサービスにおける新しさあるいは一押しの機能などの「自慢大会」でした。各社の発表時間が5分程度と時間制限があったので、次々と展開してゆくスピード感のあるセッションでした。

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中でも印象に残ったのは、SumTotal Systems社が紹介したVRトレーニングプログラムです。同プログラムでは、仮想現実によって実際の業務のシミュレーションを行うことができ、現在の自分のポジションとのフィット率や、業務上必要なスキルについて、補うべき項目を判断してくれるといいます。

詳細なデータ分析によってパーソナライズ化されたトレーニングメニューと、VRによる実践的な研修で、短期間でのスキルアップが見込まれるそうです。同プログラムの導入により、ジョブマッチが約80%程度まで向上した事例もあるといいます。

参加セッションから得た5つの視点

以上3種類のセッションに参加して得た、5つの気付きについて述べたいと思います。

1.AIは「どう使うか」を検討する段階に来ている

今では、「HRテクノロジーにおいてなぜAIが必要なのか」を検討する段階は終わっているようです。それは「Ideas and Innovators in HR 」をはじめとする、いくつかのセッションのスピーカーが話していました。現在は「AIをどのように使うのか」を考える段階に来ているようです。

しかし、「Debut of Interim Findings of the HR Technology Market 2019 Report 」でも指摘されていましたが、AIやRPAは今後も加速的に広がっていくと予測されている一方で、そのための具体的な施策を行っている会社はまだ少ないそうです。AIをいかに活用していくか、より実践的に検討する必要があるといえます。

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また、いくつかの企業事例によりAIの利便性は証明され、人事部門に求められるコンピテンシー(※)にも変化が出ています。しかし、「HR Tech Market Landscape: AI in HR 」のセッションによると、実際どの程度の仕事内容がAIに置き換えられるかは誰も把握できていないのが現状だそうです。

※コンピテンシー:職務や役割において優秀な成果を発揮する行動特性。社内の人材育成や評価基準、採用面接に活用される。(参考:カオナビ人事用語集)

今回のHR Technology Conference & Expoでは、AIによって実現しているサービスが展示ブースなどでもいくつか紹介されていました。

例えば、「Texio」というツールは、採用における職務記述書や求人広告、採用候補者へのメール内容をAIにて分析することで、担当者間のバラつきを少なくするだけではなく、より効果的な採用を実現させます。また、「TalentFeed」というツールは、SNSやWebサイトに掲載されている個人のスキル・経験・経歴などから採用候補者を抽出しデータベースを作成することが可能だそうです。

2.Learningに求められるもの

「HR Tech Market Landscape: Learning Technology」によると、Learning(研修)関連のベンダーは115社あり、その中には、マイクロソフト、Facebook、アマゾン、セールスフォースドットコムといった、今までLearning分野に関与していなかったベンダーも参入しているようです。

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また、自分たちが持っているもの以上のことを企業が求めるようになったことで、L&D(Learning & Development:人材開発)担当者に求められるマインドセットが変わってきています。

さらに、「マイクロラーニング」や「Learning Experience Platform」というツールについても言及されていました。

「マイクロラーニング」とは、1つのテーマに焦点を当てた、5分または5ページ以内で完結するeラーニングのことを指します。「Learning Experience Platform」は、従来の学習ツールよりもパーソナライズ化されたコンテンツ内容になっており、学習機会の増加、キャリアパスの作成、パフォーマンス向上といった効果が期待できます。

毎年5月頃にアメリカで開催されるATD-ICE(https://atdconference.td.org/)でも同様のことが提唱されていたので、アメリカではこれらのツールが既に定着しつつあると言えるでしょう。

3.テクノロジーは全能ではない

「The World Known as HR Technology Has Changed Forever. Are You Ready?」のセッションによると、テクノロジーは、ビジネスの成功要因の10%しか占めていないそうです。残りの45%はプロセス(いつ、どのように行うのか)、25%は人(誰が行うのか)、20%がマインドセットだといいます。

つまり、HRテクノロジーを導入したからといって、企業内の全ての問題が解決するということではありません。また、セッション内ではマインドとプロセスの組み合わせを「デジタル」と称しており、HRテクノロジーに頼りすぎず「デジタル」によって解決していかなければならないと話していました。

4.「人を理解すること」が企業のパフォーマンスに直結する

このセッションでは、「組織内部の変化が、外部の変化についていけなくなったとき、終わりはすぐそこに来ている」というジャック・ウェルチの名言についても力説されていました。

その事態を防ぐためには、ビジョンと成功の定義を行い、測定基準を設けることが肝要です。さらに、人事に携わる者は対象となるマーケットが「社員(人)」である以上、「人を理解する」ことが求められます

「人を理解する」という内容は、他の表現で他セッションでも取り上げられていました。キーノートの1つだった「From Surviving to Thriving: Health, Wellness, Culture, and the Future of Engaging Your Workforce」によると、ビジネスリーダーが、会社のカルチャーや自身の部下がどんなタイプなのかを理解していることが、結果として社員エンゲージメントのスコア向上につながったそうです。

5.Wellness(身体および精神の健康)が最重要項目である

また、同じセッションにおいて、Wellness(身体および精神の健康)が給与・トレーニング・福利厚生のいずれよりも重要だとコメントされていました。そして、それをサポートするためのプログラムは、社員のExperience(体験)を追求して作り上げていくべきとのことです。プログラムありきではなく、社員がどんなシーンにいるのか、そしてどんな環境下なのかといったことを突き詰めて考えなければいけない、ということだろうと私は受け取りました。

さらに、「The Evolution of Performance Management: Life After the Annual Appraisal」では、パフォーマンスマネジメントにおいては、システム(ツール)を導入しただけで解決することはなく、そういったツールはあくまで手助けの1つで、フィードバックをしっかり行い、双方(上司と部下)による対話こそが重要だとおっしゃっていました。

来年参加する方が押さえておくべき4つのポイント

この記事を読んでHR Technology Conference & Expoに関心を持った方は、是非とも来年(2019年10月1日~4日@ラスベガス)は直接現地に行ってみることをお勧めします。そこで、来年参加する方々に向けて、いくつか知っておいた方がよい情報をお伝えします。

宿泊場所

会場となるホテルがイベントの公式ホテルとして指定されていますが、実際は周辺のホテルに泊まる人の方も多いです。また、ラスベガスは1つひとつのホテルがとても広いので、宿泊するホテルによっては、公共交通機関やタクシーなどを使った移動が必須になります。

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会場でのコミュニケーション

全てのセッションは英語で行われ、会場で同時通訳などは準備されていません。グループワークなどはほとんど無いので、セッションに関してはある程度のヒアリング力があれば大丈夫です。Expoについては、どれだけ出展企業とコミュニケーションを取りたいのかによって求められる語学能力は異なりますが、気後れする必要は全くありません。

セッション

セッションは同時間帯にいくつも開催されているので、事前にどのセッションに参加するのかは決めておいた方がよいでしょう。ただ、期待していたものと異なっている、あるいは、突然開催がキャンセルになることもあるので、いくつか候補を用意しておくと安心です。

スライド

投影資料は数日前に参加者だけがアクセスできるサイト上で公開され、ダウンロードできるようになっていましたが、事前に公開されるセッションはとても少なかったです。当日、スライドの写真を撮る人が多いので、気になるスライドは遠慮なく撮影できます。

「1次情報」に触れることで、知識・見解が広がる

今回、初めてHR Technology Conference & Expoに参加しました。日本からは100人を超える方が参加しており、外国勢としてはトップの人数だったようです。日本で開催される「報告会」や参加者が発信するSNS、ブログ記事などで情報を得ることはできますが、それらによって自分が知りたいことが全部網羅できるとは限りません。

現地に行って、直接感じることによって得られる「1次情報」にふれることで、HRテクノロジーに関する知識や見識が広がっただけではなく、自分のHRテクノロジーに関する考えも再確認できたと思いました。次は、この記事を読んでくださった皆さんの番です!

執筆者紹介

永見昌彦(ながみ・まさひこ) アルドーニ株式会社代表取締役。外資系コンサルティングファームなどで人事コンサルタントとして勤務した後、事業会社(ラグジュアリーブランド持株会社)で人事企画担当マネージャーとして人材開発・人事システム・人事企画を兼務。事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして、2016年にフリーランス人事プランナー・コンサルタントとして独立。2018年に法人化。現在、人事全般のプランニング・コンサルティング・実務にたずさわっている。

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