【労務担当者必見】2019 年度の就業規則改訂はここに注意!
2019年度就業規則改訂で知っておくべき副業・兼業の法的リスクと回避
2018.11.02

2018年、毎日のように目にした言葉のひとつに、政府の推進する『働き方改革』があります。日本が直面している少子高齢化による労働人口の減少、長時間労働による負担軽減などを解決するために、国家施策として行われている『働き方改革』ですが、特に注目を集めているのが『副業・兼業の推進』です。
この方針を受けて、2018年1月に厚生労働省が改訂した『モデル就業規則』では、副業解禁を前提とした内容が盛り込まれました。多くの企業ではモデル就業規則を参考として会社の就業規則を定めているため、2019年度に就業規則を改訂し、社員の副業を認める企業は急激に増えることが予想されます。優秀な人材の確保、離職抑止など副業容認が企業にもたらすメリットはたくさんあります。
また、労働者にとっても収入の増加をはじめキャリア形成やスキルアップなど自己実現を可能にします。しかし複数の事業所に所属するかたちの副業を容認する場合に注意すべき法的リスクがあることはあまり知られていません。副業容認を決定する前に企業と労働者が知っておくべき注意点を解説します。
藤井 総
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
「世界を便利にしてくれるITサービスをサポートする」ことを使命(ミッション)に掲げ、ITサービスを運営する企業に法務顧問サービスを提供している。
顧問を務める企業は2018年現在で約70社。契約書・Webサービスの利用規約(作成・審査・交渉サポート)、労働問題、債権回収、知的財産、経済特別法など企業法務全般に対応している。
厚生労働省『モデル就業規則』の概要とそこに潜む法的リスク
労働基準法により、常時10人以上の従業員を使用する企業は、就業規則の策定が義務付けられています。『モデル就業規則』とは、厚生労働省が参考例として公表している就業規則のガイドラインです。
2018年1月に改訂された『モデル就業規則』では、副業・兼業に関連する項目で、以下が明記されました。
・副業は自由である(社員が勤務時間以外の時間をどのように利用するかは社員の自由である)
・副業をするにあたり、会社に事前に届出を行う
・労働提供に支障がある場合、企業秘密が漏えいする場合、会社との信頼関係を破壊する場合、協業により会社の利益を害する場合には、会社は副業を制限できる
では上記を満たしていれば、企業は社員の副業を解禁してもいいのでしょうか。実は副業解禁には、あまり知られていない法的リスクがあります。具体的には①労働時間の合算②労災保険の2つです。
①「労働時間の合算ルール」本業・副業どちらの会社が残業代を負担するべきか?
1つ目の法的リスクは、労働時間の合算ルールです。
労働時間の合算ルールとは労働基準法で定められている、労働者がいくつかの会社で働く場合でも労働時間は合算して計算するというルールです。そのため、ある人が複数の会社で1日8時間の所定労働時間を超えて働くと、残業代(時間外割増手当)が発生することになります。
例えば、日中は本業のA社で8時間働き、夕方以降に副業のB社で3時間働いた場合、B社では8時間を超えてからの労働になるので、わずか3時間しか働いていないのに、その3時間全てに残業代は発生することになってしまいます。B社としては、想定外のコストになります。現実には、B社がその社員のA社での労働時間を把握するのは困難です。本人の自己申告に頼ると本当かどうかわかりませんし、A社とB社が互いの労働時間を正確に把握することも困難です。
そのため残念ながら、この問題点を曖昧にして、またはそもそも把握せずに処理しているケースも少なくないようです。
この労働時間の合算ルールは、心身に悪影響を及ぼす長時間労働を防ぐ側面もありますが、副業が増えている今の時代にそぐわないのではないか、という議論も持たれています。
2018年7月より厚生労働省は労働時間の合算ルールの見直しを始めました。労働基準法を改正する可能性を考えながら議論を行い、早ければ2020年の国会に法案を出し、2021年に仕組みを変える予定です。
②労災保険…通勤中の事故やメンタルヘルスの不調は本業・副業どちらの会社が原因になるのか?
2つ目の法的リスクは、労災保険です。
労災保険は、労働者を雇用している会社は原則として労災保険に加入する義務があり、労働者が勤務中や通勤中に事故で怪我したり病気になった場合に、保険金が給付される制度です。
労災保険の給付額は、労災が発生した就業先の賃金をベースに算定されます。
つまり、本業のA社の月給が35万円、副業のB社の月給が5万円とすると、B社で勤務中に労災が発生して休業することになった場合、B社の月給5万円をベースに80%を乗じた金額(4万円)が給付されることになります。A社とB社を合算した金額(40万円)ではありませんし、月給が高い方のA社でもありません。
また、本業・副業の勤務場所間の移動中に起こった労災は、移動の終点である勤務場所で働くために行われる通勤だと考えられるので、移動の終点である勤務場所の労災保険で処理されます。上の例だと、A社で日中の勤務を終え、夕方以降にB社で働くために移動中に、事故に遭って休業することになった場合、B社の月給5万円をベースに給付額が算定されることになってしまいます。

「平成29年度 過労死等の労災補償状況」(厚生労働省)
また、副業をすれば、それだけ総労働時間が長くなり、過重労働になりえます。結果として、うつ病などの精神障害を発症してしまったり、過労死の心配もあります。近年では精神障害による労災申請は増加傾向の一途にあり、その場合に、本業と副業のどちらの業務が原因で労災が発生したか(精神障害が発症したか)判断するのは大変困難です。
法的リスクを最小限にするフリーランス契約。アメリカでは2020年には50%がフリーランスに
では、こうした法的リスクを踏まえたうえで、どのように副業を推進していけばよいのでしょうか。これらのリスクを完全にではないにせよ、回避する方法があります。それは、副業を『雇用』ではなく『業務委託』として契約する方法です。つまり、労働者は副業先ではフリーランスとして働くことになります。
フリーランスの働き方には“労働時間”という概念がないので、合算ルールは適用されません。そのため、企業は残業手当の負担をする必要がなく、労働者も時間管理をせずにすみます。
労災についてもかなりリスクを減らすことが可能です。フリーランスは働く場所を限定されない事も多いため、本業の勤務終了後に副業先のオフィスに移動中に事故にあった場合に、副業の賃金をベースに労災保険の給付額が決定されてしまう、という問題も生じにくくなります。また長時間労働の問題も、自由に労働時間をコントロールできるフリーランスであれば、自分で調整する事ができます。
特定の分野でスキルを持ったプロフェッショナルとして、取引先を自ら選んで、業務内容ベースや成果ベースのフリーランスとして副業を行うのであれば、法的リスクは最小限におさめられます。
アメリカのナショナル・ポストの発表によると、現在アメリカのフリーランス労働人口は労働者の35%を占め、2020年までには50%に達する見通しです。カナダでも2020年までに労働人口の45%がフリーランスになるとの予測がされています(ファイナンシャル・ポスト調べ)。
日本でも今後は法整備が進み、フリーランスとして自由に働くことが一般的になっていくでしょう。そして「本業と副業」の区別もなくなっていくかもしれません。
【弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 概要】
法人名:弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所(第一東京弁護士会)
代表弁護士:藤井 総、小野 智博(共同代表制)
所在地:東京都千代田区丸の内1-8-3 丸の内トラストタワー本館20階
電話:03-4405-9708
設立:2015年(2018 年に現事務所名に変更)
ホームページ:IT弁護士.com https://itbengoshi.com/
事業内容:IT事業に特化した企業法務顧問業
オウンドメディア:IT弁護士 MEDIA https://media.itbengoshi.com/
【この記事は11月1日発表の弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所のリリース記事を一部編集して公開しています】
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執筆者紹介

藤井 総(ふじい・そう)(弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士) 「世界を便利にしてくれるITサービスをサポートする」ことを使命(ミッション)に掲げ、ITサービスを運営する企業に法務顧問サービスを提供している。 顧問を務める企業は2019年現在で70社以上。契約書・Webサービスの利用規約(作成・審査・交渉サポート)、労働問題、債権回収、知的財産、経済特別法など企業法務全般に対応している。
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