特集

特集「超高齢社会 拡大し続けるシニア雇用」第4弾


高年齢者雇用安定法とは? データから見る日本企業の現状

2018.11.14

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

企業が高齢者雇用を実施する際の基本となるのが、「高年齢者雇用安定法」だ。2013年の法改正では希望者が65歳まで働ける環境の整備が義務化され、企業は対応を続けている。

今回、@人事編集部では、制度の概要や全国の企業の環境整備状況をデータで集約。さらに、東京都社会保険労務士会の松井勇策氏が、企業で高齢者雇用を導入する際の注意点を解説する。

【特集トップ】特集「超高齢社会 拡大し続けるシニア雇用」

高年齢者雇用安定法とは

高年齢者が健康で、意欲と能力がある限り、年齢に関わらず働き続けられる社会の実現を目的に制定された。高齢者の就労促進の一環として、高齢者の雇用確保措置の充実を目指す。2013年4月、高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続けられる環境を整備することを目標として、改正された。

2013年に改正された高年齢者雇用安定法4つの変更点

2013年の法改正により、主に以下の4点が変更された。

1.定年の引き上げや継続雇用制度の導入により、継続雇用を希望する全員が必ず雇用されるようにする

2004年の改正では、①定年の引上げ ②継続雇用制度の導入(労使協定により基準を定めた場合は、 希望者全員を対象としない制度も可)③定年の廃止のいずれかの措置が義務化された。2013年の改正により、②の()内の「労使協定により基準を定めた場合は、 希望者全員を対象としない制度も可」を削除。継続雇用制度を導入する場合は、一部の例外(就業規則に定める解雇、退職理由に該当する場合)を除き、希望者全員を雇用しなければいけないということになった。

2.継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大

継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大する仕組みを設ける。なお、子会社や関連会社の範囲は、厚生労働省令により定める。

3.義務違反の企業に対する公表規定の導入

高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告に従わない企業名を公表する規定を設ける。

4.高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針の策定

企業は高年齢者雇用確保措置の実施、運用に関する指針の根拠を設ける。

高年齢者雇用安定法が改正された背景

2013年の法改正の背景には、厚生年金の支給開始年齢の引き上げがある。

老齢厚生年金(現役時代に厚生年金を支払った人に支給される年金)のうち、報酬比例部分に対しては2013年度から支給開始年齢の引き上げが開始。引き上げは2013年4月に61歳、2016年4月に62歳と3年ごとに段階的に行われる。そのため、2013年度には60歳定年以降に継続雇用を希望しても継続されず、年金も支給されない無収入者が生じる可能性が出てきた。この「年金支給と雇用の接続」という課題を解決するために、高年齢者雇用安定法の改正が行われた。

法改正の前後で企業はどう動いた? データで分析

企業は高齢者雇用を促す政府の動きに対して、どのような対応策を講じてきたのか。改正前の2006年、法改正直後の2014年、最新データとなる2017年の3カ年で、高年齢者の雇用状況のデータを比較する。

(出典:厚生労働省「『高年齢者の雇用状況』集計結果」
※調査は、常時雇用する労働者が31人以上の全国の企業156,113社を集計対象とした。

最初に、①定年の引き上げ②継続雇用制度の導入③定年の廃止のいずれかの高年齢者雇用確保措置を実施している企業の数を調べる。2006年には68,324 社(84.0%)(総企業数に対する割合)であったが、2014年には143,179 社(98.1%)、2017年には155,638 社(99.7%)と、法改正によりほぼ全ての企業で高齢者雇用対策が実施されていることが分かる。

超高齢社会_グラフ_高齢者雇用措置の実施状況

高齢者雇用措置の実施状況の推移

では、企業は①~③のどの措置を講じているのか。

超高齢社会_グラフ_高齢者雇用の実施内容の推移

企業が高齢者雇用対策で実施した内容と推移

大多数を占めるのが②継続雇用制度の導入だ。2006年は58,665 社(85.9%)(雇用確保措置実施済み企業数に対する割合)、2014年は117,012 社(81.7%)、2017年には124,982 社(80.3%)となり、毎年最も割合が大きくなっている。継続雇用制度は他に比べて高齢者雇用の一歩として取り組みやすいとみられる。

その中でも、希望者全員を対象とする65歳以上の継続雇用制度を実施しているのは、2006年には22,911 社(39.1%)(継続雇用制度を導入する企業の総数に対する割合)、2014年は77,419 社 (66.2%)、2017年は87,425 社(70.0%)。法改正により、2017年は2006年に比べ実施企業数が4倍近くに増えた。

①定年の引き上げを実施している企業は2006年には8,829 社(12.9%)(雇用確保措置実施済み企業数に対する割合)、2014年には22,317 社(15.6%)、2017年には26,592 社(17.1%)と徐々に増加している。

最も導入企業数が少ないのが、③定年の廃止だ。2006年は830 社(1.2%) (雇用確保措置実施済み企業数に対する割合)、2014年は3,850 社(2.7%)、2017年は4,064 社(2.6%)と、毎年少数派となっている。

(上記は全て2018年9月時点の情報を基に編集しています)

日本企業が実施する高齢者雇用対策の傾向を社労士が解説。継続雇用における高齢社員の存在をどう捉えていくべきか

3つを比較すると、継続雇用制度の導入数が際立つ。ここまで大きな差が出ているのはなぜか。社会保険労務士の松井勇策氏に解説してもらった。

松井勇策(社会保険労務士・産業カウンセラー・Webアーキテクト)

matsuiyusaku_okao

東京都社会保険労務士会 広報委員長(新宿支部)。フォレストコンサルティング社会保険労務士事務所代表。名古屋大学法学部卒業後、株式会社リクルートにて広告企画・人事コンサルティングの営業職に従事、のち経営管理部門で法務・監査・ITマネジメント等に関わる。その後、社会保険労務士として独立。労務法務の問題や法改正への対応、IPO支援、人事制度整備支援、ほかIT/広報関連の知見を生かしたブランディング戦略等を専門にしている。

継続雇用制度が多いのは、雇用条件の変更がしやすいから

継続雇用制度の利点は、雇用契約を新たに変えるため、賃金をはじめ雇用条件の変更がしやすい点です。高年齢期にさまざまに変化する社員の状況や企業側の必要性に合わせ、処遇の変更がしやすくなります。他の2つの施策にはないメリットといえます。

ただし、上記のような特徴は、そのまま雇用が不安定であるということに直結します。雇用契約の内容が変わり、単位とする期間(通常は1年)ごとに処遇や業務内容まで見直す可能性が生ずると、当然、被用者としての高齢社員の意識も変わります。キャリアプランニングやモチベーションの維持につながる施策を行わないと、高齢社員の仕事への意欲が下がることが多いとされています。

継続雇用制度を導入する複数の企業でみられるのが、高齢社員に「現場のベテランとしての顧問的・マイスター的な立ち位置」を求めることです。フルタイムで働くことは想定されていないものの、現場の指導やメンタリングが期待されている場合は、かえって業務へのモチベーションが高くなることがあります。

定年の引き上げや廃止は、高齢社員を通常の正社員同様に雇用し、活躍を求めること

定年の引き上げや廃止は、現状の雇用契約をそのまま続けるということ。特に、賃金をはじめとする処遇の引き下げの変更については、社員からは合理的な理由を説明する要請が強くなります。企業側は、高齢社員を通常の正社員と同様に事業の中核を担う自社の一員として雇用する決意を要するといえるでしょう。

定年の引き上げや廃止は、高年齢期前の立場が持続するということを意味します。こうした制度を導入する場合は、自社の業務や雇用体系を整備した上で、「高年齢期になってもそれ以前と同じような活躍を求める」方針が基盤となるといえます。

少子高齢化により、高齢社員を「補助」と考えることは現実性を失っていく

継続雇用制度の採用をする企業が多かったのは、これまでは高年齢者を補助的な戦力、あるいは現役時代と違う補助的役割として捉え、年金受給までのつなぎとしてのキャリアプランニングを重視してきた側面も強いと思われます。

しかし、今後の中期的な社会の変化を見ますと、年金をはじめとする高年齢期の社会保障制度は、収入や年齢についての条件がさらにドラスティックに厳しくなると予測されます。高年齢期でも、それ以前と同じように働き続けたい人の数が増えてきます。一方、少子高齢化による若年期の労働者不足は、地方ではすでに具体的な問題として表れています。今後は、速やかに全地域的・全業種的な問題になってくると考えられます。

もはや、高年齢期の勤務を補助的なものとする考え方は、高年齢期の収入確保の必要性から徐々に現実性を失っていくことが明らかです。今後5~10年先までの自社の変化を見据え、どのような施策を取ることが事業の存続と発展、社員の幸せにつながるのかを、危機と機会の両側面から考える必要があるのです。【解説おわり】

まとめ:時代の変化を意識し、高齢社員を「戦力」と捉えた人事改革に踏み切る

企業が高齢社員に「補助」としての役割を求めるか、現役社員同様の成果を求めるかによって、どの制度を実施すべきか異なってくる。今後、労働人口全体は少なくなり、高齢者が労働人口に占める割合は増える。また、社会保障制度の変更により、高齢者が年金を受給開始する年齢の引き上げも考えられる。企業はこの時代の変化を意識し、高齢社員を「戦力」ととらえた人事制度を整えるべきではないか。社員にもその意思を伝え、50代の早めの段階から60歳以降のキャリアを共に考え、情報共有する時間をつくってほしい。

【取材・執筆:@人事編集部】

高齢者雇用に関する記事はこちら

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

あわせて読みたい

あわせて読みたい


資料請求リストに追加しました