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特集「超高齢社会 拡大し続けるシニア雇用」第3弾


学習院大名誉教授・今野浩一郎氏が語る 高齢者雇用の問題点と解決法

2018.11.12

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高齢者雇用を社員の満足や会社の業績向上につなげている企業と、そうでない企業にはどこに差があるのか。また、実際に高齢社員の賃金制度や支援策を考える際に、何に気をつければいいのだろう。『高齢社員の人事管理』(中央経済社)の著者で、人事管理を研究する今野浩一郎氏に取材し、多くの企業の高齢者雇用で起きている問題、効果的な解決法を探った。

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今野浩一郎

1946年東京都生まれ。1971年に東京工業大理工学部経営工学科(当時)を卒業し、1973年に同大大学院理工学研究科修士課程を修了。その後、神奈川大工学部助手、東京学芸大教育学部講師、同大助教授を歴任。1992年に学習院大経済学部教授となり、2017年に定年退職。現在は同大名誉教授、学習院さくらアカデミー長を務める。専門は人事管理。

成果を期待しない高齢者雇用は「福祉的雇用」でしかない

今野氏は高齢者雇用の現状をどう分析し、どこに問題点があると考えているのか。

2013年の高年齢者雇用安定法の改正を受け、現在は企業の8割近くが継続雇用制度を導入している(出典:厚生労働省「『高年齢者の雇用状況』集計結果」)。そのうちの多くの企業は60歳を超えた高齢社員を1年契約の有期契約社員として再雇用。現役時代とほぼ同じ内容の仕事をしてもらうものの、賃金は減らし、人事評価や昇給はしないケースが多いという。

賃金減額の原因の1つには、60歳以上で受給可能となる在職老齢年金、高年齢者雇用継続給付金との兼ね合いが挙げられる。いずれも高齢社員の賃金を上げると支給額が減額されるため、バランスを取るために賃金を上げないケースが見られる。仕事の内容や能力、成果で評価し、賃金を決めることができない状況が生まれている。成果を上げても上げなくても評価されず、賃金も下がるならば、仕事の意欲が下がるのは当然だ。

今野氏は「高齢社員の評価をしないことは、『仕事の成果を期待していない』と伝えているのと同じだ」と批判する。雇用とは、仕事の成果を求めて社員を雇うこと。成果を求めず、「政府が法改正により、企業に(段階的ではあるが)65歳まで雇用を確保するように定めたから」という考え方で雇用するのは「『福祉的雇用』としかいえない。雇用の原則からかけ離れている」(今野氏)

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しかし、今後も高齢社員は増加の一途をたどり、何も対応を講じないわけにはいかない。総務省の労働力調査によると、65歳以上の労働人口は2017年、過去最高の807万人(全体の12.4%)に達し、14年連続で増加した。厚生労働省の雇用政策研究会報告書(2015年度)でも、今後も引き続き「働く高齢者」の増加が見込まれている。

もし、高齢社員が労働意欲の低い集団となれば、職場からは活力が失われる。今野氏は「今後の高齢社員の増加を見込み、今から高齢社員を『戦力』と意識した人事制度を考えるべきだ」と訴える。

高齢社員に求める仕事や期待を明示し、本人の希望とマッチングさせる

では、企業は高齢社員を戦力とするために、どのような制度を組み立てるべきなのか。今野氏は「高齢社員に求める役割、仕事内容、期待していることを明確にし、それに応じて評価すること」と説明する。

まず、企業は社内の各部署から高齢社員にやってほしい業務を挙げ、高齢社員の希望とすり合わせる。その上で、各社員に「どのような役割や成果を期待するか」を明示し、社員がそれぞれ期待にどれだけ応えられるかで評価する。

業務のマッチングは、職場の上司と高齢社員が話し合うことが中心となる。そのほか、企業が高齢社員に業務リストを公開し、高齢社員が関心のある仕事に応募する「社内公募制」も考えられる。

今野氏は「この『業務のマッチング』が最も重要で、最も難しい」と話す。理由の1つは、必ずしも全員が、現役時代に蓄積した経験や能力を生かす職場に配属されるとは限らないからだ。会社が高齢社員に求める業務内容が現役時代とは異なり、それに応じて賃金が低下することも考えられる。モチベーションも下がるかもしれない。

ただし、高齢社員自身も、60歳以降の働き方について考えや行動を変える必要がある。

日本企業ではこれまで、新卒入社の社員が日々の業務で能力を伸ばし、常に上のポジションを目指す「のぼる」キャリアを体験してきた。しかし、60歳以降も働く時代が訪れ、職業人生が長くなれば、全社員が最後までキャリアをのぼり続けることはできない。自営業の人が高齢になり、体力に合わせて事業を縮小していくのと同じだ。「ある時点でキャリアの方向性を切り替え、『おりる時が来るのが自然』と気持ちを切り替えてもらうことが重要」(今野氏)

キャリアの考え方の切り替えは、すぐにできることではない。企業は社員に50代の間から切り替えに関する研修を受けてもらい、60歳以降の仕事のマッチングに向けた準備を進めるべきだ。

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賃金が変わることを合理的に説明する

企業の人件費に直結する高齢社員の賃金は、どう決めるべきか。今野氏は、「高齢社員が『制約社員』かつ『短期決済型』という現役と異なる特殊性があると認識した上で、仕事内容に応じた評価、賃金制度をつくるといい」と説明する。

現役の社員は、企業の都合に応じて柔軟に転勤や異動、残業をして働き方を変える「無制約社員」である。また、若手時代に教育を受け、成長し、蓄えた能力をのちのち成果として企業に還元する「長期決済型」で働く。彼らに対する企業の賃金制度は「育てて、活用し、支払う」仕組みだ。

一方、高齢社員は残業時間や異動に制約が生まれる「制約社員」だ。また、現在持ち合わせる能力と意欲を今、活用することを求められる。彼らに対する賃金制度は「今の働き方に対して今、支払う」仕組みとなる。

現役と高齢社員で働き方や能力の発揮の仕方が異なれば、賃金体系が異なるのは当然だ。企業は高齢社員にこの「現役社員との違い」を理解してもらい、賃金が変わることを合理的に説明しなければならない。

今野氏によると、一部の企業では、現役社員と仕事の内容、制約内容が同じにも関わらず、高齢社員の賃金を下げるケースが見受けられる。高齢社員に高い能力を生かして貢献してもらいつつ、人件費を抑えたいという考え方かもしれないが、今野氏は「合理的な理由とは言えず、その考え方では高齢社員の戦力化は難しい」と警告する。

高齢者の働くモチベーションを高める体制づくり

高齢社員は、定年後の仕事や賃金の変化により、働く意義が分からなくなったり、モチベーションが下がったりする。企業はどのように高齢社員をサポートすればいいのか。

まずは、社員が50代のうちから定年後の働き方をイメージし、60歳以降に向けた準備を進められる機会をつくることだ。研修の機会を設けて、現時点での行動特性、定年後にどのような仕事をしたいのか、その仕事をするために今から伸ばすべき能力は何かを明確にする。この結果は、高齢者本人だけでなく、同じ職場のメンバーで共有するとよい。職場全体で社員の定年後を意識して行動するようになり、効果の向上が期待できる。定年後に向けて早めに能力を伸ばしていれば、60歳以降に任される仕事内容や期待される役割がレベルアップし、定年前と同等の賃金で働くこともできるかもしれない。

定年後の仕事のマッチングを丁寧にすることも重要だ。マッチング方法は前述の上司との話し合いや社内公募が基本だが、現役とは異なる職場に移動する場合に、社員が60歳になる前に社内インターンや職場訪問できる機会をつくると良い。実際に職場を見て、新たな仕事の内容や期待を理解し、候補先の職場の責任者と面談することで、互いのニーズをすり合わせることができる。

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60歳を超えた社員が新たな職場での仕事や賃金の変化でモチベーションが下がった場合は、社員に何を期待し、どのような成果を求めているのかを明確に伝えるといい。社員と職場の責任者がこまめに面談し、情報共有することが大切だ。

仕事ベースで評価し、「期待していること」を伝える

少子高齢化が続く限り、高齢者雇用の重要性は増していく。企業は、高齢社員が会社に貢献する気持ちを持てるようにサポートし、高齢者を戦力とする職場風土を醸成すべきだ。

人事・総務担当者が彼らの仕事内容や期待する役割を明確化し、高齢社員とのマッチングを進めることは、通常の「採用活動」と変わりないはずだ。高齢者雇用を特別視し、高齢者のために新たな業務や制度を整えることは意味がない。定年によるキャリア、仕事、役割、賃金の変化に対する社員の不安や混乱に、早い段階から向き合いつつ、高齢者を活用する気持ちを持って取り組んでほしい。

【取材・執筆:@人事編集部】

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