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特集「超高齢社会 拡大し続けるシニア雇用」第2弾


60歳を超えても賃金が下がらない 日本ガイシの65歳定年制

2018.11.09

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日本ガイシは2017年、60歳を超えると賃金が現役の半分程度となる再雇用制度から、65歳定年制に変更。高齢者雇用制度と並行して現役社員の人事制度も変え、60歳以降も賃金が下がらない(管理職を除く)仕組みをつくった。執行役員で人事部長の山田忠明氏、人事部マネージャーの杉浦由佳氏に、定年延長により増額する人件費の原資を生み出した方法や、病気や介護と向き合う高齢社員を支える制度について聞いた。【取材日:2018年9月28日】

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企業情報

日本ガイシ株式会社
・本社所在地:名古屋市瑞穂区須田町2-56
・設立:1919年5月5日
・従業員数:約4,500人(うち60歳以上約200人)
・事業内容:電力関連機器、各種産業用セラミック製品、特殊金属製品の製造販売

日本ガイシ

半分の賃金が「半分の働き方でいいか」の気持ちに

改変前の再雇用制度は、社員が60歳を超えると賃金が大きく変わる仕組みだった。

基本給は現役の約半分で昇給はなく(ベースアップを除く)、賞与は現役の8割程度。基本給や賞与を合わせた総額の賃金は、現役の半分程度となっていた。

山田氏は「高齢社員本人も、周りの現役社員も、『60歳を過ぎると賃金が半分になるから、半分の働き方(成果)でいい』と思っていたかもしれない」と振り返る。人事部は「高齢社員にも100%の働きぶりを見せてほしい」と考え、2013年から賃金が下がらない仕組みを模索し始めた。

同時並行で現役社員の人事制度も改革

日本ガイシの特徴は、四半世紀使い続けた現役社員の人事制度を、高齢者雇用制度と同時に変えた点だ。

当時の現役社員の人事制度は年功序列型だった。大学(大学院)卒、高校卒、一般職の3つの職群に分かれ、年齢が上がると自分の所属する職群の中で昇格、昇給していた。

制度改革が始まった2013年前後は、会社の業務拡大の影響で若手と中途採用の社員が増加。社員からは「年齢に関係なく能力や仕事の内容、成果で評価される制度」が求められた。人事部は職群の区分をなくし、どんな学歴や年齢でも社員が実力次第でキャリアアップできる制度づくりを考案。さらに、この制度改革に高齢者雇用の問題解決も絡めることを決めた。杉浦氏は「若手社員が増えた分、知識と経験があるベテラン社員が活躍し、成果を上げないと会社が厳しい状態になる。成果にウエートを置き、65歳まで現役と同じ仕組みで評価される新たな制度を目指した」と説明する。

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現役・高齢社員の両方の人事制度を改革した経緯について説明する杉浦氏(左)と山田氏

現役社員の賃金カーブを緩やかにし、65歳まで賃金が下がらない

新たな65歳定年制でこだわったのは、賃金の減額によるモチベーション低下を防ぐこと。現役社員の昇給率を抑えて昇給カーブを緩やかにすることで、60歳以降も金額が落ちないようにした。

また、定年延長をすることで増額する人件費はどう捻出したのか。人事部が目を付けたのは、退職金制度の見直しだった。これまでは定年の60歳から企業年金を支給していたが、制度改変で65歳からの支給に変更。ここで生まれた原資を60~65歳の勤務期間中に支払う賃金に割り当てた。社員の視点で考えると、60歳からの5年間でさらに企業年金を積み立てるため、65歳以降に退職金として支給される金額は増えるという。

疾病・介護時の支援策を強化し、「高齢になっても働ける会社」へ

新制度では、現役社員と同様に成果を求め、勤務形態も60歳以前と同じになる。若手社員と同様に週5日勤務で夜勤も担当するような高齢社員には、どのような支援策が必要なのか。

人事部は高齢社員自身の健康の配慮と、介護が必要な家族がいる社員への支援策を考案。疾病対策では短時間勤務や週3日勤務制度を導入し、がんや脳卒中などの疾病を持つ社員を対象に勤務形態を選べるようにした。介護支援では外部の介護団体と連携し、社員が介護の専門スタッフとメールや電話で相談できるようにした。希望社員には「介護支援プラン」を作成し、介護と仕事が両立できる雇用環境も整えている。これらの施策は海外の事業所で働く社員も利用できる。

課題は、役職定年後の管理職のサポート体制

制度改革を終えて1年が過ぎ、課題も見えてきた。役職定年を経験し、職位を降りると同時に賃金が下がる元管理職のサポート体制だ。

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日本ガイシは旧、現制度いずれの場合でも、管理職が58歳で役職定年する。旧制度では役職定年から2年間、管理職時と同じ部署に配置される。このタイミングで新たな職責や役割が設定されるが、その違いにかかわらず、賃金は一律で8割に下がった。60歳で定年を迎えて再雇用制度を利用して働き続ける場合も、他の高齢社員と同じく一律で現役時代の半分程度の賃金となる。

現行制度は役職定年後に一律で減額するのではなく、職責や役割によって賃金が変わるようにした。つまり、社員ごとに役職定年時からの賃金の下げ幅が異なり、社員によっては仕事へのモチベーションが保てず、悩むことも予想できる。

現在は、50代の社員にキャリアデザイン研修を実施。個人の能力や価値観、周囲が寄せる期待を把握し、65歳の定年までのキャリアや定年後の人生を主体的に考えてもらっている。また、役職定年後の仕事のマッチング、仕事が変わり不安を感じる社員へのサポート体制の構築も検討しているという。

年齢、性別、学歴に関係なく、パフォーマンスを評価してモチベーションを高める

日本ガイシは高齢社員の賃金減額を問題点と捉え、社員全員が関わる人事制度そのものを変えて60歳以降の働くモチベーションを保った。相当の時間と労力がかかる改革を進められた理由は何なのだろうか。

杉浦氏は「高齢者雇用に割り当てる原資を見つけ出したことが大きい。また、会社全体で『年齢を問わず、働く意欲のある人を高く処遇する。そのために人件費を増やすことは正しい投資である』という意識を掲げられたことも影響した」と説明する。

現役社員も含めた人事改革はどの会社でも簡単にできるわけではない。それでも、「年齢や性別、学歴にかかわらずフラットにパフォーマンスを評価することが重要なのは確か」(杉浦氏)だ。現役時代からの大きな変化によって高齢社員の働くモチベーションが下がるのを防ぐために、「全てを変える」との意識を持ち、社内全体の制度改革を推し進めることも必要なのかもしれない。

【取材・執筆:@人事編集部】

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