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特集「超高齢社会 拡大し続けるシニア雇用」第1弾


業績に億単位で貢献するシニアを生み出す 大和ハウス工業の人事制度

2018.11.07

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人手不足の企業の未来を支えるのは、高齢社員かもしれない―。

大和ハウス工業は2013年、高齢社員を硬直的に処遇する「嘱託再雇用制度」から、65歳定年制に移行(定年を延長)した。現役社員同様に成果や業績への貢献を求め、各業務の役割を明文化することで、高齢社員の働くモチベーションを高めている。中にはこれまでの人脈を生かし、億単位で業績に貢献する高齢社員もいるそうだ。制度を活用する高齢社員、東京本社人事部の菊岡大輔部長に取材し、制度のこだわりや設計時に気を付けるべきことを探った。【取材日:2018年9月19日、10月4日】

【特集トップ】特集「超高齢社会 拡大し続けるシニア雇用」

会社情報

大和ハウス工業株式会社
・本社所在地:大阪市北区梅田3-3-5
・創業:1955年4月5日
・従業員数16,275人(うち60歳以上427人、65歳以上123人)(2018年4月現在)
・事業内容:建築事業、都市開発事業、海外(不動産開発)事業、その他

【修正版】大和ハウス工業_01

長年の人脈を生かし、億単位で業績に貢献する67歳

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これまでに培った人脈を生かして活躍する佐藤さん

流通店舗事業推進部の佐藤俊和さん(67)は、コンビニや小売店などの企業から出店意向をヒアリングし、要望に合った土地の地主を紹介する「東日本ロック推進室」に所属する。役職定年(60歳)までの10年間、同推進室長(管理職)を勤めた経験を生かし、現在は年下の課長の業務を支援。若手社員とも営業同行し、これまでに関わった企業の人脈を引き継いでいる。

働きがいを感じる瞬間は、企業とのトラブル発生時に、佐藤さんが企業のトップに掛け合ってトラブルの要因を把握し、解決できたとき。「過去の人脈や経験を生かして、時に何億、何十億の業績に貢献できるのがうれしい」(佐藤さん)

佐藤さんは2012年、60歳で定年。当時の嘱託再雇用制度を使い、1年契約の嘱託として再雇用された。現役時代と同じロック推進室に所属したが、昇給はほとんどなく、評価の機会もぐっと減った。「一生懸命やっても、それ以上でもそれ以下でもないと思った」(佐藤さん)

2013年に新しい65歳定年制が導入され、佐藤さんは再び「職員」となり、個人と組織の業績目標を明確に管理して半年ごとに成果を報告する生活に戻った。「自分の成果がチームの業績につながり、評価される。やりがいを感じるにはこれが一番大切」と強調する。

ただ、佐藤さんが長年の勤務で培った人脈は、取引相手の退職や子会社への異動により、減りつつある。「自分の人脈が役に立たないと思ったときには、会社を去るだろう。会社に貢献できるまでは、体が続く限り働きたい」。佐藤さんはじっと前を見つめた。

「張り合いがない」制度からの脱却

高齢社員の働く意欲を生み出し、適材適所で活躍できる大和ハウス工業の制度はどのように生まれたのか。

従前の嘱託再雇用制度は年2回の査定(評価)があったものの、賞与は固定され、昇給もほとんどなかった。高齢社員は、現役時代とほぼ同じ職場(定年時に役職を降りた社員を除く)で指導者として勤務し、現役社員の補助的な業務をしていた。彼らからは「組織との一体感がなく、仕事の張り合いがない」「頑張っても評価されず、成果も求められないからやる気が出ない」と不満の声が上がった。

人事部は「現役社員と一緒にチームや会社の業績アップに向けて努力できず、やりがいを感じられない所が問題」と判断。高齢社員の実績や能力を評価し、給与にも反映する「やれば報われる制度」の構築を決意した。

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人事部の菊岡部長

大和ハウス工業は、高齢者雇用改革の中でも、人事制度を根本から変える「定年延長」の道を選んだ。制度改革に相応の時間が必要な定年延長を決めた理由には、高齢社員の増加と人手不足が関係している。

当時、60歳の定年後の再雇用希望者は半数(~2010年)から6割(2011年)、7割(2012年)と年々増加。さらに、建設業界は人材不足が課題で、経験豊富な社員の人材流出を防いで戦力として会社に囲い込む必要があった。

人事部は当時の高齢社員に聞き取りを行い、評価を賞与に反映する新制度を設計。数億円単位で人件費が増加することが分かったが、「経験豊富で技術力のある人材を確保することで、人件費への投資以上のリターンがあると判断した」(菊岡氏)

新制度では現役社員と同様に処遇し、期待する役割を明確に提示

制度設計でこだわったのは、現役社員となるべく同じ仕組みにすること。特に、賞与は評価によって変動する制度に変更。高齢社員が組織の一員として会社の業績向上に貢献する感覚をつかめるように、評価は個人、事業所の両方の業績を判断基準とした。

また、高齢社員に期待する役割を明文化することも重要だ。人事部は社員の「何を期待されているのか分からない」という声を受け、2014年に制度を再修正。60歳以降の社員向けに3つのコースを新設し、コースごとに業務内容や期待される役割、処遇内容を決めた。

3コースは「理事」(高齢社員のうち10%)、「メンター」(同15%)、「生涯現役(プレイヤー)」(同75%)。「できるだけ現場の戦力として活躍してほしい」との思いから、生涯現役コースの人数比率が高くなるように調整している。本人の適性を見極め、途中でコースが変わることもある。

大和ハウス工業_02

他にも、60歳を前にした研修や仕事のマッチングも重視している。

年度末に60歳となる社員を対象に、5月に「ライフデザインセミナー」を開催。社員は60歳以降の心構えや仕事内容、会社が高齢社員に期待すること、現役社員との接し方を学び、自分のキャリアデザインを考える。7~8月には社員が60歳以降に働きたい部署を決めて申請。9~12月に人事部や受け入れ先の事業所が話し合い、なるべく希望の勤務地や勤務時間に合った業務をマッチングさせる。

マッチングの際には、社員個人の経験や能力を可能な限り生かすことができる職場を探すことが重要だ。菊岡氏は「既存の部署の中で高齢社員が活躍できる職場がないか、事前にリストアップして探す作業も必要」と話す。

年齢制限なく働ける会社へ

高齢者雇用の充実化は、「65歳以降も年齢制限なく働ける環境づくり」にも発展した。

2015年には「アクティブ・エイジング制度」を実施。一定の業績が認められる社員は65歳以降も年齢の制限に縛られずに勤務できることになった。制度では、本人の勤務意欲、事業所や部門長からの推薦、直近1年間の査定が標準以上などの条件を満たした65歳以上の社員が、1年更新の嘱託として再雇用される。現在は65歳定年到達者の57%に当たる123人が勤務する。東日本ロック推進室の佐藤さんもこの制度を利用している。

高齢者を特別扱いしない制度をつくる

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大和ハウス工業の取り組みの根幹にあるのは、「高齢社員を現役と同様に処遇する」という意識だ。以前から実力主義の社風が浸透しており、60歳以降も引き続き成果を求めるのが自然だったとも言える。

高齢社員が適材適所で実力を発揮すれば、若手の人材配置にも好影響を与える

菊岡氏は「モチベーションの高い高齢社員が知識や経験、体力に見合った職場で活躍すると、その分、若い社員は現場の最前線で業務に集中できる。会社全体の業績を見ても、高齢社員の働きぶりがなければ、今の大和ハウス工業の業績は実現しなかった」と打ち明ける。

高齢者雇用で大切なのは、高齢社員を特別扱いせず、現役社員と同様に実力を評価して働くモチベーションを高めること。人事・総務担当者はこの考え方を忘れずに、現状の制度で足りない部分を分析、改善し、社員に明文化して伝えられるかどうかが、高齢社員の「戦力化」への分かれ目となる。

【取材・執筆:@人事編集部】

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