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コラム

@人事ドイツ支部通信


社会人の学び直し「リカレント教育」を日本で浸透させるには?

2018.10.26

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現在、社会人の学びなおしを意味する『リカレント教育』が注目されている。産学連携によるスキルアップがさかんなドイツの大学制度や休暇制度を参考に、学問を通じたキャリアアップについて考えていこう。

【編集部】参考:安倍晋三首相も、2017年9月の衆議院解散時の記者会見の中で、リカレント教育の充実を訴えた。→安倍首相が推進を発表した「生産性革命」「人づくり革命」とは何か

目次
  1. 日本でむずかしい社会人の学びなおし
  2. 「働きながら学ぶ」をドイツから見る
  3. 学問を通じたキャリアアップで大事なこと
  4. プログラム周知で「学びなおし」を現実的に

日本でむずかしい社会人の学びなおし

日本特有のメンバーシップ型労働の性質上、日本で一度社会に出てしまうと、『学びなおし』をする機会はとても少ない。実際、大学などで教育を受けている25~64歳の割合は、わずか2.4%だ(Education at a Glance 2017)。

社会人の学びなおし、いわゆる『リカレント教育』が進まない理由としては、「労働時間が長く時間的余裕がないこと」が第一に挙がり、「費用が高いこと」「家事・育児で忙しい」が続く(厚生労働省)。また、日本では社内教育がさかんなため、企業外でスキルアップする機会が少なく、それを評価する仕組みができていない。そうすると、「学びなおそう」と思う人が少ないのもしかたのないことである。

しかし、少子化が進んでいるうえ、これからはAI(人工知能)が多くの作業を担うことを考えると、限りある人材の専門性を高めていくことは重要だ。また、転職が一般的になり、社内教育で専門性を上げるのがむずかしい現在、社会人が学びなおす環境は必要になる。

ただ、企業が大学制度を変えたり、職業教育の仕組みを整えたりするのはむずかしい。従業員に学びなおしの機会を与えるために、企業はどんなことができるだろうか。

「働きながら学ぶ」をドイツから見る

『リカレント教育』という枠組みでいえば、ドイツは決して先進国ではない。しかし、ドイツは産学連携システムがとられているため、「学問を通じたスキルアップがしやすい」とはいえる。

産学連携システムで有名なのは、デュアルシステムだ。かんたんに言えば、1週間のうち2日学校に行って3日勤務したり、3か月働いて1か月学校に行ったりして、働きながら学ぶ職業教育制度である。だいたい3年くらいで職業試験資格が取得でき、それは就職の際おおいに役立つ。

この産学連携は大学においても発揮されていて、働きながら学位を取得するDuales Studiumもある。労働時間を減らして大学の授業を受けたり、大学に行きながら複数社でインターンしたりすることが可能だ。

ここ10年程でDuales Studiumを行う人は倍増し、2016年には10万人以上を記録していることからも、この制度の有用性がわかる(BIBB)。

もうひとつ注目すべきなのが、Bildungsurlaubだ。わかりやすく日本語に訳せば、『スキルアップ有給休暇』とでも言おうか。バイエルンとザクセン以外の州で設けられていて、多くの場合、1年で5日取得することができる。

たとえばヘッセン州では2014年、計1488人が取得している。ただしこの制度には政治教育も含まれており、職業的教育に限れば805人である(Hessisches Ministerium für Soziales und Integration)。

Bildungsurlaubはまだ取得人数が少なく日数が限定的ではあるものの、社会人の学びなおしが一般的ではない日本では、注目に値する制度だ。

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学問を通じたキャリアアップで大事なこと

学問を通じたキャリアアップで大事なのは、働き方と学び方、両方の柔軟さである。しかし、学び方は企業がどうこうできるものではない。そうすれば話は自然と、「どうやって働き方に融通を利かせるか」ということになる。

ドイツを例に考えてみると、夜間大学や通信大学に通いやすいようにフレックスタイムや時短ワークをしやすい環境にある。また、就業時間中の勉強、たとえば1時間をオンライン講座受講に充てることを認めている企業もある。

そしてドイツが日本と大きくちがうところは、「学問を通じたスキルアップには大きなメリットがある」と認識されていることだ。

日本は修士や博士といった学歴ですら、あまり高く評価されない。そのため、「わざわざソトで勉強する必要性があるんだろうか」という気持ちになりやすい。しかしドイツでは社外でスキルアップをするのが当然だし、資格社会なので「やれば評価される」という認識がある。学士の学位があるのとないのでは転職の際の待遇がちがうし、コース受講の修了書が認められれば新たな業務を任される可能性もある。

日本で学びなおしを推進するのであれば、「スキルアップした人にはこういうメリットがある」ということを、給料や待遇などで明確に伝えておくといいだろう。その際、認可条件(証明書の有無など)や、企業として身に付けてほしいスキルなども伝えておくことも有効だ。そうすれば企業もスキルアップした従業員を評価しやすいし、従業員も積極的に学びなおしを考えるのではないだろうか。

プログラム周知で「学びなおし」を現実的に

ほかにも、学びなおしが一般的ではない日本では、従業員にどんなプログラムがあるのかを周知することも必要だ。厚生労働省の資料では、たとえばこのようなプログラムが紹介されている。

・大阪府立大学:植物工場における中核的専門人材養成
・文京学院大学:理学療法士臨床ブラッシュアップコース
・山口大学:社会基盤メンテナンスエキスパート養成講座

2019年度からは、専門職大学、専門職短期大学が新たにスタートする。「産業界と協力して実践的な学びができる」というコンセプトの教育機関だ。詳しくは文部科学省のホームページに書いてある。

また、インターネットにまで視野を広げれば、可能性はさらに広がる。東京大学はさまざまな公開講座をネット上で公開しているし、ビジネスに役立つスキルを学べる日経ビジネススクールもある。講座数の種類でいえば、JMOOCもおすすめだ。民間のオンライン講座であれば、企業として契約し、スキルアップ休暇を導入して集中講座に通ってもらう……なんてことも現実的になるかもしれない。

学問を通じたスキルアップがさかんになれば、企業は専門性が高い人材を確保でき、従業員は自らのキャリアアップを能動的に行いやすくなる。まだ日本では黎明期ではあるものの、これからは社会人の学びなおしの需要も供給も増えていくだろう。これを機に、社会人の学びなおしについて一度検討してみてはいかがだろうか。

執筆者紹介

雨宮紫苑(フリーライター) ドイツ在住、1991年生まれのフリーライター。大学在学中にドイツ留学を経験し、大学卒業後、再びドイツに渡る。ブログ『雨宮の迷走ニュース』を運営しながら、東洋経済オンラインやハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

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