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【防災の日企画】人事・総務が知っておきたい災害時対応・災害前の備え


【再掲載】勤怠管理や就業規則、社員の伝達まで、台風時に企業・人事が取るべき対策は?

2024.01.04

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事前予知が不可能である大地震と異なり、大雨や台風などによる風水害は、被害発生の数時間~数日前には予兆を捉えることができます。とりわけ台風による影響は、発生数日前から警告が出され、「何月何日の何時頃、何県何市辺りを、このくらいの強さの風雨が襲う」と、精度の高い予報が出されます。

これほど正確な事前予知が出される現象に対して、対策を怠ることで人的被害を出してしまうような事態は、企業としてはぜひ避けたいところです。備え・防災アドバイザーでソナエルワークス代表の高荷智也氏が、主に企業の人事担当がBCP(事業継続計画)の一環として従業員を台風から守るために、何を準備しておきどう行動すべきかについて解説します。【公開:2018年9月27日、最終更新:2019年10月8日】

目次
  1. 人事担当が事前に準備すべき項目
  2. 台風接近に伴う「事前の」行動基準
  3. 台風接近に伴う「当日の」行動基準
  4. 台風の接近に備えた就業規則の整備
  5. 就業時間外の伝達をするための準備

人事担当が事前に準備すべき項目

一口に「従業員の台風対策」といっても、その内容は業種や業態、従業員が従事する業務内容によって異なります。一般的には「台風に伴う休業や時差出勤」に関するルールを定めることが必要になりますが、台風の時にこそ業務維持が必要な行政機関・インフラ事業者などは、逆に「台風に備えた出勤・宿泊」などのルールが必要になってきます。

そのためBCPにおいては、「非常時に継続すべき事業」と、この事業を行うために必要な「重要業務」を定めた上で、業務に必要な従業員を確保するための計画を立てることになります。台風のさなかに業務を行わなくてはいけない従業員には、出社のための対策が必要となり、必ずしも業務を行わなくてよい従業員については、安全確保のための休業・時差出勤などのルールを設ける必要があります。

台風接近時の勤怠管理・出社判断は、会社が独自に定める必要がある

まず原則ですが、台風が接近している場合や気象警報が発令されている状況で、従業員を就労させてはならないという法的な定めはありません。そのため、台風接近時の勤怠管理は、企業が独自に定めなくてはならないということを理解する必要があります。

その一方、暴風のさなかに出社を命じ(逆に言えば自宅待機を命じず、従業員が会社の規定に則って“自主的に”出社をして)、道中で従業員が死傷した場合には、安全配慮義務違反を問われて、時に巨額の損害賠償請求に応じなければならなくなる可能性もあります。

企業は、こうした事情をふまえた上で、会社の状況に応じた規定づくりを行う必要があります。では具体的に、何を定めておけばよいのでしょうか。

台風接近に備えて準備しておくべき項目は「行動基準」と「就業規則」

台風の接近に備えて準備すべき項目は、「行動基準」と「就業規則」です。行動基準は、台風の状況に応じて「休業・時差出勤・早退・在宅勤務」などの指示をどのように下すかというルール作り。就業規則は、これらの指示が下された場合の賃金などを定めるためのルールです。これらのルールは、事前にマニュアル化・ガイドライン化しておくことが望ましいでしょう。

「台風に備えて翌日は休業とします」と発表することは簡単ですが、休業の結果賃金が支払われるのかどうかまで定めておかなければ、従業員も安心して命令にしたがうことができません。そのため、安全を確保するための行動基準と、それを確実に実行させるための就業規則をセットで準備しなくてはならないのです。

台風接近に伴う「事前の」行動基準

大地震や突発的な大事故と異なり、台風や大雨は事前に発生が察知できますので、従業員は自己判断ではなく会社の指示で行動することが求められます。この指示をどう出すかの基準が「行動基準」ですが、台風に対しては「当日の出勤時間までに伝達するルール(休業など)」と、「当日の状況に応じて定めるルール(遅刻・早退など)」が考えられます。

出勤の基準となるのは「鉄道の運行状況」と「気象情報」

翌日の休業や時差出勤を決めるための情報としては、「鉄道の運行状況」と「気象情報(警報級の可能性)」などが参考となります。まず自社が都市部にあり、従業員の多くが鉄道で出勤をしている場合は、鉄道事業者から発表される翌日の運行情報が最も分かりやすく、かつ現実的な行動基準となります。

近年、都市部の鉄道事業者は、台風接近の前日などに翌日の運行計画を発表することが多くなりました。鉄道が動いていないのであればそもそも出勤することは困難ですし、鉄道が停止するほどの災害が想定される状況においては、従業員の被災も考慮しなくてはなりません。自社が都市部にある場合は、このような情報を参考にするのが適切でしょう。

一方、自社が地方都市に立地していたり、従業員の多くが自動車・自転車・徒歩などで通勤をしていたりする場合は、気象庁から発表される「警報級の可能性」が参考となります。「警報級の可能性」は、2017年より運用が開始された気象情報で、「警報級の現象が5日先までに予想されているときには、その可能性を『高』『中』の2段階の確度を付して発表」するとされています。

参考リンク:警報級の可能性(気象庁)

とりわけ、翌日までの「警報級の可能性」は、毎日5時・11時・17時に発表される天気予報とあわせて発表されますので、当日の帰宅時間帯~翌朝に「大雨・洪水・暴風」といった警報級の可能性[高]が想定される場合は、「休業・時差出勤・在宅勤務」などを指示する、あるいはその可能性が高くなることを伝達することが有効です。

台風時の業務継続が必要な企業の場合

一方、自社が行政機関・医療機関・ライフライン事業者・金融機関・マスコミなど、災害時にこそ重要度が増す業態の場合は、災害時に出社をするための基準や環境の整備が必要となります。翌日の鉄道の運休や、警報級の可能性が発表されている場合、従業員を自宅待機させたり、社内および客先や保守設備へ事前に出社させて寝泊まりをさせたりといった対応をとらせるための準備をします。

こうした計画を立てるためには、BCP策定において、非常時に継続すべき業務、これに必要な従業員の数などを洗い出しておく必要がありますので、内容によっては人事の範疇を超えてきます。しかし、BCP策定後の運用においては人事の管轄になる場合もありますので、この場合は非常時に「出社させる人」「させない人」の両方を管理する必要が生じます。

在宅勤務の導入とルール作り

デスクワークやPC作業が中心になる業務は、テレワーク環境による在宅勤務を行うことができます。しかし非常時専用に環境を構築し、災害発生時にいきなり適応しようとしても、「つながらない」「できない」「分からない」など、想定外の事態が発生し、うまく機能しない可能性が高くあります。

そのため、非常時に在宅勤務をさせることを検討している場合は、日頃から在宅ワーク(テレワーク)に関するルールを定めた上で平時からテスト・実践し、非常時にもスムーズな対応ができるようにしておく必要があります。台風接近時においても、在宅勤務環境が整っていれば休業にせず業務を維持できるため、有効な対策と言えるでしょう。

台風接近に伴う「当日の」行動基準

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台風の接近が事前の想定よりも早くなったり遅くなったりした場合、また想定を超える被害が生じた場合などは、「当日」の勤怠を調整する必要が生じる場合もあります。しかし「気象警報(特別警報・警報)」や「避難情報(避難指示・避難勧告)」が発表されてからでは、すでに身動きが取れなくなっている可能性があります。

そのため、前述の「警報級の可能性」の情報で、当日の帰宅時間帯に警報が発表される可能性が高い場合などは、早めに「午後休業・早退」などの判断を下せるようにするとよいでしょう。そのうえで判断が間に合わず、被害が発生してしまった場合に対しては、BCPにおける「緊急対応」のマニュアルを策定しておくことが有効です。

初動対応マニュアルの「緊急対応」について

BCPの構成要素のひとつである「初動対応マニュアル」では、災害により被害が発生した場合に備えた「緊急対応(防災・二次災害の防止)」の項目を整備しておく必要があります。このうち人事担当が把握しておくべき項目は次の2点です。

応急手当の準備

主には大地震などの突発災害が発生した際の備えですが、強風による飛来物の直撃を受けた、ガラスなどが割れてケガをするといった状況がないとも限りません。台風だけに限らず、「何かの理由でケガをした」際に備えて、応急手当の道具を準備しておくことが必要となります。

避難の準備

台風による高潮で浸水の恐れがある沿岸部、大雨による洪水で浸水の恐れがある低地、崖崩れ・地すべり・土石流などの土砂災害の恐れがある地域などに拠点が立地する場合は、避難の準備が必要です。最寄りの避難場所と避難経路を確認し、非常持ち出し袋を事前配布しておくなどし、素早く避難を行えるようにしておきます。

台風の接近に備えた就業規則の整備

行動基準を定めるのとあわせて、就業規則の整備が必要になります。具体的には、台風接近に伴い「休業」「時差出勤(遅刻や早退)」「在宅勤務」などを伝達した際、賃金や勤怠をどのようにするかという取り決めです。これを定めず、「台風が接近しているので“注意して”出社してください」などと伝達することは、何もルールがないのと変わりません。

この就業規則については、労働基準法などに反さない限り独自の規定を設けて構いませんので、「ホワイト」寄りにするのであれば、年次有給などとは別の「災害特別休暇」などの制度を設けることになりますし、既存ルールのみで対応するなら「台風接近に伴い休業とするため、有給消化を推奨します」といった伝達になるでしょう。

就業時間外の伝達をするための準備

台風の接近・上陸が休日明けになる場合などは、事前伝達が就業時間外になる場合に備えて、情報連絡の準備を行っておく必要があります。この際に必要な項目としては、伝達内容の「意思決定をするための方法」と、その内容を従業員に「連絡をするための方法」です。

非常時における情報収集と意思決定について

台風に限らず、就業時間外に災害などが発生した場合は、遠隔による情報収集と意思決定が必要になります。そのため、「初動対応マニュアル」には以下のような項目をまとめておく必要があります。

・災害の情報を集める担当者
・情報を集約する方法と場所
・意思決定を行う担当者と判断基準

決定された情報の伝達について

台風接近に伴う決定事項を従業員に対して伝達するために、人事としては連絡手段を整えておく必要があります。これもBCPの一環として準備をしておくと、台風以外の状況でも使い回しができるため有効です。

安否確認システムなどを導入している場合は、利用の訓練をかねてこれを利用するのが適切です。システムの内容によって使用する連絡先は異なりますが、多くの場合はE-maiや、インターネット回線を用いたアプリ通知により連絡ができるようになっています。登録されている連絡先情報を更新する意味でも、安否確認システムの利用は優れています。

こうしたシステムがない場合は、電子メールによる一斉連絡を行うのが簡単です。台風の事前連絡は、大地震の直後と異なり「平時」ですから、メールが遅延する心配などはありません。業務用のメールアドレスを用いる場合はCCを、個人用のメールアドレスを用いる場合はBCCなどで連絡をするように計画するとよいでしょう。

【編集部より】
「危機管理」に関する記事はこちら

執筆者紹介

高荷智也(ソナエルワークス代表) 備え・防災アドバイザー。1982年静岡県生まれ。「自分と家族が死なないための防災対策」と「中小企業の身の丈BCP」のポイントを解説する専門家。分かりやすく実践的なアドバイスに定評があり、講演・執筆・メディア出演など実績多数。著書に『中小企業のためのBCP策定パーフェクトガイド』がある。

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