林修三先生のなるほど人事講座
就活ルール廃止で採用環境はどう変わる? 企業側に必要な対応を考察
2018.09.14
去る9月3日、経団連の中西会長が記者会見の中で、「経団連が採用の日程に関して采配すること自体に極めて違和感がある」「日程だけの問題ではなく、解禁時期の議論を経団連がすること自体をやめたい」という趣旨の発言を行い、「すわ採用活動の完全自由化か!?」ということで大きく報道がなされました。
現時点ではこれに対する政府の判断は明確ではありませんが、現実として経団連指針が完全に有名無実となっている状況を踏まえると、何がしかの大きな変化が起きてくる可能性が高いものと思われます。
参考:経団連・中西会長「就活ルール」廃止に言及 安倍首相は遵守を呼びかけ
ただ、一口に自由化といっても無数のシナリオが考えられますので、今回は「新卒内定出しの時期が無制限に早期化されたら」という想定のもと、採用担当者が考えておくべき変化への対応法について、筆者の考えをご紹介させていただきます。
就活ルール廃止でまず起きるのは「内定辞退の増加」
内定出しの時期が無制限に早期化された場合、当然に懸念される点は内定辞退の増加です。
仮に大学1年生の秋に内定を出した場合、単純計算で入社まで3年半の時間が空くことになります。
現行のスケジュール(=内定から入社までがおよそ半年~1年)ですら、世の内定者は進路に悩み他の企業の選考を受け、内定を辞退していきますので、これが3年半に伸びたらどうなるかは言わずもがなです。
そのため、内定者をどうやって自社につなぎ止めていくかが大きな課題となっていきます。
しかし、内定者懇談会や通信教育など、従来型の内定辞退対策・内定者フォローだけでは、内定者の目移りや心変わりを長期に渡って防ぐことはおそらくできないでしょう。それどころか、むしろ内定者のほうがもっと強かに内定先コレクションを増やしていこうとアクティブに動くであろうことが容易に想像できます。
そこで筆者としては、むしろ「内定を出してからが本当の選考・絞り込みを行う期間」として、内定後の時期の位置付けを変えるべきだと考えます。
就活ルール廃止後は「内定出し後」に学生を見定める
これは、採用活動におけるゴールを、「内定出し」や「入社した頭数の充足」に置くのではなく、“入社2~3年後に明確に戦力となっている人材を確保すること”をゴールとして設定するという考え方です。
具体的には、「内定出し」を現行制度における「選考に応募してきてくれたこと」と同じ程度の位置づけとして捉え、その後の自社との関わりの中で、「内定者が自社でモチベーションを保てるか否か」や、「成長力・適応力の有無」を見定めていくという形で、割り切って対応するというものです。
例えば、内定者向けに準社員的待遇での超長期インターンシッププログラムへの参加を推奨し、その中で実際に自社業務を色濃く経験していってもらうという仕組みが考えられます。
(学業に支障をきたさないという範囲において)長期的に実際の業務を遂行してもらうわけですから、これにより、お互いに仕事に対する適性や、自社文化にどれだけ馴染めるかといった部分をハッキリと見定めていくことが可能となりますし、業務を経験してきた上で入社してくる人材は、早期の戦力化(場合によっては入社時点からエース化)が期待できるでしょう。
また、仮に内定者本人が、「自分はこの仕事・会社に向いていない」と判断した場合には、内定辞退という判断を下すと思いますので、逆説的ではありますが、入社後の早期離職を防ぐことにつながり、結果的にお互いにとって得にもなりえます。
就活ルール廃止後の内定出しは、知識や技術以外を重視すべき
さて、仮にこの手法を実際に導入するとして、採用担当者的に大きな懸念点となるのは、「最初の内定出し基準をどうするのか」ということになってきます。いくら内定を出してからが本当の選考・絞り込みを行う期間だと言っても、その内定者に超長期インターンシップを強要することはできませんし、軽い気持ちで内定を出した学生がインターンシップに参加もせずそのまま入社することも十分にありえます。
この問題を解決(デメリットを最小化)するには、内定出し段階での評価要素・基準を、後天的に習得するのが難しいものに限定しておくことがポイントになります。
例えば、個々の職種で必要になる専門知識や技術などは入社後以降にいくらでも努力次第で身に付けられますので、内定出し段階ではあまり重視しないことにします。逆に、基本的な対人スキルや性格的なもの(何にモチベーションを感じるか・感じないか)、生活習慣などの躾レベルのものなどは、二十歳を過ぎた人間が新たに後天的に獲得していくのはなかなか困難ですので、その中で自社に必要な要素をピックアップした上で、内定出し段階で重視していきます。
この対応によって、もしも超長期インターンシップに参加しなかった内定者がそのまま入社してくることになったとしても、後天的に習得可能な部分の研修を充実させることによって、時間はかかっても確実に戦力化を図っていくことができるようになるでしょう。
現段階ではまだアイデアレベルの話ですが、もし採用ルールそのものが大きく変わってしまうのであれば、その混乱(?)に素早く対応した、従来とは大きく異なる採用手法を導入することでアドバンテージを築いていくことが可能になると思いますので、この考察がお読み頂く企業様にプラスになれば幸いです。
執筆者紹介
林修三(はやし・しゅうぞう)(株式会社ヒュームコンサルティング代表取締役) 1975年生まれ。仙台市在住。東北大学法学部を卒業後、大手自動車部品メーカーの経営企画職~IT企業の人事・採用職を経て現職。現在は東北地方の複数の大学でキャリア系科目講師として学生の就職指導に努めるほか、人事・採用コンサルタントとしても活動中。
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