特集

株式会社ディー・エヌ・エー CHO室室長代理・平井孝幸氏インタビューvol.2


健康経営はお金を使わずにできる。中小企業も実践可能な2つの施策とは

2018.09.20

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「人生100年時代」を迎え、注目度が増している健康経営。従業員の健康の維持・増進を図ることは、従業員の健康寿命を伸ばすだけでなく会社の生産性向上にも寄与するため、その重要性は年々高まってきていると言えるだろう。

これまで、経営的に体力のある企業が取り組むイメージを持たれがちだった健康経営だが、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、インタビュー文中ではDeNAと表記)の平井氏は「健康経営はお金を使わずにできるし、むしろ使わない方が良い」と言う。インタビュー後半では、その言葉の真意と、健康経営の具体的な実践例、企業にとってのメリットなどをお聞きした。

※この記事は、健康経営が経済的なメリットに? DeNAの取り組み事例「腰痛撲滅プロジェクト」の続編です。

平井孝幸氏

株式会社ディー・エヌ・エーCHO室室長代理健康経営アドバイザーの平井孝幸氏⓵株式会社ディー・エヌ・エーCHO室室長代理
健康経営アドバイザー


DeNAで働く人を健康にするため2016年1月にCHO(最高健康責任者)室を立ち上げる。働く人のパフォーマンス向上をテーマにした多岐に渡る取組みを行い、DeNAの2年連続健康経営優良法人2018(ホワイト500)取得に貢献。
2017年からはJWCLAの事務局長として健康経営を日本企業の文化にするための活動も行う。2018年6月にはDBJ健康経営格付アドバイザリー委員会の社外委員となる。

目次
  1. 健康経営は「継続性」を重視し、お金をかけずに行うべき
  2. 社員のヘルスリテラシーを上げる2つの施策
  3. 健康経営による2つのメリット

健康経営は「継続性」を重視し、お金をかけずに行うべき

─健康経営に関心がありながら腰の重い企業がたくさんあると思うのですが、分かりやすい「健康経営を推進すべき理由」があればお聞きしたいです。

まず一番にお伝えしたいのは、「健康経営はお金を使わずにできる」ということですね。むしろ、お金は使わない方が良いです。

株式会社ディー・エヌ・エーCHO室室長代理健康経営アドバイザーの平井孝幸氏②というのは、「健康経営」というと、例えば血圧を測定できるリストバンドを全社員に配るだけで終わりにしてしまったり、健康に関わる有料アプリを全社員が使えるようにしたりといったことが行われがちです。実際にそれだけでうまく機能している会社を私はほとんど知りません。

実はこれまで、健康経営に取り組まれている企業に何十社もヒアリングを行っているのですが、社員の方の意見として多いのは「唐突感があった」というものです。

企画担当者も「お金を使って社員の健康のために何かやったら喜んでもらえるんじゃないか」という良心ファーストで取り組まれているのですが、やはり、オシャレな女性が急にごついリストバンドを1日つけて歩きたいかというと、心情的に難しいところもあるという声がありました。

「お金も使うし、社員にも嫌厭される」といったことが健康経営業界で蔓延している現実を知り、DeNAで健康経営に取り組む際には、安易にお金を使わないことを意識しました。

─DeNAでは、「健康取組五箇条」というものを設けていますが、そういった意識は、この五箇条の中にも盛り込まれているのでしょうか。

そうですね。

Smile(笑顔)
Positive(前向き)
Diverse(多様性)
Sustainable(継続)
Collaborative(連携

この5つがDeNAの「健康取組五箇条」には掲げられているのですが、その中の「Sustainable」がコストへの意識と関係しています。健康経営は継続可能なことが重要で、そのために投資対効果の高いことにしかお金を使わないと決めています。効果をしっかり見極めた上で取り組む。要は「健康ごっこ」のようなことはしないということです。

取り組み一つ一つについて「課題感が何か」「目的は何か」「結果どう変わったのか」ということをしっかり考えて初めて投資対効果が出てくるので、そうしたことを考える企業がどんどん増えていけば良いと思っています。

投資対効果を考えた場合、モノを配る必要も、会社が利用料を負担して有料アプリをインストールしてあげる必要もないんです。健康経営を推進する上で一番効率が良いのは、社員のヘルスリテラシーを上げていく活動なのですから。

※ヘルスリテラシーとは
健康面での適切な意思決定に必要な情報やサービスを調べ、理解し、効果的に利用する能力。 医療リテラシーとも称される。

社員のヘルスリテラシーを上げる2つの施策

施策1:ポスターの掲示で「豆知識」を啓発

─社員のヘルスリテラシーを上げるためには、どんな施策があるのでしょうか。

ポスターの掲示は効果的ですね。DeNAでは、社内のデザイナーに依頼してトイレの個室や階段、給湯室などに、健康に関する豆知識を学べるポスターを掲示しています。例えば、人間の頭の重さが何キロあるかご存知ですか?

─5キロくらい、でしょうか?

ほぼ正解です。一般的には「体重の10%」といわれています。例えば50キロの人だったら5キロ、60キロの人だったら6キロ、といった具合ですね。5キロという重さをボーリングの球で例えると、12~13ポンドの、男性でもなかなか使わないくらいの重さのものに匹敵します。そのボウリングの球が頭に乗っていると考えたら、変な姿勢をとることがすごいリスクだと感じませんか?

─確かに、支えるのに大きな負担がかかるイメージが湧きますね。

社員のヘルスリテラシーを上げるためのポスターそうなんです。こういった情報を伝えていけば、「このままではまずい」と思って姿勢が良くなる人も出てくる。「姿勢をよくしましょう」とだけ言ったところで、全く響きませんよね。そんなありきたりなことを言ったとしても、みんなから「うるさいなぁ」と思われて終わってしまう。だからもっと具体的な、「知って得する健康の豆知識」を日常的に提供しています。

この施策は、デザイナーの人件費はかかりますが、基本的には印刷費だけで済みます。ほとんどお金はかけずに、社員の健康に良い影響を与えられる。

腰痛を良くする上で必要なファクターが何なのかを考えると、やはり姿勢を良くすることが重要なんです。そこで、社員の姿勢が良くなる、良くしたくなるような動機付けや情報発信をしようと考え、その手段の1つとしてポスターを作っています。

施策2:椅子の座り方を改善

─なるほど。ポスター以外で、腰痛予防のための施策は何かありますか?

ポスター以外だと、椅子も重要です。IT企業では、10万円を超えるような、良い椅子を使用されているところが比較的多いと思います。ただ、「正しい座り方」についてはほとんど意識されていません。高い椅子を購入するよりも、椅子の使い方、正しい座り方などを、ポスターにしてモニターの受け渡しのカウンターで渡したり、椅子のメーカーさんに直接教えてもらう方が効果が高いです。

お金をかけないという点では、コクヨ株式会社と学校法人早稲田大学と一緒に実施した共同プロジェクトもあります。コクヨが開発した「ingチェア」という360度に揺れる椅子によって、どれだけ腰痛の症状が緩和するのかをDeNAの社員に試してもらいました。

コクヨとしては実験フィールドが得られ、DeNAとしては腰痛をなくすための施策が得られるということで、win-winの関係が成り立っています。また、早稲田大学にとっては、研究ができるのでここにもwinがある。お互いにメリットがあって、費用がかからない。こうした施策も行っています。

健康経営による2つのメリット

メリット1:社員が健康に関する知識を得ることができる

─お金をかけなくても、社員のリテラシーや健康意識を変えられるということですね。健康経営やそれに関する取り組みによって、社員や会社にはどのようなメリットが生まれるのでしょうか。

社員にとってはメリットしかないと思います。一番のメリットは、健康に関する知識が得られることです。

会社が発信する健康情報や実施するイベントに対して、気になるものがあれば利用してもらえばいいし、嫌だったら無視すればいい。それらを選択できる上、情報の元となる研究内容や、ヘルスリテラシーを高めるための情報も得られる。医師やメーカーの研究者から得ている情報をもとに産業医にも確認して発信しているので、その信頼性の確認も行っています。

メリット2:会社の採用面でポジティブな効果がある

─なるほど。会社にとってのメリットはどのようなものがありますか。

よく「健康経営は採用に効く」と聞いていたのですが、実は私自身はこの話、半信半疑でした。ですが、この半年~1年くらいで、私のFacebook や、CHO室のホームページなどにお問い合わせをいただくことが増えたことから、関心が高まっていると感じています。

実際、通常の採用にどれくらい「健康経営」が影響を与えているかは測定できていないのですが、最近新卒に「DeNAが健康経営を取り組んでいるのを知っている人は?」と聞くと、何人か手を挙げる人が出てきています。DeNAが健康経営に取り組んでいることが浸透してきていると実感しました。

─「健康経営に取り組んでいる」ことが浸透することで、採用にも好影響がある。

株式会社ディー・エヌ・エーCHO室室長代理健康経営アドバイザーの平井孝幸氏④はい。2015年の段階で、すでに健康経営を取り入れたJALでは新入社員の応募が圧倒的に増加した事例がありました。このことからも健康経営は採用に少なからずポジティブな効果があると私は思っています。

他には、「人を大事にしている」ということが示せます。私は、DeNAをできるだけ社員が生産性・パフォーマンスを存分に発揮できるよう、個々人の健康状態を保てる組織にしていきたいと思っているので、そこに魅力を感じてくれる方がいるかもしれません。

─最後に、健康経営に取り組むべきか悩む担当者の方にメッセージをお願いいたします。

私はいつも、「健康経営は、働き方改革よりもはるかに価値があるものだ」と話しています。なぜかと言うと、「働き方改革」は働き方しか変えないかもしれませんが、「健康経営」は人生そのものを変えるからです。社員の人生をポジティブな方向に変えるのが健康経営の最大の魅力だと思います。

─ありがとうございました。

【編集部より】
株式会社ディー・エヌ・エーに関する、この他の記事はこちら。

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