企画

リクルートキャリア研究機関「就職みらい研究所」主席研究員・増本全氏


キーパーソンに聞く2019年卒新卒採用動向「中小企業が、激化する新卒採用を勝ち抜くためには」

2018.09.07

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今夏、2019年卒の学生に対する内定出しが山場を越えた。学生優位の売り手市場が続く中、一部企業は計画通りに学生を採用できず、苦戦したかもしれない。

今回は就職情報大手「リクルートキャリア」の研究機関「就職みらい研究所」(東京都)に取材。主任研究員の増本全氏に、19年卒の学生や企業の採用動向、20年卒採用に向けて企業が必要な量や質の学生を獲得するためのアイデアを聞いた。【2018年8月7日取材】

19年卒採用はさらに激化

従業員規模、業種により採用の難易度が大きく異なる

最初に、採用全体の状況を見てみる。2019年3月卒業予定の大学生・大学院生の大卒求人倍率は1.88倍で、7年連続で上昇した。売り手市場の目安となる1.3倍を超え、採用の難易度は非常に高くなっている。

図1kyuzin-bairitsu

求人倍率を企業の従業員規模別に比較すると、300人未満の企業は9.91倍(前年比3.46ポイント増)だった。求人倍率は数値が高いほど人員が不足していることを示しており、中小企業の人材不足の顕著さが伺える。一方、5,000人以上の企業は0.37倍(同0.02ポイント減)で過去最低値となった。18年卒よりも大企業を志望する学生が増えていることが読み取れる。

図2bairitsu-suii

業種別に比較すると、人手不足とされる流通業は12.57倍(同1.25ポイント増)、建設業は9.41倍(同0.14ポイント増)で他業種より高くなった。

学生から人気の金融業は0.21倍(前年同水準)で倍率が低く、人員が充足しているように見えるかもしれない。しかし、企業の採用抑制による学生の志望度減少、採用要件の見直しに関する報道の影響で、増本氏は「採用難易度は高まっているのではないか」と分析する。

図3bairitsu-suii2

※図1~3の出典:リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査(2019年卒)」(2018年4月26日発表)

理系採用は特に激化の一途をたどっている

7月1日時点での大学生の就職内定率は81.8%。前年同期比で2.7ポイント上昇した。

図4natitei-ritsu

特に、理系大学生の内定率は4月時点で25.8%、5月時点で52.0%となり、いずれも前年同期比で約10ポイント高くなった。理系学生が前年よりも早い時期から内定を得ていたことが分かり、理系採用が白熱している。

図5bunkei-rikei-naiteiritsu

背景には、景気が改善傾向にあり、企業は製造業をはじめとする各業種で技術者を求める動きがある。増本氏はこう分析する。「企業はIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの技術革新への対応が急務で、理系学生のニーズは高まるばかりだ。企業は『業務内容に応じた知識をすでに得た学生を採用したい』と考え、2~4月の早期に大学院の研究室に直接働きかけている」。今後も理系学生の獲得は激化の一途をたどり、採用は早期勝負となりそうだ。

※図4、5の出典:就職みらい研究所「就職プロセス調査(2019年卒)」2018年7月25日発表

学生は安定・大企業志向に

中小企業が不利なのは、就活が短期決戦だから?

これまで経団連が採用広報活動の開始時期としていた3月は、学生にとって就職活動期間中で最も忙しい時期となる。説明会、企業へのエントリー、エントリーシートの提出などのピークが3月に集中しているからだ。企業によっては選考も始まる。

学生は短期決戦の就職活動を乗り切るため、改めて耳にしたことのない企業を調べる時間を確保しにくい。以前から知っている企業を中心に選ばざるを得ず、知名度の高い大企業にアプローチが集中しやすくなる。これが、中小企業が採用に苦しむ理由の一つだ。20年卒採用のスケジュールも引き続き3月解禁となる予定で、状況は改善しにくいと思われる。

学生の安定、大企業志向は続く

大学・大学院生に働きたい組織の特徴を問う調査(出典:就職みらい研究所 「働きたい組織の特徴(2018年卒)」2017年8月10日発表)では、「安定し、確実な事業成長を目指している」や「入社直後の給与は低いが、長く働き続けることで後々高い給与をもらえるようになる」との回答率が高かった。

学生は働いた経験が少なく、もともと安定・大企業志向の傾向があるが、19年卒は18年卒よりその傾向が強くなっている。18、19年卒は1990年代後半に生まれ、リーマン・ショックによる不景気と、アベノミクス効果による景気回復の両方を経験している。大企業が倒産する可能性を理解しているが、景気が不安定になった場合は大企業の方が、経営基盤が安全とのイメージを抱いている。増本氏は「学生は、就職先の企業がいつまでも存在するとは思っていない。転職することも選択肢の一つとして考えながら、新卒で就職する。そのため、『どこに行っても通用する力』をつけることを、より強く希望している」と話す。安定を求めつつ、冷静に社会の動きをとらえて慎重に就職先を選んでいるのだ。

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安定に加えて、ストレス回避の欲求も高まる

2017年ごろから大手企業の社員の過労死が注目され、学生が「働く環境でのストレスを軽減したい」と言いやすくなった。一方、企業は人手不足で多くの学生を採用しようと、働く環境を整えていることをアピールする。増本氏は「人口減少や好景気による採用難を受け、企業と学生との関係に変化が出始めた。企業は働く環境を整えなければ選ばれにくくなるだろう」と考察する。「企業が人を選ぶ時代」から「働く個人が企業を選ぶ時代」になりつつあるのだ。

学生に積極的に情報提供する

2016年に一部施行された若者雇用促進法では、企業が若者に労働条件や平均勤続年数などの職場の情報を提供するように促している。

学生は情報収集に熱心だ。リクナビをはじめとする大手就職情報サイト、各企業のホームページ、SNS(交流サイト)、さまざまな企業の職場事情が分かる口コミサイトをチェックしている。

また、学生が知りたいと思い、かつ、企業から知ることができた情報を尋ねた調査(出典:就職みらい研究所「就職白書2018」2018年2月15日発表)では、離職者数や離職率、有給休暇の取得日数や取得率が挙げられた。学生は働く環境に関する情報を求めており、企業もそれを積極的に開示していることが分かる。

「情報発信・収集方法が多様に存在する時代に、企業は不利に思える情報であっても、隠さずに伝える方が有利になる」。増本氏は、企業がリアルタイムで情報発信し、学生からの信頼を高めることを勧める。

中小企業はインターンシップの活用を

インターンシップは「参加するのが当たり前」に

2018年6月15日までにインターンシップに参加した人の割合は、19年卒全体の72.4%だった(出典:就職みらい研究所「就職プロセス調査(2019年卒)」2018年6月29日発表)。インターンに参加する学生は年々増えているが、特に18年卒から参加率が上昇している。その理由は、就職活動を終えた先輩や大学のキャリアセンターを通じ、学生がインターンの参加を勧めるような情報を受け取っているからだ。

18年卒採用では、73.6%の企業が「内定者の中にインターン参加者がいた」と回答している(出典:就職みらい研究所「就職白書2018-インターンシップ編-」2018年2月15日発表)。学生は先輩から話を聞き、「インターンに参加すると就活で有利になる」と認識しているとみられる。また、大学は学生の修業感醸成の有効な機会として、インターンに関するガイダンスを開き、積極的に参加を促している。

「インターンシップはもはや、『就活の意識が高い学生が参加するもの』から『就活するなら参加するのが当たり前』という存在に変化している」(増本氏)

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インターンは学生、企業の双方にメリット

増本氏は「インターンシップは上手に活用すれば学生、企業の双方にメリットがある」と話す。

インターン参加者は、不参加者に比べて企業の理解が進み、自身の選社基準が磨かれるため、より納得感のある企業選びをすることができる。また、不参加者よりも早く採用情報を得られることもあるようだ。さらに、インターン参加後に実際の選考に進めば、参加時の体験を盛り込んだ独自の志望動機を話すことができる。

企業は、インターン期間中に業務内容や社風を学生に伝えて学生との相互理解を深めているため、選考の前に改めて説明会を開く必要はない。学生との面接に至るまでのプロセスを短縮しながらも、企業の理解度や志望度が高い学生を集められる。

学生はインターンで企業の姿勢を見極めている

企業が注意すべきなのは、学生がインターンに参加した企業数だ。2018年5月の調査(出典:リクルートキャリア「就職活動状況調査」)では約4.41社だった。インターンの参加率は7割を超えるほど高くなってきており、学生は複数社を比較検討することを当たり前に行っている。また、インターンの体験から就職意向度が変化することもあるのだ。

学生は互いに情報共有し、どの企業のどのような内容のインターンに参加すべきか、見極めているようだ。増本氏は学生の傾向として、「座学の事業説明よりも、その企業ならではの体験が伴うインターンシップを好む」と指摘する。企業は、こうした点を踏まえながら「学生に何を伝えるか」を明確にしてインターンのプログラムを考える必要があるだろう。

インターンを活用し、中小企業にしかできない体験を学生に提供する

20年卒の採用意欲を尋ねた調査では、全ての従業員規模の企業で「採用人数を増やす」の回答が「減らす」の回答を上回った。特に、1,000人以上の企業では採用人数の増加傾向が顕著に表れている。

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(出典:リクルートキャリア「採用活動中間調査2019年卒」)

また、経団連の20年卒採用の解禁は3月で現在と同じになる予定。知名度が高くない中小企業の採用活動は、引き続き厳しい状況となる見込みだ。

そこで、増本氏が提案するのはインターンの活用だ。学生からはインターンを通じて企業の印象が良くなったという声もある。また、前述の通り、インターンは実施回数よりも1回の質が重要だ。増本氏は、「中小企業ならではの体験を盛り込む」ことを勧める。顧客に近い場面での営業同行や社長のカバン持ちなど、大企業では実現させにくい実体験を伴った活動を提供する。インターン終了後には一人ひとりにフィードバックすることも重要だ。参加学生の内省を促すことで仕事に理解を深めてもらうことに加え、社員との身近さを実感し、興味関心を醸成する絶好の機会になり得るのではないか。

増本氏は「20年卒採用も中小企業にとっては厳しい戦いとなるが、インターンシップのプログラムで勝負して学生に自社の魅力を訴求し、会社の実情を包み隠さず伝えてほしい」と語った。

※情報は取材時点のものです。

就職みらい研究所

研究内容:新卒学生の“就職・採用の実態”をつかむための調査や、調査研究・事例研究などを実施
所長:松浦太郎
設立年:2013年
所在地: 東京都中央区八重洲2-4-1 ユニゾ八重洲ビル
研究員数:7人

主任研究員 増本全(ますもと・ぜん)

2004年(株)リクルートに新卒入社以来、一貫して人材採用に関する営業/企画/スタッフ職に従事。合同会社説明会の企画など、主に新卒市場にかかわる業務を担当。2014年4月より『リクナビ』副編集長として、大学生・大学職員向けにこれまで300回を超える講演・セミナー等のキャリア支援を行う。2018年4月より現職。また大学卒業以来、母校で就職支援のボランティア活動に尽力。趣味は、バスケットボールなどのスポーツ観戦。

【取材・執筆: @人事編集部】

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