人事のキャリア【第16回】
人事の経験を教育で生かす(山形県立米沢女子短期大学講師 後藤和也さん)
2018.08.27
さまざまな会社の人事担当者に、仕事のやりがいや思いを聞く連載企画「人事のキャリア」。今回は、番外編として元人事で現在、山形県立米沢女子短期大学で講師をしながら、キャリアコンサルタントとしても活躍する後藤和也さんにお話を伺いました。
2004年4月の国立大学の法人化までは国家公務員だった大学職員。後藤さんは、民間企業とは異なる人事の仕事内容や、古い慣例の打破を目指して、試行錯誤しながら研修企画をはじめとする人事制度改革に取り組んだ様子を語っていただきました。【2018年5月31日取材・撮影:編集部、文:東山亮、構成:宮田悠平】
後藤和也(ごとう・かずや)
山形県公立大学法人山形県立米沢女子短期大学 国語国文学科(専任)講師(兼)キャリア教育担当、国家資格キャリアコンサルタント、2級キャリアコンサルティング技能士、CDA、産業カウンセラー
2003年に新卒で東北大学職員(公務員)交流出向で人事院東北事務局へ出向し、公務員研修講師や職員相談員業務を担当。2012年に東北大へ戻り、新設された人事企画部で教育・採用などの仕事に携わる。自身の人事としての経験を生かし、2018年に山形県立米沢女子短期大学講師に転職。
「好きな仕事をする」と決意して大学教員に
―現在の仕事を始めるまでの経緯を教えてください。
2003年に大学職員として東北大学に就職しました。東北大の附属病院の人事部門で人員の名簿作りや、給与計算など事務のような仕事からスタートしました。
経験を積みながら、職員の採用業務も任されるようになり、自分のキャリアの幅を広げられるという考えもあって産業カウンセラーなどの資格も取得しました。そうしているうちに2010年の人事交流で、人事院に出向することになりました。人事院では、研修講師として国家公務員の教育や採用試験に携わったり、公務員の職場における悩み相談に対応したりしました。
そして2012年に東北大に戻り、採用や人材育成を担当する人事企画の仕事に6年間就いた後、長年キャリアの1つとして意識していた大学教員に転職しました。
2018年4月から米沢女子短期大学でキャリア教育や人材マネジメントについての研究、学生への教育やキャリア支援体制の構築をしています。
―どんなきっかけで大学教員になろうと思ったのでしょうか?
人材育成や採用のほか、人事に関する企画の仕事が好きでしたが、いずれは人事異動の関係でいつまでもその仕事を続けられなくなることが予想されました。
そこで今後のキャリアを見つめ直したところ、自分の好きな仕事を中心にやりたい気持ちが強く、これまでの経験を生かせそうな大学教員の公募に目が留まりました。
大学では、研修の企画や実施を通して職員の教育をしていましたが、学生に力をつけて社会に羽ばたいてもらう仕事にも魅力を感じたんです。
―企画の仕事が好きになったのはなぜですか?
人事の仕事の中でも成果が非常に分かりやすかったからです。例えば研修では、研修後のアンケート結果を見ると、失敗と成功がはっきりするんですね。その結果は次の研修で何をすべきかが分かる指針となり、自分なりに改善をすることができます。
また目標を達成するためのアプローチを自分で決められる点にも魅力を感じていました。事務的な仕事のように決まりきったやり方ではなく、結果を出すためにアイデアを出して自分で実践できる仕事が好きでした。特に人材育成の業務は、自分の独自色が出せる範囲がとても広いので、良いなと思っていましたね。
人事院で人事の仕事のおもしろさに気付く
―人事院での業務内容を詳しく教えてください。
人事院とは、国家公務員試験の実施や公務員への研修を行い、国家公務員の人事管理を担う中立的な第三者機関です。その東北事務局に2年間在籍しました。そこでは、さまざまな役所から集められた公務員に対する研修やセミナーの講師を任されました。また、公務員の悩みを聞く相談員業務も担当し、電話で職場でのいじめやセクハラなどの相談を受けてアドバイスをしていました。人事院にいたときは、問題に対して解決策を企画して実行するという、大学職員時代よりもさらに裁量の大きい仕事を経験できました。
―人事院の仕事を通じて学んだことはありますか?
大学職員時代は、給与計算や人事考課の事務作業など、正確性を求められる仕事をしてきました。自分で企画した研修を実施させてもらったときに、「人が育つ」ということを初めて知って、こういう創造性を発揮して成果を出すおもしろい仕事があるのかと思いました。
自分よりも職務経験が豊富な公務員を前に研修するのは、プレッシャーがありました。ですが、プログラム内容を考えるところから教え方まで自分の色が出せて、その上、受講してくれた人が喜んでもらえたときには、「これはいい仕事だな」という気付きがありました。自分の知見やスキルを生かして人の成長に直接関われたことで、人事の仕事に魅力を感じることができたのです。
人事院で学んだことを大学の人事制度改革に生かす
―人事院から戻ってきた後の6年間の仕事内容を教えてください。
東北大に戻ってきたときには、総務部の中で位置付けられていた人事部門(人事課)が「人事企画部」として昇格していました。方針として、過去の決まりごとを踏襲するだけではなく、主体的に企画立案・実行をしていき、新たに独自色を出していくことになりました。人事・給与制度の分析・検証・企画及び立案業務のほか、職員採用・研修等の人材育成等の業務改革など、出向前より裁量の大きい仕事に携わりました。
改革の一例として、教育分野では、研修体系の見直しと内容の整理を行いました。それまで研修は、業者が提案したパッケージのものをそのまま実施していました。しかし、きちんと研修結果を分析したところ、費用対効果の面で妥当ではないことが分かったため、業者任せのやり方を一新しました。さらに、研修内容は、東北大職員としてのあるべき姿や、その実現のための研修実施の方向性などが整理されていなかったことから、研修プログラムを人事評価上の求める人物像に紐付けるよう改善しました。
また、職員の採用は、魅力的な側面に絞って仕事内容を伝えることをやめ、単調で地味な仕事もあるという実情に近い形で応募者に伝えるようにしました。近年は民間企業での勤務経験者の採用にも着手していたのですが、就職後にギャップを感じて離職する、ということが起こらないようにしたかったんです。
―研修や評価制度の改革に取り組もうと思ったのはなぜですか?
当時の人事評価は面談を通じて上司と部下のコミュニケーションは増えたものの、評価結果が給与処遇に必ずしも反映しなかったため、人によって異なる業務量や難易度に対してあるべき評価の差が曖昧になっているところに違和感がありました。それを変えることによる成果も見えにくかったため、手付かずの状態で、そういった状況に歯がゆさを感じていました。
業務改善が必要な職員に対しては更生プログラムを適用して更生してもらい、できなければ適切な処分を下す——。
こういった民間企業であれば当然のことができておらず、「人事評価と給与処遇の連動」の必要性を感じたんです。上司が職員に対して「評価に対して然るべき措置を行う」という方針を示してくれたことで改革を推進することができました。
新しい評価制度改革を始めるときには、評価者から「差をつけたくない」「マニュアルがないと評価できない」といった声があり、慣例を覆すことの大変さを実感しました。当然担当者個人の力ではどうにもならないところでしたので、上司が地道に「やった仕事に対して正当に評価しよう」と伝えていきました。職場内のキーパーソンの力を借りながら職員全体を巻き込み、徐々に浸透させていけたと思います。
―人事評価制度の設計や運用の経験がない中でどのように改革を実施したのですか?
改革の企画を立てるときは、私を含めメンバー全員が初めてのことだったため全てが手探りでした。
やり方を教えてくれる人はいないため、みんなで知恵を絞って一つひとつの企画を形にしていきました。具体的には他の大学で成功している制度や研修など、先例を集めて共通要因を分析しました。
その結果から東北大にマッチする要素を抽出し、企画に生かすといった流れです。
大学職員採用のための説明会や内定後のフォロー(内定式や内定者懇談会)を実施したのですが、先例がほぼなかったため、民間の類似事例を調べ、それでも解決できないときは面識がある研修講師をしらみつぶしにあたって、情報を集めるなどして何とか形にしていきました。
今までの慣例を打ち破るべく新しい企画や施策を考えるのは大変でしたが、ひとつずつ実現していくことで初めて少しは組織の役に立てたんじゃないかな、という実感がありましたね。
人事の実務家だからできる教育がある
―今後の目標を教えてください。
現在、米沢女子短期大学の学生全体のキャリアを支援する体制づくりに取り組んでいます。キャリア支援のための企画を立て、学長や執行部をはじめ先生方にプレゼンしてコンセンサスを得るというプロセスは、自分が人事担当者時代に経験してきたことなので力を発揮したいですね。
学生からのキャリア相談には、キャリアコンサルタントや産業カウンセラーとしての経験を生かしていきたいです。本学の就職率は既に高い水準に達しているため、これからは学生自身が選んだ進路に対して「納得感」が得られるキャリア支援を行っていきたいです。女子短大ということもあり、離職や結婚、出産など人生にはさまざま出来事が想定されます。そのようなときでも、自分で納得のいく職業人生を歩めるようキャリア支援の質を高めていきたいです。その人なりに納得できるキャリアを形成するためのヒントや学びを、私のキャリアコンサルタントの知識や人事の経験から生み出したいと思っています。そしてキャリアセンター職員にも事例の共有などを行い、学内全体でキャリア支援体制の強化につなげたいですね。
―最後に人事のキャリアチェンジについての考えをお聞かせください。
人事の仕事を通じて得た経験は価値があることだと思っています。例えば大学のキャリアセンター職員や学生にとって人事担当者は、知りたい情報を持っている貴重な存在なんです。知りたい情報とは、面接で人事担当者がどのように学生をチェックし、判断しているかなどの情報ですね。人事担当者としては当然で価値があるとは思っていなかったことでも、場所が変われば違ってきます。私の場合は大学でしたが、人事の知見を欲しい人に欲しい形で届けることができれば、新しい世界、新しい仕事であっても、活躍することができるのではないでしょうか。
――ありがとうございました。
後藤さんのキャリアアップのポイント
・ 自分の好きなことや学んだことを生かせる仕事に挑戦する
・ 得意分野の知識を深め、仕事に生かせるよう資格を取得する
・ 初めて挑戦すること、わからないことはひとつずつ実現させていく
後藤さんのある日のスケジュール
6:00 起床。妻子と一緒に朝食
7:30 妻を駅、子どもを保育園に送る
11:00 出勤。約2時間の通勤中にメールチェックや雑務の対応
11:30 情報収集のためネットサーフィンをしながら昼食をとる
12:30 学生向け就職ガイダンスに参加。人の入りがよく安堵する
13:00 学会発表を目指し資料を収集
15:00 学内のキャリア支援委員会に参加。各大学の先行事例を調査する件について打ち合わせ
16:00 事務局担当者と打ち合わせ。研究室では黙々と仕事をしているため、打ち合わせでの世間話はいい息抜きになる
16:30 研究に没頭。寄稿しているウェブサイトの原稿にも手を付ける
18:40 退勤。帰りも同じく約2時間の電車移動。読書や資料の読み込みの時間とする
21:00 帰宅。妻子と就寝前のコミュニケーションを図りつつ夕食、入浴
22:00 夜の洗濯当番を終え、長距離通勤に備えて就寝
※情報はすべて取材時点のものです。
【制作協力:株式会社アジタス】
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