企画

人事・総務担当者が知っておきたい災害対策


災害時に社員の安全を守る「有事の特別休暇」制度の実践例(社労士解説付き)

2018.08.02

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2018年6月18日の大阪北部地震は通勤時間帯に発生し、企業は社員の安否確認や出勤できない社員への対応に追われました。神戸市のシステム開発運用会社「神戸デジタル・ラボ(KDL)」は、2009年から「有事の特別休暇(罹災休暇)」制度を導入。地震発生日の18日を特別休暇とし、従業員の混乱を最小限にとどめました。

災害が起きると、人事・総務担当者は社員の安否確認に加え、当日の勤務態勢の検討に追われる可能性があります。今回はKDL取締役の西下尚良氏、東京都社会保険労務士会の松井勇策氏に取材。KDLの制度の具体的な内容や、制度を導入する際の注意点をお伝えします。災害当日の混乱を避けるため、事前に制度を整えて社員に周知するコツが分かり、人事・総務担当者は必見です。

株式会社 神戸デジタル・ラボ

株式会社 神戸デジタル・ラボのロゴ

本社所在地:神戸市中央区京町72番地 新クレセントビル
事業内容:ITコンサルティングサービス、システム開発・運用・保守ほか
設立:1995年10月
代表者:永吉一郎

 

目次
  1. 社員が災害時に出勤できなくても欠勤扱いにならない制度
  2. 平時から社員への周知を徹底し、大阪北部地震では混乱せず
  3. 事業継続計画の一環として、いつ起きるか分からない災害に備える
  4. 制度を導入する際の注意点
  5. 特別休暇となる条件を定め、制度の周知を徹底する

社員が災害時に出勤できなくても欠勤扱いにならない制度

KDLの「有事の特別休暇」は、同社の就業規則に明記された制度。有事の対象を「天災事変その他これに準ずる災害」と定義しています。震度や被害状況などの災害の規模は特に定めず、対象となる災害を幅広くカバーできるようにしました。

災害が発生し制度の運用が決まると、「特別休暇」として全社的に休日となります。出勤できない社員は欠勤扱いにはならず、自宅で待機。一方、出勤した社員やテレワークをする社員は休日出勤扱いで勤務します。西下氏は制度をつくる上で工夫した点を「勤務した社員を休日出勤扱いとすることで、出勤できなかった社員との不公平感がないようにした」と説明します。

株式会社 神戸デジタル・ラボのオフィス風景
平時のKDLの社内の様子

平時から社員への周知を徹底し、大阪北部地震では混乱せず

今回の大阪北部地震は6月18日午前7時58分ごろに発生し、最大震度6弱を観測しました。大阪府や兵庫県の公共交通機関は一斉にストップ。通勤客は駅周辺や電車内で足止めされ、企業は社員の安否確認に追われました。公共交通機関のホームページはアクセスしにくくなり、運行状況を確認することも困難だったそうです。

KDLは地震発生後、安否情報確認サービスで全社員約160人に連絡。全員の安否や出勤可否を確認しました。発生から約2時間後、特別休暇制度の適用を決定。同サービスのメッセージ機能とメールで、社員に全社休日とすることを一斉に伝えました。

その結果、社員のうち140人が出勤せずに自宅で待機。出勤、またはテレワークとなった20人は休日出勤として勤務しました。

災害時に制度を適用したのは、2015年7月16日の台風11号に続き2回目。管理部門の人事、総務担当者や社員に大きな混乱や二次災害はなく、帰宅困難者もいませんでした。以前から災害が発生した際に特別休暇の存在を社員に伝えており、周知を徹底していたことが功を奏したそうです。

一方、反省点には制度適用を判断するまでの長さを挙げます。西下氏は「社員からの安否確認の回答スピードにばらつきがあり、制度を適用するかどうか判断に少し時間を要した」と振り返ります。社外の取引先に特別休暇を適用したことを連絡するのが遅れた点も、課題ととらえました。

事業継続計画の一環として、いつ起きるか分からない災害に備える

KDLは阪神大震災が起きた1995年、被災地の神戸市で創業されました。創業当初から防災に対する意識が強く、社員の命を守るための方法を考え続けてきました。

2009年、国内初の新型インフルエンザ患者が神戸市で確認されたのを受け、就業規則に「特別休暇」制度を記載。西下氏は「制度導入も大切だが、まずは初動として社員やその家族の安否確認をする連絡手段を確保することが大事」と指摘した上で、「事業継続計画(BCP)の一貫として、いつ起きるか分からない災害への対策を練ることは必要だ」と語ります。

制度を導入する際の注意点

実際に企業が有事の特別休暇制度を導入する場合、人事や総務担当者はどのような点に注意するべきなのでしょうか。東京都社会保険労務士会の広報委員長(新宿支部)の松井勇策氏に解説していただきました。

松井 勇策 (社会保険労務士・産業カウンセラー・Webアーキテクト)

東京都社会保険労務士会 広報委員長の松井勇策氏

東京都社会保険労務士会 広報委員長(新宿支部)。フォレストコンサルティング社会保険労務士事務所代表。名古屋大学法学部卒業後、株式会社リクルートにて広告企画・人事コンサルティングの営業職に従事、のち経営管理部門で法務・監査・ITマネジメント等に関わる。その後、社会保険労務士として独立。IPO支援、労務監査等の人事制度整備支援、ほかIT/広報関連の知見を生かしたブランディング戦略等を専門にしている。

 社員が負担なく職場に戻れるよう、企業が制度を整備する必要がある

まず、企業が災害時に特別な制度を設けていなかった場合について説明します。このような場合、自然災害によって事業ができなければ、事業主が従業員に給与を支払う必要はありません。社員は有給休暇を使用すると、職場に行けない期間にも給与の支払いを受けることができます。有給休暇がない、もしくは使い切っていた社員は欠勤扱いとなり、給与は支払われません。

大規模災害時は国が公的扶助を行い、雇用保険関連の特例措置を講じる可能性がありますが、十分な内容とは限りません。混乱が収まった後に社員が負担なく、前向きに職場に復帰できるためには、企業が災害時の制度を設けておく必要があると思います。

特別休暇を付与する条件や使用目的は企業が自由に定められる

災害時の特別休暇・休日の制度に関して、その設計方法は企業によりさまざまに異なります。今回(KDL)のように特別な休日制度を設定している企業のほか、災害時の見舞金制度を設ける企業もあります。

特別休暇・休日の制度の中には、一定の日数の有給休暇を付与したり、災害時や傷病を患った際に前々年以前の未取得の有給休暇を付与したりするケースがよく見られます。それ以外にも、独自に工夫を凝らした制度を導入していることもあります。制度を設けることは、社員に生活保障として大きな安心感をもたらすだけでなく、企業として事業存続を考えた場合にも有効で、メリットがあると思います。

有給休暇を付与する場合は、法的に制度化せずに必要な場合にその都度会社から支給しても問題ありません。しかし、あらかじめルール化すると平等性が保たれ、社員の安心にもつながります。

法定の有給休暇数を超える特別な有給休暇の付与については、法的な制限はほとんどありません。付与される条件や休暇の使用目的は、不合理な内容でなければ企業が自由に定めることができます

特別休暇となる条件や付与される従業員の範囲を明確に定める

注意すべき点は、特別休暇が付与される従業員の範囲、条件、支給の手続きを明確に定めることです。例えば、制度を適用する「災害」について、避難勧告をはじめ公的な機関が発令する状況と定義することも、企業が独自に決めたガイドラインで定めることもできます。

通常は特別休暇の付与の限度日数についても規定することが必要だと思います。企業が制度を設ける目的を考慮した上で、さまざまな事項を明確に定義しておくと、従業員との支給に関する無用のトラブルを避け、従業員が安心して利用できる制度になると思います。

特別休暇となる条件を定め、制度の周知を徹底する

災害時に混乱を最小限にとどめて社員の安全を確保するため、社員全員が平時から防災の意識を高めておくことが重要です。特別休暇制度もその対応策の一つ。効果的に運用するために、条件や休暇の内容を明確に定め、社内での浸透を進めるべきです。

【取材・執筆: @人事編集部】

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