職場の受動喫煙対策
受動喫煙防止対策、国の法律・東京都の条例が職場に与える影響は?
2018.07.13
2018年6月27日、東京都議会は、従業員のいる飲食店の原則屋内禁煙などの内容を含む「東京都受動喫煙防止条例」を可決しました。国会では、自民・公明両党が受動喫煙対策を強化するための「健康増進法改正案」を本国会(7月22日)までに成立させる方針を確認しており、日本における受動喫煙防止対策は、大きな転換点を迎えています。
今回の記事では、国が制定を目指す「健康増進法改正案」と都の「受動喫煙防止条例」の概要とそれぞれの違い、これらの法案・条例の成立が職場へ与える影響をまとめました。
厚労省が説明する、健康増進法改正の3つの基本的考え方
厚生労働省は、公式Webサイトの受動喫煙対策コーナーの中で、健康増進法の改正の趣旨について、以下のように解説しています。
改正の趣旨
望まない受動喫煙の防止を図るため、多数の者が利用する施設等の区分に応じ、当該施設等の一定の場所を除き喫煙を禁止するとともに、当該施設等の管理について権原を有する者が講ずべき措置等について定める。
【基本的考え方 第1】「望まない受動喫煙」をなくす
受動喫煙が他人に与える健康影響と、喫煙者が一定程度いる現状を踏まえ、屋内において、受動喫煙にさらされることを望まない者がそのような状況に置かれることのないようにすることを基本に、「望まない受動喫煙」をなくす。
【基本的考え方 第2】受動喫煙による健康影響が大きい子ども、患者等に特に配慮
子どもなど20歳未満の者、患者等は受動喫煙による健康影響が大きいことを考慮し、こうした方々が主たる利用者となる施設や、屋外について、受動喫煙対策を一層徹底する。
【基本的考え方 第3】施設の類型・場所ごとに対策を実施
「望まない受動喫煙」をなくすという観点から、施設の類型・場所ごとに、主たる利用者の違いや、受動喫煙が他人に与える健康影響の程度に応じ、禁煙措置や喫煙場所の特定を行うとともに、掲示の義務付けなどの対策を講ずる。
その際、既存の飲食店のうち経営規模が小さい事業者が運営するものについては、事業継続に配慮し、必要な措置を構ずる。
「敷地内禁煙」「原則屋内禁煙」それぞれの違いは?
改正健康増進法では、「多数の者が利用する施設等における喫煙の禁止」が掲げられています。具体的には、「敷地内禁煙」となる施設と、「原則屋内禁煙」となる施設があります。
国の改正健康増進法案で、「敷地内禁煙」となる施設
行政機関、学校・病院・児童福祉施設等の第一種施設(受動喫煙により健康を損なうおそれが高いものが主として利用する施設)と、旅客運送自動車(タクシー、ハイヤーなど)、そして航空機内は、敷地内禁煙となります。
敷地内禁煙の施設では、「特定屋外喫煙場所」「喫煙関連研究場所」でのみ喫煙が可能で、その他の場所での喫煙は一切禁止となります。
国の改正健康増進法案で、「原則屋内禁煙」となる施設
第二種施設(上記の第一種施設以外の施設)と、旅客運送事業船舶(フェリーなど)・鉄道では、原則屋内禁煙となります。
原則屋内禁煙の場所では、屋内でも、「喫煙専用室」「喫煙可能室」「指定たばこ専用喫煙室」などであれば喫煙することができます。(ただし、喫煙をすることができる場所については、施設等の管理原者による標識の掲示が必要となります)
- 喫煙専用室…喫煙のみを目的に作られた、受動喫煙を防ぐための室。飲食不可。
- 喫煙可能室…受動喫煙を防ぐための室。飲食可能。
- 指定たばこ…加熱式たばこ(アイコス、グローなど)をはじめとした、「当該たばこから発生した煙が他人の健康を損なうおそれが明らかでないたばこ」として、厚生労働大臣が指定するもの
経過措置として喫煙が一部許される「既存特定飲食提供施設」とは
上記の通り、今回の健康増進法の改正案では、飲食店を含めた第二種施設にも「原則屋内禁煙」が義務付けられていますが、個人・中小企業が経営する飲食店が、短い期間で「喫煙専用室」などを新たに設置するのは難しいといった理由から、一部飲食店には「経過措置」が認められています。経過措置は、具体的には以下のような内容となっています。
- 対象…既存特定飲食提供施設(「個人」または「資本金又は出資の総額が5000万円以下の中小企業」が運営し、かつ 客席面積100㎡以下の飲食店)
- 期間…別に法律で定める日までの間
- 経過措置…当該既存特定飲食提供施設の屋内の場所の全部又は一部の場所を「喫煙をすることができる場所」として定めることができる。(ただし施設の出入口の見やすい箇所に、そこが喫煙をすることができる場所である旨、当該場所への二十歳未満の者の立入りが禁止されている旨等を記載した標識等を示さなければならない)
厚生労働省が公開している、「原則屋内喫煙と喫煙場所を設ける場合のルール」
喫煙所には20歳未満立ち入り禁止、オフィスの灰皿設置も禁止
法案では、旅館・ホテルの客室等、人の居住に供する場所は喫煙禁止の対象外とするほか、喫煙をすることができる室には20歳未満の者を立ち入らせてはならないことなどが定められています。
また、「施設等の管理権原者の責務」として、“施設等の管理権原者等は、喫煙が禁止された場所に喫煙器具・設備(灰皿等)を設置してはならない”ことも定められているため、「多数の者が利用する施設等」にあたる、職場オフィスの管理権原者は、この点に注意が必要です。
従業員に対する受動喫煙対策について
厚生労働省は「従業員に対する受動喫煙対策」について、”多数の者が利用する施設等では、施設等の類型・場所ごとに禁煙措置や喫煙場所の特定を行うこととするが、喫煙可能場所のある施設の従業員の「望まない受動喫煙」を防止するため、以下の施策を講ずる”として、2つの施策を示しています。
1 20歳未満の者(従業員含む)の立ち入り禁止
多数の者が利用する施設等の管理権原者等は、20歳未満の者(従業員を含む)を喫煙可能場所に立ち入らせてはならないこととする。
2 関係者による受動喫煙防止のための措置
関係者(※)に受動喫煙を防止するための措置を講ずる努力義務等を設ける。その上で、これらの努力義務等に基づく対応の具体例を国のガイドラインにより示して助言指導を行うとともに、助成金等によりその取組を支援する。
※上記1の施設等の管理権原者等及び事業者その他の関係者
また、従業員の募集を行う者に対しては、どのような受動喫煙対策を講じているかについては、募集や求人申し込みの際に明示する義務を課すこととする(今回の法律とは別に関係省令等により措置)
厚労省Webサイトには、今回の法案で「受動喫煙を防止するための措置を講ずる努力義務」を設けた上で、今後の省令等により、「どのような受動喫煙対策を講じているかについて募集や求人申し込みの際に明示する義務」が生じることが記されており、特に後者については、人事・総務の方はどのような省令が出るか、引き続き注視していく必要がありそうです。
全面施行は2020年4月、2018年から段階的に施行の予定
では、国の改正健康増進法案は、いつから施行されるのでしょうか。厚生労働省のWebサイトには、「施設等の類型・場所に応じ、施行に必要な準備期間を考慮して、2020年東京オリンピック・パラリンピックまでに段階的に施行する」とあります。
厚生労働省の「オリンピックまでに国際水準に合った受動喫煙対策を実施する」という目標を考えると、2020年4月までには、法案が全面的に施行される可能性が高いと言えそうです。
【参考・図の引用】
健康増進法の一部を改正する法律案 (平成30年3月9日閣議決定)概要
国の「健康増進法」と都の「受動喫煙防止条例」の違い
6月27日に可決した東京都の「東京都受動喫煙防止条例」と国の健康増進法案では、どのような違いがあるのでしょうか? 一言でまとめれば「都の条例の方が、国よりも厳しい」というのが全体の印象です。では、どのようなところがより厳しいのか、具体的な内容を見ていきましょう。
都の条例では、病院・学校・行政機関に屋外喫煙場所を設置することも禁止
上段でご紹介したように、国の法案では、行政機関、学校・病院・児童福祉施設等の第一種施設においては、「特定屋外喫煙場所」で喫煙が可能としていますが、都の条例では、屋外喫煙場所の設置も禁じ、病院・児童福祉施設・行政機関などの敷地内では一切の禁煙を禁じています。
従業員がいる飲食店では、喫煙室以外全て禁煙とした都の条例
国の法案では、個人または中小企業が運営する特定の飲食店に「経過措置」を認めましたが、東京都の条例では、「従業員がいない飲食店」にのみ屋内喫煙を認め、従業員がいる飲食店においては「原則室内禁煙」としています。
このため、従業員を雇っている東京都の飲食店では、「屋内での禁煙を徹底する」か、「新たに喫煙室を設ける」かの措置が必要となります。
職場は「多数の者が利用する施設」にあたるため、原則屋内禁煙
東京都の条例でも、一般的な「職場」は、国の法案と同じく「多数の者が利用する施設」としているため、原則屋内禁煙、喫煙は屋外か喫煙室のみで許可されています。
【参考・図の引用】
東京都受動喫煙防止条例 よくあるお問合せ(対象施設)
職場の受動喫煙防止は、条例・法律を守ってお早めに
IOC(国際オリンピック委員会)はWTO(世界保健機関)とともに「タバコのない五輪」を掲げており、2020年の東京オリンピックに向け、受動喫煙防止の流れはますます加速していくものと思われます。
今後、さらに規制が厳しくなる可能性の高い喫煙問題。オフィス環境整備の担当者の方々は、ぜひお早めに対策を検討されてみてはいかがでしょうか。
(文・@人事編集部)
※内容は2018年7月13日時点のものです。
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