失業経験アリ人事コンサルによる直球コラム
新卒採用予定者の内定取り消しについて、知っておくべき4つのケース
2018.06.22
やむを得ない理由で、企業側が内定を取り消したい場合の対処法
学生の就職活動も中盤戦を迎え、そろそろ内定が出ている学生も多く見かけられるようになりました。昨年は「てるみくらぶ」をはじめ、企業業績悪化による半ば強引な内定取り消しがニュースになりましたが、大抵の企業では面接・内定出しという流れで順調に採用活動が進んでいることと思います。
人事担当者としては順調に4月の入社日を迎えさせたいところですが、採用活動をしていく中では、どうしても内定を取り消したい、取り消さざるを得ないというケースもあるかと思います。今回は企業側都合ではなく、内定者側に責任がある(と考えられる)4つのケースについて、どのように内定取り消しを進めていくべきか、ご紹介します。
そもそも「内定」とは?
そもそも内定とは、法律上は「解約権留保付労働契約」が成立した状態と言えます。漢字の羅列でなかなか意味が取りづらいこの言葉ですが、「解約権留保付」というのは、一定の事由が生じたときに、雇用者が契約を解約できることを意味します。そのため、合理的な理由があれば、この「留保された解約権」を行使し、内定を取り消すことができます。
1.留年などにより、学校の未卒業が確定した場合
まずは、毎年数人は可能性がある「留年」による内定取り消しのケースについてです。新卒採用の場合、企業側は「○○年3月卒業見込」を応募資格に採用活動をしています。ですから、この前提を満たさなかった学生への内定取り消しは、「合理的な理由」があるとされ、原則認められると考えられます。
そして残念ながら、内定者の留年が確定した際は、かわいそうだから、優秀だからといった理由で、無条件で入社させるべきではないでしょう。なぜなら、応募者はそもそも「大卒者」という枠で新卒採用に応募しているからです。留年が決定した時点で、来年度の4月にその人物には大卒資格がありません。他の卒業した内定者との公平性を担保するためにも、無条件で入社を認めるべきではないと言えます。
内定者が留年した場合の3つの対策
この際、具体的に考えられる対策は次の3つです。
一つ目は、シンプルに内定を取り消しするという対処です。前述の通り、「留年」は留保された解約権を行使する「合理的な理由」と考えられるため、この処置はまず問題なく実施することができます。
二つ目は、大学卒業までアルバイト等で臨時勤務させて、卒業と同時に正社員雇用とするケースです。優秀な人材である場合には有効な対策です。この際、「再留年した場合」や「会社都合」によっては、アルバイトからの登用をしない場合もあるという念書は取っておくべきでしょう。
三つ目は、大学卒業まで内定を保留するケースです。二つ目のケースと似ていますが、企業側としては、留年した内定者が卒業するまで自社で働かせる義務はないため、こうした対応も可能です。
二つ目、三つ目の措置については、どうしても獲得しておきたい人材の場合のみの特例と考えた方が良いでしょう。次年度にさらに優秀な学生が現れる可能性は多いにありますし、一年後に何人の人材が採用できるかも、会社の業績に影響を受けるため、明確に分かるものではないからです。
2.履歴書等提出書類に虚偽の記載があった場合
中途採用に比べ、職歴詐称などの可能性は少ないと思われる新卒採用ですが、詐称する学生は存在します。卒業予定大学そのものを詐称するケースはほとんどありませんが、学部を詐称したり、二部(夜間)を一部と誤認させたりする学歴詐称のケースは少数ながら実在し、注意が必要です。卒業見込み証明書等の証明書類提出は受けたものの、まさかそこに問題があるとは思わず、わざわざ封を開けて調べない人事担当者は多いようです。
特に注意したいのが、エントリーシートなどで記載された内容の虚偽です。例えば「○○ゼミ所属となっていたが、所属していなかった」「サークルの副部長となっていたが、その事実はなかった」などのケースです。
この場合大切になるのは、履歴書やエントリーシートに書かれた虚偽内容が、従業員として不適格といえるほど重大なものかという点です。日立製作所事件(昭和49.6.19 横浜地裁)の判決では、内定を取り消す際には、「単に虚偽記入であるということだけでは十分ではなく、その内容・程度が重大なもので、それによって従業員として不適格等が判明することが必要」とされています。
軽微な詐称も、内定取り消しの対象に
学歴や所属ゼミナール等の詐称については、採用担当者が「その事実を知っていれば採用することはなかった」と思うだけの重大性があると判断でき、内定取り消しの合理的な理由となる可能性が高いでしょう。ただ、サークルなどの私的団体での肩書の詐称が、「従業員として不適格」と言えるほどの重大性があるかといえば、これはかなり微妙なところです。
しかしながら、企業側にとってみれば、「履歴書やエントリーシートに虚偽を記載するような人物は入社させたくない」と思うのも無理はないでしょう。
この場合の対策は、学生と一度面談し、虚偽記載について確認した上で、内定辞退を示唆するというのが現実的な対応です。会社側が虚偽記載を把握していることを伝えた上で、「このままでは入社しても将来はあまり芳しいとはいえない」などの表現で、辞退を促していくことが無難です。
それでも学生が辞退しない場合は、「採用選考基準に達していないことが判明した」といった理由で、内定取り消しを検討するのが良いでしょう。
3.内定者の健康状態が悪化した場合
内定者の中には、不運にも健康状態が入社前に悪化するケースもでてくることがあります。とても通常勤務には耐えられないケースの重篤な病や、軽微な病などさまざまなケースがありますが、通常勤務に耐えられない病の場合には、残念ながら内定取り消しをするべきでしょう。
その際は、「体調が回復したときには、ぜひまた応募してほしい」との意向を学生に伝えしましょう。軽微な病のケースは、入社日までに完治することなどを条件に内定継続の方策をとるべきでしょう。
ここで在宅勤務や短時間勤務等で採用することもできますが、新卒時からの特別扱いは他の内定者との平等性を損なう場合があり、アルバイトなどの契約形態をとることが賢明です。
4.内定者の不祥事が発覚した場合
近年、かなり増えているのが内定者の不祥事です。刑事事件などを起こした場合は、まず間違いなく「留保された解約権」を行使する合理的な理由となるため、即座に内定取り消しをすべきでしょう。入社前から問題を起こす内定者から、企業が悪い影響を受ける可能性は高いと言えます。
難しいのは、刑事事件相当ではないものの、忌避すべき人物と判明した場合です。具体的には、SNS等の発言で、会社にふさわしくない、かなり言動に問題がある人物であると判明した場合などです。
内定までは真面目で実直な態度を取りながら、内定後に馬脚をあらわす人物については、やはり会社にとってマイナスの影響を与える可能性が高いと言えます。会社組織に不適当と考えられる発言をSNS上で行ったりした場合は、軽微な経歴詐称の場合と同様、内定辞退をこちらから促す対応が現実的でしょう。
冒頭でご説明した通り、内定は「解約権留保付労働契約」であり、入社後に較べ、契約の解除が簡単です。いざ入社させてしまったら、解雇を行うのは容易ではありません。問題は芽のうち摘むという対応も、時には必要になります。
誓約書には、内定取り消しになりうる具体例を明記
内定取り消しに関わる事項について、企業が特に気を付けたいのは、内定は、「内定通知書を学生に交付して、それで終わり」ではないということです。内定もあくまで契約の一つであり、相互に承諾が必要な事項ですから、一方的に会社が内定を証明した書類を出すことは、自らの首を絞めてしまうことがあります。
内定後に学生が問題を起こす可能性は、残念ながらゼロではありません。そこで重要なのは、内定者からも内定受諾に関する誓約書を取ることです。よく「内定を辞退しない」という内容だけ記載された誓約書を求める企業も多数ですが、これでは不十分といえます。
内定受諾に関する誓約書は、「内定取り消しはこのような場合に行います」という事項を明確に綿密に記載しておくべきです。そこに今回紹介したような「学業未卒業」「虚偽記載」「健康状態の悪化」「不祥事」などの具体例を記載すれば、学生側に問題があった場合の内定取り消しは、より問題なく実施することが可能になります。あくまで卒業から入社前日までは、「予定」であることを明確にして、内定者との不毛な争いは避けられるようにしましょう。
企業の人事担当者は、売り手市場だからといってむやみに内定を乱発することなく、新卒採用についても、「募集は大胆に、内定は細心の注意を払って」という精神で臨むべきでしょう。そのような採用活動を行うことにより、入社後に「こんなはずでは」と思うケースは確実に減らしていけるはずです。
執筆者紹介
田中 顕(たなか・けん)(人事コンサルタント) 大学を卒業後、医療系人材派遣会社・広告代理店で人事を担当したのち、密着型人事コンサルティング団体「人事総合研究所」を設立。代表兼主任研究員として、労務相談受付・課題解決に取り組む。得意分野は採用・法務・労務・人事全般の問題解決等、多岐にわたる。
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