障がい者雇用が会社を強くする CASE1 リクルートスタッフィング
丁寧なコミュニケーションで障がい者の活躍をサポート-リクルートスタッフィング
2018.07.09
これまで障がい者雇用は、法律により課せられた義務として、後ろ向きに捉えられることが少なくありませんでした。しかし障がい者雇用に積極的に取り組むリーディングカンパニーからは、「障がい者の採用がきっかけとなり、社内にもポジティブな変化が起きた」という声が聞こえてきます。
株式会社リクルートスタッフィングも、企業成長戦略の一環として障がい者雇用に取り組んできた企業の1つです。2015年に設置した業務サポートセンターには、現在90名近くの精神障がい者が契約社員として在籍しています。
障がい者雇用を会社の成長につなげるために、同社ではどんな工夫を行ってきたのでしょうか? 障がい者支援事業に取り組む、2人の担当社員にお話を伺いました。
【参考】人事担当者が知っておきたい「障害者雇用」の基礎知識と企業事例~障がい者雇用の対象者・企業、雇用率、メリットから最新の助成金まで~
業務サポートセンターで働いた経験を活かし、転職活動を支援
初めに、業務サポートセンターでマネジャーを務める笹木亨さんに、障がい者の方が働きやすい職場づくりのポイントを聞きました。
―業務サポートセンターとはどんな部署ですか?
全社の事務処理対応を行っている部署です。具体的には、名刺や取引先情報の登録といった営業サポート業務や、源泉徴収票などの各種証明書を発行する人事まわりの手続きなどを行っています。
2018年5月現在で、部署全体の人数は97人。精神的な障がいをもつメンバーが88人、メンバーの相談役となる業務リーダー職が6人、リーダー育成などを行う統括リーダー職が2人、全体のマネジメントを行うセンター長が1人です。
特徴的なのは、メンバーである障がい者の方々の契約期間が最長15カ月であること。この間、弊社の社員として担当業務に取り組みながら、入社13カ月目からは転職活動も行います。弊社では「アビリティスタッフィング」という障がい者の方に就職先を斡旋する事業を行っているため、そちらのチームと連携しながら、転職に向けたサポートを実施。最終的には、一人ひとりが自身の特性を活かせる企業に就職することを目指しています。
―転職に向けたサポートとは、具体的にはどんなものですか?
まずは、弊社で働く中で得た経験やスキルを、面接でどうアピールするかを一緒に考えていくことです。私たちの部署では、毎月「評価」を行っています。これは、勤怠の実績やリーダーの評価を本人に伝えたり、その評価と自己評価の差について確認したりするもの。また転職活動を始める前には、改めてこれまでの「評価」を振り返る「評価面談」を行い、その方の強みや個性について考えています。
この他にも、今後どんなふうに働きたいかという希望を明確にする「就活準備面談」や、アビリティスタッフィングのサービスを利用される場合には具体的な求人情報のご紹介も行っています。
業務サポートセンターを設置したことで、会社全体の業務が効率化
―貴社にとって業務サポートセンターを設置するメリットは何ですか?
業務サポートセンターは、単に障がい者雇用を促進するための部署でも、障がい者の方にスキルや経験を得てもらうだけの部署でもありません。全社的な業務効率化のために必要な部署です。
作業自体は簡単だけれど絶対に必要な事務処理業務というのは、どの部署にでもあるもの。弊社は非常に多くの方とパートナーシップをもつ人材派遣会社ですので、こうした事務処理の量も膨大になります。これを業務サポートセンターが担当することで、各部署のマンパワーに余力ができる。その結果、各部署がより専門的な業務に取り組めるんです。
また、仕事の一部を業務サポートセンターに任せることで、現在の業務を見直すきっかけができるのもメリットです。今自分たちがどんな業務を抱えていて、どれだけの時間を使っているのか。業務全体の中で、他部署に移管できる仕事はどれで、自分たちがやるべきことは何なのか。そういったことを整理しないと、仕事を任せることはできません。そうした作業の中で、おのずと無駄や改善点が見えてきます。
弊社は一般企業ですので、障がい者の方を支援する目的だけでなく、全社的な業務効率化も視野に入れ、業務サポートセンターを設立しています。
体調への配慮と丁寧なコミュニケーションが、働きやすい職場のポイント
―障がい者の方とスムーズに業務を進めるためのポイントはありますか?
実務的なことでいうと、口頭だけの曖昧な指示で終わらせず、きちんとマニュアルを用意することが大切です。仕事についてはきちんとフィードバックを行うこと。ミスがあればきちんと指摘し、できたことは評価して、本人の自信を育てるよう努めています。あとは、困ったときに頼る先、相談役を明確にすることも必要です。
それから、やはり体調面に配慮することは必要だと思います。例えば、医師との連携が挙げられます。弊社では、通院報告メールという制度を用意。これは名前のとおり、診断の内容や服薬変更の有無などといった通院の結果を報告してもらうものです。一人ひとりの体調がどんな状態なのか、なるべく細かく把握するよう努めています。
また、普段の勤務の様子や医師からアドバイスをいただきたいことなどを記した書面を用意して、通院時にメンバーにもたせることもあります。障がい者の方々は、体調が悪いときほど自分のことをうまく伝えられないものなんです。そこをサポートしてあげれば、医師からより具体的なアドバイスを受けられるようになって、結果的に体調も安定しやすくなる。そうすれば、より自立して業務に取り組んでもらうことができます。
―コミュニケーションを重視されているんですね。
精神障がい者の中には、自分の体調や仕事の状況、考えなどをうまく発信できない方も多いんです。企業側がコミュニケーションを密に取るよう工夫してあげることはとても重要です。
弊社では、先にお話しした定期的な面談や通院報告メールの他に、日報でもコミュニケーションを取っています。メンバーが日報を書き、リーダーがコメントを記入して返すというもの。メンバーからすれば業務時間には言えなかったこともあると思いますし、リーダーも日中の時間だけで一人ひとりの様子を細かに見られるわけではありません。そうした点を日報のやりとりでカバーしています。
定着率を上げるには、段階的にステップアップできる環境をつくること
―今後、障がい者雇用に取り組む企業にアドバイスをお願いします。
障がい者の方を雇用するときに、一番懸念されるのが「定着してくれるだろうか」ということではないでしょうか? そこで私たちがご提案したいのが、徐々にステップアップできる環境を整えることです。
例えば、初めから1年間の契約を結ぶのではなく、ご本人の希望に応じて、1度目の契約は1カ月間、2度目の契約は3カ月間、それで問題がなければ長期の契約を結ぶという形です。勤務日数や勤務時間も同じで、いきなり週5日働くのではなく、週3日や4日でしばらく様子を見て、最終的に週5日を目指すと良いと思います。
これはつまり、お互いのマッチングを見極める期間を設けるということです。障がい者の方からすればプレッシャーが軽くなりますし、企業側としても、ステップを踏むことで安定した雇用をつくっていけるはずです。少しずつ、でも着実に関係を築いていく意識を持つことが重要です。
就職先の紹介と就業後のフォローで、障がい者の活躍をサポート
続けて話を伺ったのは、笹木さんの話にも登場したアビリティスタッフィンググループのマネジャー、樋口潤さん。数多くの障がい者と企業を結びつけてきた経験から、障がい者が働きやすい会社の特徴を教えていただきました。
―アビリティスタッフィングとはどんなサービスですか?
障がい者の方を対象に、就職先の紹介や就業後のフォローを行うサービスです。どの過程においても、常に職場定着を意識しています。
就職先の紹介にあたっては、本人の希望を詳しく聞くだけでなく、体調や適性などを考慮して、本当にその方に合った働き方を提案します。無理をしすぎることも、その逆にスキルが発揮できないこともないようにしています。
就職が決まった後もサポートは続きます。精神保健福祉士や保健師といった障がいに関する専門家と、人材派遣のプロとして現場を知りつくした弊社のスタッフとがタッグを組み、毎月1回の面談を実施。体調の確認はもちろん、企業から伺った業務上の評価、フィードバックなどを伝えます。
あとは、企業側へも働きかけていますね。障がい者の方の入社が決まったら、配属先の部署の方々に、障がいの基礎知識などの説明を行っています。「ランチや飲み会に誘ってもいいの?」といった、同僚としての付き合い方もレクチャーしています。
採用の有無に関係なく、人事の方へ向けたオープンセミナーも行っています。障がい者雇用について多くの方に理解を深めていただくための啓発活動ですね。
コミュニケーションが活発な職場ほど、障がい者の方も働きやすい
―障がい者の方が働きやすい企業の特徴とはどんなものでしょうか?
障がい者の方が定着する企業に共通するのは、やはりコミュニケーションが活発であることだと思います。そういう企業に訪問させていただくと、本当に職場の風通しがいい。障がい者、健常者に関係なく、働きやすいだろうなと思わせる雰囲気があります。
精神障がい者の方と働く上では、不安なことや聞きたいことがあるという前提で、こまめに声をかけることが重要です。実は、企業側が障がい者の方に気を遣うあまり、うまく仕事を渡せていないケースが多いんです。無理をさせてはいけないという思いやりが背景にあるんですが、障がい者の方は「自分がここにいる意味はあるのだろうか」と不安になってしまいます。しっかりコミュニケーションを取って、お互いのことを理解し合えば、こうしたトラブルは回避できるはずです。
相手のことをよく知り、その人に合わせたマネジメントを行う。そうした意識が大切だと思います。
株式会社リクルートスタッフィング
リクルートグループの人材派遣会社。1987年、株式会社リクルート人材センター・シーズ事業部より独立し、株式会社シーズスタッフを設立。1999年、株式会社リクルートスタッフィングに社名変更。障がい者向け人材紹介事業「アビリティスタッフィング」を展開する。
【障がい者雇用の成功事例に関する記事はこちら】
- 障がい者雇用が会社を強くする CASE1 リクルートスタッフィング
- 障がい者雇用が会社を強くする CASE2 グリービジネスオペレーションズ
- 活力を生み出すダイバーシティ(障がい者雇用編)【第1回】ダイキンサンライズ摂津
【障害者雇用に関する法律の記事はこちら】
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