障がい者雇用が会社を強くする CASE2 グリービジネスオペレーションズ
障がい者を特別扱いせずに、活躍できる職場をつくる方法
2018.07.11
これまで障がい者雇用は、法律により課せられた義務として、後ろ向きに捉えられることが少なくありませんでした。しかし障がい者雇用に積極的に取り組むリーディングカンパニーからは、「障がい者の採用がきっかけとなり、社内にもポジティブな変化が起きた」という声が聞こえてきます。
グリー株式会社の特例子会社であるグリービジネスオペレーションズ株式会社も、障がい者雇用をグループの成長につなげた成功企業の1つです。現在42名の障がい者手帳保有者が在籍しており、うち40名は精神・発達障がいを抱えています。
同社の経営企画室で副室長を務める竹内さんに、障がい者が働きやすい環境をつくるノウハウや、障がい者を特別扱いせずに企業の成長に貢献してもらうためのアイデアをお聞きしました。
【参考】人事担当者が知っておきたい「障害者雇用」の基礎知識と企業事例~障がい者雇用の対象者・企業、雇用率、メリットから最新の助成金まで~
障がい者雇用のためだけの仕事ではなく、会社の成長につながる業務に取り組む
―貴社の事業内容について教えてください。
グループ各社のさまざまな部門から依頼を受けて業務を行っています。管理部門から依頼されるデータ入力や書類発送などの事務業務から、事業部門から依頼されるゲームの品質管理や画像処理まで、幅広い業務があります。2012年の設立から現在に至るまで、一貫して親会社の事業に貢献できる企業になることをミッションとして、さまざまな取り組みを行ってきました。そのため、障がい者雇用のためだけに新たな仕事をつくることは一切していません。すべての業務が、親会社の事業の継続や成長につながる重要な役割を担っています。
一般的には「障がい者の方の仕事=軽作業」と思われがちですが、決してそれだけではありません。例えばゲームのバグチェックでは、決まったテストケースだけを試すのではなく、自分たちで模索しながらさまざまな方法でテストすることもあります。また、依頼元の本社の社員とやりとりしながら、1週間ほどかけて修正する大がかりなものもあります。依頼元のプロジェクトに密に関わりながら業務を行っています。
このように弊社は、障がい者雇用のためだけではなく、親会社の「インターネットを通じて、世界をより良くする。」というミッションに寄与する子会社として存在しています。親会社のサービスを通じて私たちも社会に参加し、貢献できるという考え方ですね。
―大企業の見学や、各方面からの講演依頼が増えてきているようですね。
日本全国を見ても、1つの事業所でこれだけ多くの精神・発達障がいを抱える社員が一緒に働いている企業は珍しいですからね。見学にお越しいただく企業の多くは、身体や知的障がいのある方の雇用には随分前から取り組まれています。しかし、これからは精神・発達障がいをもった方々の雇用に力を入れていきたいということで、見学と情報交換にお越しいただいています。私たちもこうした交流の中で学ばせていただき、共に成長し、一緒によりよい社会を築いていければと思っています。
講演活動では、障がいを抱えるお子さんを持つ保護者のコミュニティーや、就労移行支援事業所、小学校をはじめとした教育機関などにお伺いすることもあります。障がい者の方々を雇用する企業の考え方や、一緒に働いていくために行っている工夫などをご説明することが多いです。
障がい者が働きやすい環境をつくるアイデア
―障がい者の方が安心して働けるように、具体的にどんな工夫をしていますか?
環境面でいうと、まず壁の1つを全面ホワイトボード化しています。発達障がいの方の中には目で情報を理解することが得意、つまり視覚優位の方が多いため、ホワイトボードを使って目に見える形で情報を共有することで、仕事をスムーズに進めやすくなります。また、最近はパソコンの共有ファイルで代用することも多くなってきており、人の特性に合わせて使い分けることができるようになっています。
不得手な部分をカバーするという意味では、マルチディスプレイの導入も挙げられます。発達障がいの方はワーキングメモリー(作業記憶)が不足しがちな方も多いので、例えばデータ入力の際も、資料の内容を覚えて入力するやり方では非効率的でミスが起こりやすくなってしまいます。当社では1つの画面で資料やマニュアルを常に表示して、もう1つの画面で入力作業をするという形をとることもできます。
デスクトップパーテーションや作業集中スペース、ハイカウンターも用意しています。パーテーションは、パーソナルスペースをつくって安心して業務に集中できるようにするため。作業集中スペースは、自席での作業がはかどらないときに環境を変えられるようにするため。ハイカウンターは、特に多動傾向のある社員が、長時間座って作業することが精神的な負担になったときのために設置しました。あとは、どうしても気持ちが落ち着かないときに一人になれるリラックスルームなども用意しています。
環境を整えるには、費用やスペースが必要ですから、これらすべてを導入しなければならないわけではありません。少人数を採用するのであれば、いらないものもあります。一緒に働く障がい者の方の希望に耳を傾け、無理のない範囲で配慮することも大事かと思います。
面談や社内研修で、コミュニケーションの時間を増やす
―面談などの制度面ではいかがでしょうか?
3カ月に1度、代表が全社員に対して30分程度の1on1面談(個別面談)を行っています。社員からすれば、直接自分の会社のトップと話すことができるため、会社の方針や考え方への理解を深めるきっかけになります。会社としては、社長が現場の声を直接聞くことで、施策導入などに関する意思決定をスピーディーにできることがメリットとして挙げられます。実際にデスクトップパーテーションや集中スペースなどのオフィス設備は、社員の希望を聞いた代表が、その場で判断して導入を進めました。
その他に、私のような管理側のスタッフによるカウンセリングも実施しています。弊社では、管理スタッフは全員「障害者職業生活相談員」と「職場適応援助者」の資格を取得しています。障がいに関する知識を積極的に身に付けることで、社員がより働きやすい環境をつくっていきたいと考えています。
面談以外では、社員同士の交流を深めるためにブレイクスルータイム制度を導入しています。定時以降のオフィスを一定時間開放し、希望者がゲーム大会や勉強会などを開催して親睦を深めるんです。その他に、会社が飲食費を補助するチームビルディング支援制度などもあります。
―研修はどのように行っていますか?
社内で完結する研修やeラーニングがありますが、親会社であるグリーの社員が講師を務めることもあります。コミュニケーション研修や知的財産に関する研修は親会社の人事担当者や法務担当者をオフィスに呼んで行いました。
また画像加工についての研修を実施した際には、親会社の事業部門で活躍するイラストレーターを呼びました。画像加工ソフトの使い方やノウハウなどを学び、それが事業につながったこともあります。弊社の社員にとっては知識やスキルを身に付ける機会となり、親会社の社員にとっては障がいに対する理解を深め、仕事の依頼もしやすくなるメリットがあります。
個人の適性や意欲を見極め、障がい者を特別扱いしない
―これから障がい者雇用に取り組む企業へアドバイスをお願いします。
まずお伝えしたいのは、障がい者だからといって、仕事を限定しない方がよいということです。障がい者の方を気遣って特定の仕事を与え続けるケースもあるようですが、実際に一緒に働くと、彼らはさまざまな仕事をやってみたいと思う社員がたくさんいることに気付きます。入社してすぐは、障がい上の特性から希望する配慮として「シングルタスク」を挙げてくる社員が多いのですが、数か月もするとほとんどの方がいろいろな業務を担当することを希望してきます。最終的には、30〜40のタスクを同時並行して行うケースもあります。
その人に合わせた一定の配慮が必要ではありますが、障がいという括りに縛られずに、個人の能力や適性、意欲にしっかり目を向けてあげることが重要です。
また、健常者の社員と同じように、成長や成果を求めることも大切です。障がいの有無にかかわらず、社員である以上、その会社に貢献すべきであることに変わりはありません。実際に弊社の社員にも、障がい者手帳の持たない社員と同じように成長や成果を求め、1つの目標を達成したらそれ以上を目指してもらっています。
環境の整備や精神的なフォローはするけれど、何でもかんでも特別扱いはしない。それが、障がいを持つ方にとっても、企業にとっても必要なことだと思います。
グリービジネスオペレーションズ株式会社
2012年に設立されたグリー株式会社の特例子会社。「障がい者が自身の能力を最大限に発揮し、仕事を通じて自律的に成長し続けられる会社を創る」を企業ビションに掲げる。2016年、「平成28年度障害者雇用職場改善好事例優秀賞」を受賞。
【障がい者雇用の成功事例に関する記事はこちら】
- 障がい者雇用が会社を強くする CASE1 リクルートスタッフィング
- 障がい者雇用が会社を強くする CASE1 グリービジネスオペレーションズ
- 活力を生み出すダイバーシティ(障がい者雇用編)【第1回】ダイキンサンライズ摂津
【障害者雇用に関する法律の記事はこちら】
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