社員研修総点検
能力開発、リーダー育成…時系列で振り返る、日本企業と研修の歴史
2018.06.17
少子高齢化による人材不足やグローバル化など、国内外の環境の変化により、日本企業ではますます研修の重要性が増してきている。日本企業ではこれまでも、大きく変化する環境の中で、時代に応じた研修を行ってきた。
今回は、高度経済成長から現在までの日本企業の環境と研修を振り返り、これからの世界で求められる研修の手がかりを探る。
1950~1969年:技能教育から能力開発へ
1950年代は、戦後復興の流れを受け、市場が拡大していく時代だった。この時代には、豊富な労働力を全体的に底上げする、基礎知識の習得(技能教育)を中心にした人材育成が行われるようになる。
そして、1960年代には、徐々に「量から質へ」という価値観が表面化し、従来の技能教育から、「能力開発」を目的とした研修が増えていった。手法としては、ブレイン・ストーミングやKJ法などが登場。「部・課」という単位で立案・実施していた教育計画が、「新入社員教育」「管理者教育」といった、人事制度における職能の進展と連動して行われるようになっていった。
1970~1989年:女性、新入社員教育としての研修ニーズが高まる
第一次石油危機(1973年)で日本経済は混乱し、翌年には、戦後初めてのマイナス成長を経験。「省エネ・省資源」が叫ばれるようになったことで、企業は減量経営※、ME(マイクロエレクトロニクス)の導入、OA化(事務の機械化)を進めるなど、経営のスリム化に努めるようになった。
※不況や低成長など経営環境の悪化に対応して、企業体質の軽量化を図ること。経費削減の他、正規従業員の削減、非正規従業員の動員、赤字部門の切り捨てなどが行われる。
組織のスリム化でポストから外される中高年者(いわゆる窓際族)が続出し、この問題を解決するために、ポストの有無とは無関係に能力で昇格機会を与える「職能資格制度」が多くの企業で採用されるようになった。それにより、社内の中高年を含めた全社員が受けることのできる「階層別研修」が広く導入されるようになる。
また、1986年の「男女雇用機会等法」の施行を契機に、女性労働者を中心に、ホワイトカラー人材の職業能力の開発にも多くの関心が寄せられ、CDP(Career Development Program)に基づく、計画的かつ体系的な人材育成のあり方が強く認識されるようになった。
1986年~1991年の「バブル景気」の頃には、日本企業の若年層人材の不足感から、新卒大量採用が行われている(いわゆるバブル入社組)。
1990~2003年:雇用慣行の変革で研修のあり方にも変化が
バブル経済の崩壊により、多くの企業が経営のさらなる効率化を迫られたのが1990年代だ。日本企業は競争に打ち勝つため、日本特有の雇用慣行である「終身雇用」「年功序列」を否定し、リストラを断行するようになる。そして、この時期には「成果主義的人事制度」を導入する企業が増えた。
成果主義的人事制度の影響を受け、全社的なレベルアップを図る従来の企業内教育の抜本的見直しを行い、個人の責任に基づく「自己選択型研修」や将来の経営幹部を早期に育成する「コア人材育成研修」、CDP をベースにした「キャリア開発」などが中心に行われるようになった。
また、インターネットなどIT技術が進歩した結果、より人員や組織の合理化が進み、ITリテラシーの必要性も増した。
2004~2017年:一人ひとりの戦力化が命題に
2000年代には、ITバブルや小泉構造改革、米国の堅調な消費により、緩やかな景気回復がはじまる。同時に、国際的な企業間競争が激化し、生産拠点や資材調達先の海外移転が一層進むなど、グローバル化が一段と加速した。
こういった社会情勢から、日本企業でも「グローバル人材の育成」が経営上の課題として重視されるようになっていく。2000年代前半には、アメリカの先進的企業の動向にならい、リーダー育成の取り組みを体系的に確立していくため、「企業内大学」を設立する日本企業が増加。この企業内大学には「次世代リーダー育成」と「経営理念伝承の推進装置」という2つの機能が期待されている。
また、国内では少子高齢化による人手不足も顕在化。好景気を知らない「ゆとり世代」の若者も社会人となって労働市場に加わり始め、働き手の「価値観の多様化」が進んだ。
2012年以降は、政府による「一億総活躍社会」の推進、外国人労働者の増加といった背景から、多様な価値観を持つ社員と効果的に協働していくための「ダイバーシティ研修」の需要も増加している。加えて、「失われた15年」で新卒採用が抑制された結果、後輩や部下を育てる経験の乏しい中堅社員や管理職が増えており、OJT(On -the-Job Training)は、かつてほど上手く機能しなくなっている傾向がある。
少子高齢化による人手不足も顕在化し、人材が貴重となっていることから、一人ひとりの社員を戦力化する「研修」の重要性はますます増していると言えるのではないだろうか。
将来を見据えた経営戦略がやるべき研修を明確にする
研修の歴史を振り返って見えてくるのは、企業に求められる研修が、時代背景とその当時の人事評価制度に大きな影響を受けるということだ。これからの時代にむけて自社がどうあるべきかを見据え、そのためにはどのような人材が必要で、育成するためにはどのような研修が必要であるべきか。この点をしっかり踏まえた上で、自社に最適な研修を実施できるようにしたい。
もし、自社の研修が何年も変わっておらず、実施理由が「去年もやっていたから」「前任者がやっていたから」というものであれば、時代に取り残されてしまうだろう。
(文:@人事編集部)
※この記事は「@人事」10号内の特集記事「日本企業と研修の歴史」を編集・改稿したものです。
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