コラム

残業ゼロを目指して


仕事の先送りの防止策は? 「プリコミットメント」で自分の行動を管理

2018.06.27

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残業ゼロを実現するためのビジネスハック術を紹介する、作家・佐々木正悟氏の連載企画。今回は、「双曲割引」という心理現象から、仕事を先延ばしにしてしまう原因と、その対処法について解説していきます。

「双曲割引」と、先送りが発生してしまう心理

私たちは、「長い目で見れば損だ」ということがわかっている行為を、いとも簡単に行ってしまうものです。老後に備えて貯蓄しておく必要は知っていても、目の前の魅力的なものを買ってしまいますし、夏に備えてダイエットしようとしていても、目の前のチョコドーナツは食べてしまいます。

行動経済学では、人間がこうした行為を取ってしまう理由を「双曲割引」という用語で説明しています。

双曲割引とは、一言でいえば「今日と明日の違いは、明日と明後日の違いよりも大きい」という、人間の行動に関する理論です。

例えば、「『1年後に1万円をもらう』か、『1年と1日後に1万200円をもらう』か、どちらかを選んでください」と言われれば、多くの方は後者を選びます。しかし、「1日後に8000円もらうか、1年後に1万円を選ぶか、どちらかを選んでください」と言われた場合、多くの人は前者を選んでしまうのです。

遠い将来の価値の差については冷静に判断できる人も、目の前の価値については冷静に判断できなくなり、価値を大きく「割引」してしまいます。遠い将来の魅力というのものは、それだけ色あせてしまいがちなのです。

遠い将来よりも、目の前にある価値を優先

これと同様に、遠い将来の「苦痛」というものも、色あせてしまいがちです。

ランニングや筋トレをするときのことを考えると、このことはすぐにわかります。「今日の仕事帰り、今すぐランニングをはじめましょう!」といわれても、たいていの人はできません。走ることが将来的にどんなに健康にいいと思っていても、今日という日は家でゆっくりすることを選んでしまうのです。

同じような心理で、人は仕事を先送りにしてしまいます。「やりたくない仕事を終わらせる」という目の前の苦痛を避け、終わらせる日を先送りにするのです。もちろん、終わらせる日を先送りにすればするほど、仕事を終わらせる際の「苦痛」は大きくなりますが、私たちは、そうした「遠い将来」の苦痛に対しては、驚くほど鈍感です。

とんでもない苦痛だと思う前に、やることをセットする

レックス・スタウトの著作”Three at Wolfe’s Door” (1960)に収録されている短編「The Rodeo Murder (ロデオ殺人事件)」には、こんな下りがあります。


the trouble with an alarm clock is that what seems sensible when you set it seems absurd when it goes off.  (目覚まし時計がやっかいなのは、セットしたときにはこの時刻でいいと思っても、鳴り出したときにはとんでもない時刻だと感じることだ)

“Three at Wolfe’s Door(Nero Wolfe)”  p.176-177

先の苦痛は大したことがない。私たちはそう思っています。しかしその苦痛も、いざ目の前に迫ってきてみると、とんでもないものだと感じるのです。

しかし、この心理を逆に利用すれば、確実にタスクを終わらせる仕事術が見えてきます。つまり、「とんでもない」苦痛だと思う前に、将来の行動を明確に決めてしまえばよいのです

先送りを防止するためのテクニック「プリコミットメント」

プリコミットメント」というテクニックがあります。これは、自分が将来強い欲求に襲われることを事前に予測して、自らを拘束することを指します。一言で言えば、「後になっても、気が変わることを許さないための仕掛け」です。

たとえば、多くの方が利用したことがあるかと思いますが、目覚まし時計のスヌーズ機能というのは一種の「先送り」の手段です。最近では、この先送りを防止するため、走り出してしまう目覚まし時計なども販売されています。これは、強力なプリコミットメントの装置と言えるでしょう。

他には、クレジットカードも、「先送り」によって目の前の消費を促す仕組みです。この「消費」という欲求を抑えるために、映画「お買いもの中毒な私」では、クレジットカードを文字通り「凍らせる」というなかなか究極的な「プリコミットメント」の手段が出てきます。

タスクを先送りにしないためには、この「プリコミットメント」を仕事に対しても行えばいいのです。

仕事が「遠い将来」であるうちにプリコミットメントしてしまう

最もポピュラーな「プリコミットメント」の手段は、「ToDoリスト」でしょう。自分のやるべきことを、将来のある時期までに実施するよう、自分に課します。将来気が変わる前に、事前に約束を取り付けて縛ってしまうのです。

しかし、自分に課すだけでは、朝、寝床で何度も「スヌーズ」機能を使ってしまうように、先送りにしてしまう可能性が残ります。確実に仕事を進めるためには、この「ToDoリスト」を他の誰かと共有し、自分が先送りしないことを誰かに見守らせるのが良いでしょう。

他の方に仕事を依頼する際にも、その仕事が「遠い将来」であるうちに依頼すれば、仕事を受けてもらえる可能性は飛躍的に上がります。もちろん全て許諾してもらえるとは限りませんが、「未来の苦痛は色あせて見える」ので、やはり頼み事はなるべく早めにしておくに越したことはありません。

難しい頼み事ほど慎重になって、あれこれとメールの文面を練ったりして時間を費やしてしまう人がいます。それは一種の「先送り」の心理なのです。仕事が「遠い将来」のうちに、プリコミットメントのテクニックを使って「仕事を終わらせる」という未来を固め、タスクを確実に終わらせる環境を作っていきましょう。

執筆者紹介

佐々木正悟(ささき・しょうご) 心理学ジャーナリスト。「ハック」ブームの仕掛け人の一人。1973年北海道生まれ。「効率化」と「心理学」を掛け合わせた「ライフハック心理学」を探求。執筆や講演を行う。著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほか『先送りせずにすぐやる人に変わる方法』(中経出版)『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などがある。ブログ:佐々木正悟のメンタルハック

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