コラム

社員に選ばれる会社の人事制度・人材開発


人材確保のための退職金制度:確定拠出年金の概要とメリット

2018.06.26

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さまざまな取り組みを通じて「社員に選ばれる会社」を作るポイントを解説する、人事のプロ・永見昌彦氏の連載企画。今回は、「退職金制度」について解説します。

目次
  1. 近年の退職金の主流は「確定拠出年金」
  2. 個人型と企業型
  3. 企業型における掛金の決め方
  4. 確定拠出年金制度の3つのメリット

近年の退職金の主流は「確定拠出年金」

退職金制度は法律で設置が義務づけられているものではありませんが、退職金制度を一度設置したら、会社の経営状況に関係なく退職金を支払う義務が発生します。退職金制度そのものを設けるかどうか、また退職金をどのくらいの金額とするのかということは会社によって自由に定めることができます。

現在、大企業では90%以上、中小企業でも80%程度が何らかの退職金制度を設けており、退職金制度を設置あるいは拡張することは、人材確保のための一つの施策としてとらえることができます。退職金には、具体的には以下のような種類があります。

1.確定給付企業年金:企業が支払った掛金を信託銀行や生命保険が運用します。将来受け取る年金の額がある程度決まっているため、従業員へ支払う金額の見通しが立つ反面、運用の結果次第では企業側が補填する必要が出てきます。

2.確定拠出年金:確定拠出年金は企業や加入者が毎月一定額の掛金を拠出して、自分で運用する年金です。そのため、運用の結果次第で将来受け取れる年金の額が異なってきます。原則として60歳になるまで引き出せません。

3.中小企業退職金共済制度:中小企業に限定して加入することができる制度です。掛金の一部を国から助成を受けることができます。

4.前払退職金:毎月の給与に上乗せして退職金を支払う仕組みです。給与扱いになるため、通常の退職金のような税制優遇はありません。

5.社内準備退職一時金:社内で退職金の原資を積み立てておく仕組みです。税制面では積立金は損金として算入されません。

この中で近年主流となっているのが、確定拠出年金です。企業によっては確定給付企業年金と確定拠出年金を併用しているケースもあります。今回は確定拠出年金制度および社員におけるメリットをご紹介したいと思います。

個人型と企業型

確定拠出年金には個人型と企業型があります。個人型はいわゆるiDeCoとよばれているもので、個人事業主など自営業(国民年金第1号被保険者)および企業型年金・確定給付企業年金に加入していない企業に勤める会社員・公務員など(国民年金第2号被保険者)を対象としています。掛金の支払は加入者(個人)が行います

一方、企業型は企業が退職金として確定拠出金を制度化しており、企業主により掛金が拠出されます。企業型を適用している企業に勤めている方は、個人型への加入はできませんでしたが、2017年1月から法改正によって企業型に加入している人でもiDeCo(個人型)も併用することが可能となりました。ただし、上記の事業主掛金の上限を変更(引き下げ)する必要があり、規約改定も伴うので、あまり普及していないように思えます。

企業型における掛金の決め方

企業型は、事業主(企業)によって掛金が拠出されますが、その掛金額は会社によって異なってきます。具体的には、定額か社員毎に変動するケースの2つに分けられます。

・定額:全加入者が同額
・変動:「給与規程で定めた基本給/標準報酬月額など×一定率」
→法律上の上限範囲内によって社員ごとに金額が異なる

事業主による掛金の他に、事業主掛金の額を超えない範囲で加入者(社員)が掛金を拠出する「加入者マッチング*」も可能となりました。社員側からみると、企業から拠出される金額以外に、給与控除によって掛金を「上乗せ」することができると言えます。給与という性質上、生活などに支障ない範囲で控除金額は設定することになりますが、所得税の節税にもつながります。

*加入者マッチング拠出を採用している企業はiDeCo(個人型)との併用はできません。

確定拠出年金制度の3つのメリット

確定拠出年金制度は、老後の資金を運用するためのものと位置づけられており、この制度には大きく分けて3つのメリットが挙げられます。

1. ポータビリティ

60歳より前に中途で退職される場合、次の会社でも企業型の確定拠出年金制度が導入されていれば、会社を変わった場合でもそれまで積み立てた年金の原資を持ち運ぶことができ、加入期間を通算することができます。

これは「ポータビリティ制度」とよばれており、会社をまたがった長期的な退職金運用が可能となります。退職時に全て精算される従来の退職一時金とは大きく異なる点です。仮に、次の会社で確定拠出年金制度が導入されていなかったとしても、個人型に変更することで継続可能です。

私も過去に転職をした際に、転職先企業が確定拠出金制度を導入していなかったので、企業型から個人型に変更したことがあります。入社して1年くらい経過してから企業型確定拠年金が導入されたので、再度、企業型に移管して運用を継続しました。

2.長期運用

いろいろな金融商品が用意されており、それらを組み合わせて運用できるのが、確定拠出年金制度の大きな特徴だと思います。個別に国内株式、外国株式、新興国投資信託などの金融商品を選んで運用するのはかなり煩雑です。それを一つの口座で行えるのは、便利でしょう。

確定拠出年金は60歳まで運用する=長期運用が前提となっているため、多少ハイリスクな金融商品を選択したとしても、長期運用によって損する可能性が低くなり、最終的には得することの方が多いようです。

3.税制優遇

通常、投資信託などを運用した結果、売却益が発生した場合はその売却益に対して税金がかかります。売却益の約20%の税率です。

しかし、確定拠出年金の場合は、それが免税となります。また、受け取り開始できる年齢は確定拠出年金制度への通算加入者期間によって多少変化しますが、60歳から70歳までの間に①一時金 ②年金 ③一時金・年金の併用 のいずれかが指定できます。一時金の場合は退職金、年金の場合は公的年金と同じ控除対象となります。

人材確保という観点から、年金制度について検討する

冒頭で述べた通り、退職金制度は導入が必須というわけではありません。しかし慣行として広く定着しているため、退職金制度が無いことは、社員に一抹の不安を与えることも事実です。社員の資産形成を支援し、人材保持のための施策の一つとして、法改正を考慮しながら各社にとって適した制度を導入・運用を検討するのが良いでしょう。

執筆者紹介

永見昌彦(ながみ・まさひこ) アルドーニ株式会社代表取締役。外資系コンサルティングファームなどで人事コンサルタントとして勤務した後、事業会社(ラグジュアリーブランド持株会社)で人事企画担当マネージャーとして人材開発・人事システム・人事企画を兼務。事業会社、コンサルティングファームの両面から人事に20年たずさわった経験を活かして、2016年にフリーランス人事プランナー・コンサルタントとして独立。2018年に法人化。現在、人事全般のプランニング・コンサルティング・実務にたずさわっている。

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