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慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授・岩本隆氏インタビュー(後編)


岩本隆特任教授に聞く、HRテクノロジー導入に成功している企業の特徴

2018.06.14

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働き方改革を推進するとして注目を集めるHRテクノロジーですが、実際に導入することで、人事・総務業務にどんな変化をもたらすのでしょうか。また、導入に向けて人事・総務は何を準備すれば良いのでしょうか。
前編では、HRテクノロジーの潮流や、人事・総務がどのように向き合えば良いのかについて、慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授の岩本隆氏に話を聞きました。後編となる今回は、HRテクノロジーの具体的な活用例や、「ツール」として使いこなすためのポイントをお聞きしました。

岩本 隆(いわもと・たかし)

iwamotosan慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授

東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)博士課程修了。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータを経て、2012年より現職。グローバル企業で最先端技術の研究開発や開発責任者として研究開発の組織マネジメントに携わる。大学では、「産業プロデュース論」をテーマに研究活動を行う。著書に『AI・ビッグデータで加速する働き方改革と人事変革 HRテクノロジー入門』がある。

「まずは使ってみる」ことが重要

──テクノロジーによって環境が変わる中で、人事自身も柔軟に変わっていかければならない状況なのでしょうか。

そうですね。人事だけではなく、日本社会全体が変わらなくてはいけないタイミングなのだと思います。「第4次産業革命」によって、全ての人がテクノロジーを活用して付加価値を出せるようになっていく必要があります

僕が常にお伝えしているのは、「テクノロジーはものすごい勢いで進化しています」ということです。テクノロジーが進歩すれば、それだけ日常でもテクノロジーに触れる機会があります。あまり難しく考えずに、「まずは使ってみる」と考えることが重要かと思います。スマートフォンも、スマートフォン自体のメカニズムを知らなくてもみなさん使えますよね。それと同じ感覚で、AIについても触れてみると良いのかなと思います。

たとえば、リクルートが投資している「データロボット」というベンチャー企業のサービスがあって、これはAIを生成してくれるロボットなんです。プログラミングが出来ない人でも使えるので、例えば音楽をAIで作りたいと思ったら、アイディアさえあればデータロボットがAI化してくれる。すでにリクルートの社員の中には、データロボットのサービスを使用して、何百というAIを作っている方もいます。ですので、あまり構えずに、まずは使ってみようと考えるのがよいでしょうね。「電卓があるのに紙で計算しますか?」という話と似ていると思います。

──AIは、それほど身近な時代になっているんですね。

そうです。現在は「身近であるということに気付いていないというか、心のハードルがあるような気がしますね。

採用・研修の場面でHRテクノロジーが発揮される

──人事の業務の中で、一番簡単にデータ化して分かりやすくできるものは何でしょうか?

一番よく行われているのは、エントリーシートのテキストマイニングですね。新卒採用は多くの企業が行っているので、利用している企業は少なくありません。

特に大企業では、会社を変革するために違うタイプの人材を採りたいというニーズが少なからずあるのですが、そういった人材の母集団形成が難しい状況がある。これには、学生側が何となく「〇〇はこういう会社」というイメージを持っているから「自分には合わない」と考えてそもそも応募してくれないという事情があります。実はこういった場合にも、テキストマイニングを行うことで問題が解決できる。

具体的には、テキストマイニングで得たデータをもとに、これまでアプローチが少なかった大学にアプローチするであるとか、ターゲットを変えるために、リクルーティング広告の打ち出し方を変えるということができます。データ解析の結果、「慶應大の理工学部をターゲットにするのが良い」となれば、就活が始まるころに東横沿線に広告を出していくといったアプローチをしている企業が実際にあります。

ハイパフォーマー分析を実施している企業では、「自社におけるハイパフォーマー」を定義して、その定義に合う人材を雇う、ということをすでにはじめています。自社内のハイパフォーマーを数人ピックアップして、その特性を分析したものをベースに学生の適性検査やマッチングさせるというやり方ですね。

また、採用だけでなく、育成プロセスについてもテクノロジーが使われています。半年のマネジメント研修において、毎日の研修についてアンケートと感想文を書いてもらい、そのデータの変遷を見ることで当時とどこが変わったかを見ていくということですね。

膨大なデータをどのように活用するかがポイント

─採用や育成は毎年行う企業が多く、データもとりやすいので業務に生かしやすい面がありますね。

そうですね。今後は採用や育成に限らず、人事評価や給与、タレントなどさまざまデータを連携させながら、どのように経営に生かしていくのかというのが、HRテクノロジーを活用するうえで重要になっています。HRのデータにはどんなものがあって、どこに活用できるかどうかということ自体は誰かが教えてくれるわけではありません。人事が戦略的に考えていく必要があります。

HRテクノロジーの活用のポイントは大きく3つのシーンで考えられます(図3)。①どんなデータを整備し、②どのように分析し、③どのように経営に生かすか(アウトプットできるか)です。

図3

図3

グラフ(図3)のデザインが非常に重要になっていて、今、テクノロジーの進化で、使えるデータの種類が数値やテキストに限らず、音声や画像や映像、あるいはセンサーでリアルタイムにとれる動的なデータもあります。そういったさまざまな種類のデータの中から、「まずどのデータを整備すべきか」を選ぶことが重要です。

次の段階として、そうして選んだ意味のあるデータを連携させながら、統計分析や機械学習、ディープラーニングなどの手法でどう分析するのかを考えます。分析というと、人事の方はハードルが高いように感じると思いますが、技術系の企業は社内に必ずデータサイエンティストがいます。社内の研究所とか研究開発部隊にあるデータサイエンティスト部門へ、人事から統計分析を発注する形で行うというケースが多いですね。

成功要因は「ビジネスマインド」と「地道な努力」

──人事担当者に必要な事、知識やスキルだけはなく社内への働きかけ、制度設計や体制構築など、企業の成功事例がありましたら教えていただければと思います。

ビジネス部門で活躍した人材を人事担当にすることで成功した事例は多いですね。「儲かるためにはどうするべきか」という発想で人事を考えるので、それが成功につながっています。

逆に、もともとビジネスマインドがある人が人事部を担っている企業では、テクノロジーの導入が早い面があります。昔から言われていることではありますが、しっかりと経営を勉強した人が戦略人事を実践しているというケースですね。

社内の人を巻き込んでいくには、小さな成果を積み重ねるということが重要ですね。データにはポジティブなもの、ネガティブなものがありますから、いきなり大量のデータを分析しても、事業部門長のマインドによっては、データ活用に関して否定的な反応を与えてしまうこともあります。まずは小さなものでいいからデータを活用した成功体験を作っていく。これを繰り返していくことで協力の輪が広がり、うまくいくことが多いです。

悩ましいのは、統計学とかAIとかというのは100%正しい答えを出すものではないので、80%正しいとか、統計学的にはこうであるということしか言えないので、「間違っていたじゃないか」と指摘する余地はいくらでもあるわけです。データを見て、「良いヒントを得た」と思って活用する人と、「こんなもの……」と言って無視する人とに別れるので、マネジメントは決して簡単ではありません。上手くいった事例を社内で人事が率先してシェアしていくといった、地道な努力が必要でしょう。

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費用対効果の面で、経営層の理解を得やすい

──今は世間の関心も高く、テクノロジーの導入に対してトップや経営層の理解も得られやすいように思うのですが、いかがでしょうか?

そうですね。社内で導入する際のネックとして「予算」の問題があるかと思うのですが、そういった面では「採用」の分野はHRテクノロジーを導入しやすいと思います。採用の場合、毎年一定の予算がつきますよね。その上で、採用に関するツールはたくさん出ていて、人力だったものをテクノロジーに変えることで、コストが明確に下げられます。さらに効果も出やすい。

採用がなぜ効果が上がるかというと、新卒採用は特に大変な量の面接をしなければいけないので、面接に不慣れな社員を担ぎ出すこともあり、そういった場合、採用の精度が落ちるんですね。加えて、人がやると面接官によってバイアスが必ずかかるので、判定に差異が出て平準化できていない企業が多いんです。その点では、圧倒的にテクノロジーの方が精度が高いんですね。間に人を挟まないダイレクトリクルーティングなども良い例ですよね。

テクノロジーはあくまでツール。目的に沿った活用方法を

──今後の人事・総務担当者への期待をお聞かせください。

まず、テクノロジーは誰でも使えるようになるものですので、人事に限らず、世界に出て、最先端のテクノロジーを活用するほうに意識を向けましょうということですね。

ただその際重要なのは、「会社をどうしていきたいのか」という目的があって、そのためのツールとして「テクノロジーを活用する」という手段があるということです。

たまに人事担当者の方が「人はテクノロジーで語れない」といったことをお話しているのをお見受けしますが、「テクノロジーというのはあくまでツールであって、活用しないと競争力を落としますよ」ということをお伝えしたいです。

そういう意味では、テクノロジーが当たり前になってくる時代になると思うので、「HRテクノロジー」と騒いでいるうちはまだまだなのかもしれないです。日常の人事業務で、当たり前のようにテクノロジーを使う時代がこれから来ますね。

【2018年2月1日取材・編集:@人事編集部】

【編集部より】

「HRテクノロジー」について学べる、講演動画はこちら。

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