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仕事を任せ、社員が 重要な仕事に取り組める環境をつくる


元祖「働き方改革」実践者・吉越浩一郎氏が語る、業務効率化の掟

2018.06.07

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それまで赤字続きだった「トリンプ・インターナショナル・ジャパン」株式会社を、スピードと効率化を重視した経営手腕で女性下着業界第2位にまで成長させた吉越浩一郎氏。政府が「働き方改革」を推進し始める10年以上前から、「残業ゼロ」「生産性向上」を実践し、「平成の名経営者100人」にも選出されています。

今回は、「働き方改革」の先駆者であり、実践者である吉越浩一郎氏に、「業務効率化」「生産性向上」の極意についてお聞きします。

吉越 浩一郎(よしこし・こういちろう)氏

yoshikoshisan0531011947年千葉県生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業。メリタジャパンなどを経て83年にトリンプ・インターナショナル(香港)に入社。その後トリンプ・インターナショナル・ジャパン(株)に勤務。87年に代表取締役副社長、92年に代表取締役社長に就任し、即断即決経営を武器に19年連続増収増益を達成。「早朝会議」「デッドライン」「残業ゼロ」等のユニークな経営手法を取り入れ、効率化を図り会社を急成長させた。著書に『社長の掟』(PHP文庫)、『「残業ゼロ」の仕事力』(日本能率協会マネジメントセンター)、『デッドライン仕事術』(祥伝者新書)など。

20代での海外勤務経験で「効率的な働き方」の重要性に気づく

─はじめに、吉越様が「業務効率化」「生産性向上」を意識することになったきっかけを教えてください。

吉越氏:
一番最初に、私は日本の会社で働きはじめたんですが、故あって香港支店に異動することになりました。その時、私は29歳だったんですが、「何でもやる!」「残業はする!」といった、全く日本人的な働き方をしていたんです。ただ、私が香港に異動した時、同じく29歳のハルトムート・シュリヒティングというドイツ人の同僚が配属されていたんですね。そこで私たちは、同時に仕事を始めました。

その際、僕に与えられたメインの仕事は、香港での市場開発でした。コーヒー会社だったのでコーヒーとコーヒーの器具を売ることが目標ですね。担当する地域が決まり、私はさっそく、脚を使ってバタバタと働き始めました。ただ、シュリヒティングの方が初めに何をやったかというと、秘書を探し始めたんです。

─いきなり「秘書探し」ですか?

吉越氏:
そうです。彼も私も29歳ですよ。はじめは「なんなんだアイツ」と思いながら見ていたんですが、彼はすぐに秘書を見つけ、香港の女性を雇い始めました。給料は、シュリヒティングと僕が1だとすると、彼女は0.3です。頭数は2つなんだけど、会社にとってみれば、シュリヒティング側の給料は、私の給与の1.3倍という状況です。

それから、彼はすごい勢いで仕事を始めました。単純作業のようなレベルの低い仕事は秘書の女性に回し、自分は難しい仕事だけに取り組む、ということをはじめたんですね。

このような分業をした結果、シュリヒティングの方は、会社にとってのコストは30%追加だけれども、仕事は僕の倍以上こなしている、という状況になったんです。私は、このシュリヒティングと秘書を見て「効率的な仕事の仕方」に気づきました。

吉越さん03

従来の「日本的働き方」は、残業が前提のため効率が悪い

吉越氏:
1日にできる仕事を、三角形の図形で表すとしましょう。仕事の難易度を数字にした場合、1日の仕事の中には(難易度が)「20の仕事」「40の仕事」「60の仕事」「80の仕事」「100の仕事」というものがあるわけです。シュリヒティングは、「80以上の仕事」しかしないんです。それ未満の仕事は、アシスタントとして働く秘書に任せていた。かたや、その頃の私は「日本人的な働き方」をしていましたから、一番下の「20の仕事」から、全部自分でやっていたんですね。

それで上の方の仕事が終わらなかったらどうするか。残業するんです。残業して仕事の効率が上がると思いますか? そんな訳はないんですよ。頭がくたびれていますから、効率は必ず下がるんです。しかも、その上に残業すると1時間あたり100の賃金が125、深夜になれば150というふうに割り増しになる。だから、従来の「日本的な働き方」というのは、会社から見るととても生産性が低いんです。

─業務を効率化し、生産性を上げるためには、社員の分業が必要になる。

吉越氏:
そうです。でも今、日本の課長さんで秘書を持っている人はいます?

─ちょっと、聞いたことがないですね。

吉越氏:
そうでしょう。「部門に1人アシスタントを入れる」という形でもいいんです。優秀な人には難易度の高い仕事を任せて、雑用を省く。業務効率化のためには、こういうことをやっていかなくてはいけないんです。

日本企業の生産性が低いのは「仕事の分担」が不十分だから

吉越氏:
また、上司が部下に仕事を回す際には、「相手に任せる」ということが重要ですね。任せるというのは、仕事を分担した上で、「権限を与える」ということです。香港で働いていた頃は、みんな静かな個室で黙々と働いていました。1人で集中できる静かな環境というのは、仕事の生産性を上げる上でとても重要なんです。ただ、日本の多くの会社では、この環境がない。

─なぜ、そうした環境が作れない企業が多いのでしょうか?

吉越氏:
多くの日本企業では、部下に仕事を進めるための権限が十分に与えられていないんです。仕事内容も権限も入り混じってしまっていて、「これは、○○さんに確認しておかないとまずいよな……」なんてことばっかりです。だから個室でも自宅でも仕事ができません。で、どうするかといえば、1人片道1時間近くかけて会社に通うんです。この通勤は、全く効率的じゃない。しかし、それでもずっと、そうしてきているんですね。

─業務を適切に分担すれば、個室にいても自宅にいても仕事を進めることができる。

吉越氏:
そうです。「個室に入って8時間、誰にも相談なしに仕事ができるような、仕事の割り振りをしていますか?」ということです。日本企業の多くは、これができてない。できていないということは、会社の大問題です。

「報・連・相」の重視が部下の成長を阻む

吉越氏:
私はよく「報・連・相が大事、なんて言ってる上司は叩き切ってやる!」と言っているんです。本来は、部下に「報・連・相」をさせるんじゃなくて、上司が仕事を任せるのが当たり前なんですよ。

例えば、Aさんという優秀な社員がいたら「このデータを作ってください。1週間でお願いします」という。一週間後にデータを見て、必要な修正があればそこで指摘すればいい。

Aさんより能力の低いBさんには、「このデータを作ってください。明後日の段階で一度、そのまとめ方をチェックします」と言う。社員の能力によってデッドラインの引き方を変えて、ミスが多い社員については、短く、ステップごとにちゃんとできたかを聞いていけばいい。

上司たるもの、「部下がそんなことすると思っていませんでした」なんて言ったら「私は馬鹿なのでクビにしてください」と言っているのと同じようなものなんですよ。

─本来は、上司側が仕事のデッドラインを引き、確認をしないといけない。

吉越氏:
そうです。その上で、仕事の内容については「自分で考えなさい」「自分で進んでいきなさい」と伝える。いちいち「報・連・相」なんてさせていたら、人は育ちません。仕事を任されるから、人は育つんです。

1000名以上の経営者が見学に来た「吉越流・早朝会議」

─仕事の任せ方に関連して、吉越さまが実施されていた「早朝会議」について教えていただけますか?

吉越氏:
まず、多くの日本企業が勘違いしていますが、会議というのは、相談する場所じゃないんです。判断し、決める場所なんです。

「早朝会議」では、「この解決案を次の会議までに持ってきてくれ」と言われたAさんがまずプレゼンします。そのプレゼンが良ければ「わかった、ではそれで進めてください。出来上がるのは1週間後。いいですね?」という所まで進める。もし修正すべき点があれば、その場で伝えます。「出し直し。何故かと言うと、こういった問題があるから」と。

会議に提出する、始める前の実行案に関しては、徹底して考えさせて、会議ではその提案を見る。会議というのはだらだら相談をする場ではなくて、「あなたの考えたことを持ってきてください」という場なんです。

─その場で解決案を考えないから、会議に時間がかからない。

吉越氏:
そうです。とにかく答えを持ってこさせて、その答えを敲く。この早朝会議は、合計で1,000人くらいの外部の会社のトップの方々が聞きにきました。「聞かせてください」と言われるから、守秘義務にだけサインいただいて、素直に受け入れていました。彼らはそこで我々の死闘を見ていったんですね。

重要な仕事を後回しにしないために、上司がやるべきこと

─効率的な仕事の進め方について、さらに詳しくお聞きしてよろしいですか?

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吉越氏:
まず、会社の仕事というのは「重要度」と「緊急度」で判断すべきです。会社にとって優先度が高いのは、①緊急度と重要度が高いもの。次に、③緊急度は低く、重要度が高いもの。その次が②緊急度が高く、重要度が低いもの。そして最後が④緊急度も重要度も低いものなんです。

でも、実際に社員がどうやって仕事を進めていくかっていうと、①→②→③→④という順番でやっていくんですね。とにかく、緊急度が高いものを重視するんです。そうすると、右側の1・2番(1:重要度が高くて緊急度が高い、2:重要度は低いが緊急度が高い)の仕事をこなすうちに、8時間の就業時間が終わってしまう。その結果、重要度は高いけど緊急度が低い3番、両方低い4番は手を付けられず、放置されたままになってしまうんです。

重要なのは、社員自身に締切を決めさせないこと

では、上司はどうすればいいかといえば、1・2番は放っておいても彼らはどんどんやるわけです。だから3・4番の仕事をほじくり出して見つけては「これをなんとかしろ」と蒸し返すんです。そうすると、1・2番だけで「私は忙しいんです」って言っていた社員が、3・4番の仕事をするために工夫をはじめる。そうすると、簡単な仕事はITで自動化するとか、アルバイトを雇うとか、仕事を一元化するといった形で、仕事の効率化が進みます。いろいろな施策をして、社員が重要な仕事に取り組める環境を作っていくんです。

自分で大まかな締切を設定しているだけだと、1日でできる仕事でも、あれも調べよう、これも調べようと考えて、2~3日の時間を取ってしまう。ただ面白いことに、長い時間をかけて書いた文章と、締切まで時間がない中で書いた文章を比べた場合に、後者の文章が悪いかというと、そんなことはないんですね。集中してやれば、その人の実力がちゃんと出るんですよ。

─自分で自分の締切を決めてしまうとずるずる伸びてしまうし、質も決して高くなるわけではない。

吉越氏:
そうです。「今日は時間があるな」なんて思ったらもう終わりですよ。

─最後に、吉越さんが思う、企業における効率化・生産性向上の一番の障壁を教えて下さい。

吉越氏:
社長です。社長以外の理由はないです。「社長の掟」という本にも書いたんですが、私は「売上を上げて利益を増やせない社長は、社員の迷惑になるから辞めてくれ」と度々言っています。組織というのは魚と同じで、頭から腐っていきます。「頭が腐っていて生きている魚がいますか?」という話です。

会社組織の動かし方の基本はトップダウンです。トップの意識が変われば、会社は変わる。日本企業が生産性を上げるためには社長が意識を変えることです。そこが何より重要ですね。

─ありがとうございました。

【2018年5月、六本木ヒルズクラブにて取材:聞き手、撮影 @人事編集部】

【編集部より】
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