特集

労働契約法改正後の現場の声を聞く


「無期転換ルール」と「雇い止め」 東北大では退職者約500人?

2018.05.21

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労働契約法改正により、パート、アルバイト、契約社員、嘱託職員の方々などを対象とする「有期労働契約」が行われている職場では、2018年4月から大きな変化が生じています。今回は、労働契約法改正の「無期転換ルール」をめぐり、働く方々の現場が大きく変わった東北大学の事例を、関係者の方に匿名でレポートいただきました。自社で有期労働契約を行っている企業・団体が、知っておきたいリアルな実態です。

目次
  1. 無期転換ルールをめぐって、現場で起きている混乱
  2. 「無期転換ルール」のウラにある「雇い止め問題」
  3. 無期雇用を求めて署名活動やデモ活動を展開
  4. 「無期転換ルール」がもたらした歪み
  5. 合理的な理由を欠く場合は「雇い止め」が無効となることも

 無期転換ルールをめぐって、現場で起きている混乱

期限付きの非正規社員として5年勤めると、労働者が「無期雇用」の権利を得られるという「無期転換ルール」をめぐり、制度の趣旨と相反する事例が起きている。雇用主が非正規社員を「無期雇用」として延長しなければならなくなる5年が来る前に、非正規社員との契約を解除してしまう「雇い止め問題」だ。

非正規職員を多く採用していた東北大学では大規模な雇い止めが発生し、全国的にも注目を浴びた。「雇い止め」が起こった現場は、どのような状態なのか。東北大の職員が加入する東北大学職員組合に取材した。

「無期転換ルール」のウラにある「雇い止め問題」

有期雇用者が5年勤めると「無期雇用」として雇用される権利を得る、いわゆる「無期転換ルール」が定められたのは、労働契約法が改正された2013年4月。その5年後にあたる今年2018年は、有期雇用の労働者の無期雇用への転換が本格的に始まった年だ。

企業の中には、このタイミングで有期契約の非正規社員を「正社員化」する流れもある一方で、無期雇用に転換するコストが負担できないとして、そもそも雇用関係自体を終了してしまう「雇い止め」をする企業も出てきている。

参考:人事が直面する、改正労働契約法「2018年問題」 雇用環境はこう変わる

国立大学としての大規模な「雇い止め」で話題となったのが、東北大学だ。東北大が公式サイト内で発表した2018年1月1日時点での資料によると、同3月末で雇用期間が5年以上となる非正規職員(准職員・時間雇用職員)は1043人。そのうち、昨年実施された採用試験を経て「限定正職員」となったのは551人。障害者雇用促進法に基づく雇用者である無期非正規職員は19人。そして「任期満了退職者」は473人に上った。

無期雇用を求めて署名活動やデモ活動を展開

東北大職員組合は本来の「無期転換ルール」の制度趣旨に反しているとしてこの雇い止めに強く反対し、希望者の無期雇用を求めて署名活動やデモ活動を展開している。

同職員組合には、限定正職員になるための採用試験の内容が不公平なものだったとの不満の声も多く寄せられている。

「限定正職員への採用試験は在職期間が3年〜5年となる有期の非正規職員が対象でしたが、週20時間以内の時間雇用職員と、60歳以上の人は対象外となっています」(東北大学職員組合の担当者)。

たとえ受験資格を満たしていたとしても、「部局推薦がもらえない」という理由で、申請すらできなかった人も多数存在するという。申請ができないとわかった時点で、早々に退職してしまった職員もいるとのことだ。「受験を希望しても申請すらできない人がどれくらいいたのか、大学側にも把握して欲しいと思います」。そんな悲痛な声が、同職員組合には寄せられている。

「無期転換ルール」がもたらした歪み

東北大学は公式サイトの人事企画部セクションに掲載している文書で、雇い止めの理由について「大学が法人化したため、国からの運営費交付金が大幅に減少し、希望する非正規職員全員の無期転換を行い、その人員を維持することは、経営上困難」としている。

厚生労働省の「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」では、「無期転換申込権の行使により、契約期間の定めがなくなるため、雇止めの不安は解消され、雇用の安定につながる」と「無期転換ルール」のメリットを掲げてはいるが、そこから漏れてしまい、実際に行き場を失った人たちにとっては、デメリットしかない。東北大学の非正規職員には、キャリアを持ちながらも、家庭とのバランスを考えて時間雇用(パート)という形を選んで働く女性も多い。実際に「有期雇用であっても構わないから、これまで通り契約を更新して雇ってもらえればそれで良かった」という声もある。

合理的な理由を欠く場合は「雇い止め」が無効となることも

東北大の雇い止め問題をめぐっては今年2月、雇用継続が見込めなくなった東北大の非正規職員が労働審判を仙台地裁に申し立てた。厚労省の同サイトによると、使用者が雇い止めをすることが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、その雇い止めは無効とされるという。

「無期転換ルール」の制度趣旨に反する雇い止めによって雇用を失った労働者に対し、国はどう対処することができるのか。建前だけでなく、真に多様な働き方を守るための制度設計が求められている。

【編集部より】
「無期転換ルール」に関する、この他の記事はこちら。

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