働く方のためのメンタルヘルスLab
年度初めに急増する「昇進うつ」と「自信喪失」への対処法
2018.04.26
メンタル不調という言葉を聞くと「仕事が嫌な人」「仕事がつらい人」というイメージを持っていませんか? 実は「すごくやる気がある人」「仕事が好きな人」でも心の調子を崩してしまうことはあります。
とてもやる気があるから、仕事がすごく好きだから、つい一生懸命がんばりすぎてしまう。結果、前日までバリバリ働いていたのに翌朝急に起き上がれなくなってしまう。そういった事例は度々耳にします。
特にこの時期は社内異動が多く、環境の変化に伴ってこれまで元気だった人が調子を崩しやすい時期です。今回は、春に急増する昇進うつと自信喪失についてお話いたします。
昇進うつとは?
昇進うつ※とは、その名の通り昇進したことをきっかけに発症するうつ病のことです。下記にあてはまる内容が多い方は、注意が必要です。(※「昇進うつ」は医学用語ではありません)
- 仕事内容が変わって追いつけない
- 完璧な上司でいないといけないと思う
- 一人で仕事を抱え込みやすい
- 上司からの期待をプレッシャーに感じる
- 部下が思うように動いてくれないと感じる
「せっかく昇進したのだから!」と意気込んでも上記のような要因があると、自分の理想通りに物事が進まない経験が増えます。結果、「挫折感や無力感を感じる」「自分を責める」「部下に怒ることが増える」といったネガティブな気持ちや行動が増えてしまいます。
こんな症状があったら「昇進うつ」かもしれない
こうした状態が続くと、仕事の成果を出す前に、健康を損なってしまう可能性があります。具体的には、
- 慢性的な寝不足もしくは過眠
- 食欲不振または過食
- 集中力や思考力の低下
- 自分に価値がないように感じたり、罪悪感を感じる
- 憂うつな気分
といった心身の不調が昇進後から出てきた場合、「昇進うつ」である可能性があります。悪化する前にセルフケアを行い、症状が重い場合は、躊躇せず専門家の力を借りましょう。
昇進うつの回避方法
新しい環境や新しい役職で最初から完璧な人はいません。例えそれが上のポジションであっても、みんな失敗を重ねながらその役職に慣れていくものです。「時間が経過していく中でいずれは上手くできるようになる」ということを念頭におきましょう。その上で大切なのは「他人を頼る」「他人に過剰に気を遣わない」ということです。具体的には、以下のような行動を意識しましょう。
- 自分の上司を頼る
- 任せるべきことは部下に任せる
- 信頼できる人に仕事のことについて話す
「うつ病」になりやすい方の特徴には「まじめ」「責任感が強い」「義務感が強い」といったことが挙げられます。昇進を機に実力を発揮するぞ!と意気込む気持ちも大切ですが、周りを上手く頼ったほうが、自分が楽なだけでなく、効率もよく、仕事の質も上がります。
ただ、もう既に気分の落ち込みがひどくそれどころではない、ということであれば、個人で対処するのは難しいかもしれません。我慢せずに産業医や精神科などの専門機関に相談することを検討しましょう。
大変なのは役職者だけではない。この時期急増する自信喪失者
この時期大変なのは、新たに上司になる方だけではありません。「むしろ上司は元気満々だけれど、一緒にいるこっちが疲れてきた」なんてことも、経験のある方は多いかもしれません。役職を持たない方も、この時期はさまざまな困難に直面します。人事異動が多いこの時期に多いのが、上司が変わったことによって自信をなくしてしまった、という方々です。
いきなり変わる評価基準
「今までと同じ仕事を今までと同じように行っているのに、なぜか上手くいっていない感じがする」こういった感覚にもし心当たりがあるのであれば、それはご自身の状態だけではなく、職場環境と何か関係があるかもしれません。 上司が変わってからこのようなことを経験してはいませんか?
- 注意されることが増えた
- 同じことを同じようにやっているのに上司は不満そう
- これまでとは別の人が評価されるようになった
もし当てはまる場合、これまでの上司と今の上司では、部下を評価する基準が違うのかもしれません。
同じ役職者でも重視するポイントは異なる
同じ役職についた人でも、大切にする仕事のポイントは異なります。例えば、部下には自由に進めて欲しい人、事細かに確認をとってほしい人、成果だけにこだわってほしい人、社内での暗黙のルールをきちんと守ってほしい人、個人主義の人、チームワークを大切にする人など本当にさまざまです。
もし以前の上司と新しい上司が大切にする仕事の基準が違うのに、以前の仕事のやり方を続けているのであれば要注意です。気づかないうちに自分の評価が下がってしまっているかもしれません。
上司が何を重視しているのかを把握しよう
例えば、以前の上司が、自由裁量を重視する人だった場合、あなたの仕事のスタイルは自分で決めて行動する、というスタイルになっているかもしれません。でも、もし新しい上司が、なんでも把握しておきたい人だった場合、以前のやり方を貫いてしまうと、上司はあなたが今なにをしているのかがわからなくて、とても不安に感じてしまうかもしれません。結果、「なにも相談しないなんてけしからんやつだ!」とネガティブな評価を受けることに繋がってしまう可能性があります。これでは一方的に非難や批判を受けることが増え、自信をなくしてしまいます。
このような事態を避けるためにはどうしたらよいのでしょうか? 答えはシンプルで、「新しい上司の評価基準を知ること」が重要です。具体的には、
- 上司が仕事をする上で大切にしていること
- 今している自分の仕事をよりよくするにはどうしたらいいか
- キャパシティが足りないときは何を優先すべきか
などを直接聞いてみましょう。個人面談があればその機会を利用してもいいですし、すぐにそのような機会がなければランチに誘ったりして、カジュアルに聞いてみましょう。ただ、上司から言われたことを常に完璧に目指していては大変です。まずは、参考程度に聞いて少しだけ意識してみましょう。それだけでも、信頼度が上がりコミュニケーションが取りやすくなることがあります。
先程の例だと、タスクをお願いされたときに今までは「はい、わかりました。」と返事をしていただけのところを「はい、わかりました。〇〇の形式でまとめようと思いますが、よろしいですか?」など1つ確認しておくだけで印象は変わります。
理不尽な上司の評価を絶対視しない
ただ覚えておいていただきたいのは、これらはあくまで良心的な新しい上司と上手くやっていきたいときのコツです。残念なことに、何をしても文句を言ったり、その日の気分で言うことがばらばらだったりする上司もいます。そんな時は、あまり振り回されないよう、自分がやりやすい方法で仕事を進めていきましょう。
上司の評価はあくまで「その上司から評価」であって、社会全体からの評価などではありません。上司からの評価を絶対視しないことが、自身のメンタルを守ることにつながります。
メンタル不調で大切なのは早期の発見と改善です。仮に今まで仕事が好きで元気だったとしても、環境の変化があってからあまり気分が優れないということであれば、少し立ち止まって自身の心身を点検しましょう。
イラスト:さっこさん
執筆者紹介
清水 あやこ(株式会社HIKARI Lab代表) 新卒で数年間外資系証券会社で勤めた後、退職し東京大学大学院臨床心理学コースにて臨床心理学を学ぶ。在学中に株式会社HIKARILabを設立。会社のモットーは「今までにない心理ケアを提供し、簡単に心理ケアを受けられる社会を実現する」。現在は、オンラインカウンセリング「ココロワークス」と心理ケアゲーム「SPARX日本語版」などの開発に携わる。著書に「ちょこっとポジティブ。」(大和出版)、「女子の心は、なぜ、しんどい?」(フォレスト出版)がある。
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