人事のキャリア【第12回】
社員の能力開発に貢献したい。世界的なエレクトロニクスメーカーの日本法人で、全人事業務を担う(LG Electronics Japan辻智恵さん)
2018.04.06
さまざまな業種の人事担当者に、仕事のやりがいやキャリアについてインタビューする「人事のキャリア」。第12回は、LG Electronics Japan株式会社で働く辻智恵(つじ・ちえ)さんにお話を伺いました。
約100人の社員が所属する同社で、人事の実務を担当している辻さん。教育・採用・制度・福利厚生など、ありとあらゆる人事の業務を日々こなしています。もともと興味があった教育の分野に力を入れ、社員の能力開発に貢献したいという辻さんに話を聞きました。【2018年3月取材:尾越まり恵、撮影:中村介架、構成:編集部】
辻 智恵(つじ・ちえ)
LG Electronics Japan株式会社 HR Part 主任
2008年新卒で電機メーカーに就職し、部品のバイヤーを担当。その後、外資系の通信機器メーカーでの業務に従事し、途中から採用担当を任され、年間120人ほどの中途採用に携わる。3年間人事を務め上げ、採用以外の人事の仕事に携わりたいと、2015年の4月にLG Electronics Japan(以下「LG」)へ入社。
成長できる環境でチャレンジを
――これまでの経歴を教えてください。
大学3年生のときに、韓国の梨花女子大学に交換留学に行ったのですが、その際に韓国の大手電機メーカーの社員の方々に日本語を教えるアルバイトをしました。その方々とお話ししているうちに、メーカーで働きたいと考えるようになったんです。メーカーでどんな仕事ができるかが具体的に分かっていたわけではありませんが、その時は海外とのやりとりが多く、語学を生かせることが魅力的だと感じました。
それで、大学卒業後に電機メーカーに就職し、部品のバイヤーを担当しました。その後、外資系の通信機器メーカーに従事し、途中から人事の仕事に携わるようになりました。ただ、年間120人ほどの中途採用を実施している会社だったので、担当は採用だけでした。人事の仕事が面白いと感じていたので、もっと幅を広げたいと考えて、転職を決めました。2015年の4月、ちょうど3年前に入社したのがLGです。
――人事の仕事ができるメーカーは他にもあったと思いますが、LGを選んだのは何か決め手があるのでしょうか?
実は、私は生まれてから6歳頃までを韓国で過ごしているんです。日本語より先に韓国語を覚えたくらいなので、やはりその語学力を生かしたいという思いと、いつか韓国の会社で働いてみたいという思いがありました。
当社に入って改めて実感したのですが、韓国の会社は儒教の精神もあり、非常に人を大事にする、温かい家族的な雰囲気があります。そういう社風にも魅力を感じました。
また、自分自身のことで言えば、留学のときに日本語を教えた経験から教育に興味を持ちましたので、教育に携われることも、この会社を選んだ理由の一つです。
その一方で、エレクトロニクス製品の分野では、日本市場はナショナルブランドが強く厳しい市場ですが、その中でも当社は、魅力的な製品を通じ今後の成長が期待できる会社であると感じました。
その中で身を置き、人事として参加できればという思いと、私自身も成長していきたいという思いからこの会社を選びました。
――現在担当されている業務内容について教えてください。
私が勤めるLGの日本法人には、現在100人ほどの社員が働いています。その中で人事スタッフは上司と私の2人しかいません。上司は本社へのレポーティングや改善・タスク業務が多く、人事の実務はほぼ私が担当しています。
採用、教育、給与、労務、福利厚生、制度企画と人事の仕事は多岐にわたります。中でも、私が力を入れたいと考えているのは教育の分野です。
実際に行ったこととして、会社へ提案して外部教育の制度を導入しました。社内だけで完結するのではなく、社外に出向き、さまざまな講師から教育を受けられる制度です。私自身もトーマツイノベーション様が主催する『人材開発エキスパート講座』を半年間受講し、多くのことを得ることができました。
採用前から退職まで、社員の人生に関われる
――人事の仕事で大変と思うのは、どんなところですか?
人事全般を担当していることもあり、時間の使い方が難しいと感じます。特に、2018年度は、派遣社員や契約社員の法律が大きく変わります。それにより社内の制度の見直しなどが、今まさに佳境となっています。
2017年度の後半くらいから、給与、制度、福利厚生、と1時間刻みでまったく違う仕事をしていました。1時間ではとうてい終わらないのですが、どんどん締切がやってくるので、いろいろな仕事を次々にこなさないと追い付きません。朝、出社したら必ず今日やるべき仕事を整理しています。打ち合わせも多いので、その合間をぬって資料作りをしたり、分刻みで動くこともあります。
また、社内の調整も大変だと感じます。人事の仕事には答えがありません。例えば、法律が変わってその法律に合わせて社内規定を変更するときに、できるだけ全員に対して公平にしようと思うものの、誰かにとっては不公平になることもあります。そのバランスをとることがすごく難しいですね。
自分がいいと思ったことを上司に伝えても、うまく伝わらない場合もあります。何度も資料を書き直したりして、もどかしい思いをしました。人事には交渉や説明の能力も必要だと実感しています。
――一方で、楽しいと思うのはどんなところでしょうか?
当社では今、中途社員のみですが、年間約10人のほどの随時採用をしています。社員の採用前から、その方が会社を退職されるまで、人生の一部に関われることに喜びを感じます。
採用だけでなく、教育や給与、福利厚生なども担当しているため、その方がどのようなキャリアを積んでいくのかがよく分かりますし、自分が採用した社員が活躍している姿を見られるのは嬉しいです。入社して3年間で私が採用に関わった社員は、まだほとんど辞めていないんです。それも嬉しいですね。
――普段はどんな勉強をされていますか?
現場で学べることも多いのですが、積極的に外部教育などに参加して勉強するようにしています。そこで違う業界の会社の方と出会うこともできますし、議論しながら新しいインスピレーションが生まれることもあります。他の会社の人事の方と会うことは刺激になりますし、その会社の制度を聞き、自分の会社でも導入できるかを検討したりしています。
また、本を読んで学ぶことも多いですね。引き出しを広げるため、人事関連だけでなく、自己啓発や新書、経済誌も読みますし、清潔感を持たれるようにファッション誌もチェックしています。
これまで読んだ中で印象に残っているのは、株式会社ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵さんの本です。仕事は年次が上がるにしたがって、量から質を求められるように変化する。若いうちに効率よく仕事をする術を覚えなければ、最初から質を重視して効率的に働いてきた人には勝てない、というような内容が書いてありました。これを読んだ時に、なるほどな、と思っただけでなく、すぐに自分でも取り入れられそうだなと思ったんです。
今は極力残業をしないように意識して働いていますし、社員の方も早く帰れるような働き方を社内で推奨しています。
――仕事をする上で気を付けていることはありますか?
これは、以前、会社の先輩に言われたことなのですが、モチベーションは下げても、パフォーマンスは絶対に下げないということです。やはり、人間なので好不調の波はあります。人生いろいろなので、楽しい時もあれば、つらいときもありますよね。落ち込んだり不調だったりするときでも、パフォーマンスは下げない。とにかく手と頭は動かす、ということは意識して働いています。
精神論にはなりますが、もともとずっと水泳をしていたので、そういう自分を追い詰めるような、ストイックなことが好きなんだと思います。
主体的に動き、組織に貢献できる人事へ
――今後の目標を教えてください。
直近では、社内の働き方の改善をしていきたいと思っています。国が掲げている働き方改革の内容を見て、優先的に取り入れることを精査しています。それで早速、「勤務間インターバル制度」を導入しました。これは、業務が終わってから次の業務を始めるまでの時間を一定時間空けるというもので、当社の場合は9時間に定めました。実は、この勤務間インターバル制度を導入している企業は、日本でまだ2%弱しかないそうです。夜遅くまで働いたら、一度休んで、また仕事に取り組んだほうが効率は上がるはずです。会社にとっても社員にとっても良い制度や福利厚生をもっと考えていきたいですね。
長期的には、戦略的な人事、という分野に挑戦したいと考えています。現在の上司がやっているような社内の課題に対して、戦略を考え、ビジネスの成長をともに実現できるようサポートするというような分野です。
人事は受け身の仕事だと言う方もいます。業務によりますが、例えば労務だと仕事がルーティン業務であることが多いからかもしれません。一方で、自発的に仕事ができる分野もあります。これまで自分が学んできた採用や教育、能力開発のノウハウを生かし、社員の方の悩みを解決したり、パフォーマンスを向上したりするための施策をどんどん提案できるようになりたいと考えています。
――ありがとうございました。
辻さんのキャリアアップのポイント
・外部研修に出向き違う業界、業種の人と交流する
・本は人事関連以外のものも幅広く読む
・とにかく手と頭は動かすことを意識して働く
辻さんのある日のスケジュール
5:45 起床、出社準備
8:30 出社。毎朝2駅歩きます。
9:00 メールチェック、タスク整理、一日の予定作成
10:00 産業医とのミーティング、安全衛生委員会実施
11:00 勤怠・給与計算、社保等の業務対応
12:00 “紹介会社様とのランチミーティング@東京駅・京橋周辺のおいしいお店”
13:00 就業規則改訂のため社労士へのご相談、社長報告資料作成等
15:30 社長に向けての人事業務報告
16:30 採用予定候補者との面接
17:30 面接のレビュー
18:00 翌日の予定とタスクのチェックをして帰社
19:30 夕食、夕食後に翌日以降の料理の作り置きをする
21:00 風呂、ヨガ、ストレッチ、読書など
24:00 就寝
辻さんの年間スケジュール
※情報は2018年3月時点
企業プロフィール
会社名:LG Electronics Japan株式会社
所在地:東京都中央区京橋2-1-3 京橋トラストタワー15階
設立年 1981年1月
従業員数 約100名(2018年3月時点)
事業内容:LGエレクトロニクス製品の日本向け輸入販売
HP:http://www.lg.com/jp
執筆者紹介
尾越まり恵(おごし・まりえ) フリーランスライター。福岡県北九州市生まれ。結婚情報誌ゼクシィの制作に携わり、2011年に独立。「女性の生き方」をテーマに取材・執筆を続けている。福山雅治、ホークスが好き。
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