面白法人カヤックに聞く、「クリエイターと人事評価」vol.2
カヤックはクリエイターをどう評価する?~サイコロ給がある理由
2018.03.27
クリエイティブ分野において、第一線で活躍し続ける面白法人カヤック。前回の記事では「クリエイターを評価すること」と「モチベーション管理」を、どう捉えているかをお聞きしました。後編では、「実際にカヤックがどう社員を評価しているのか」「サイコロ給はなぜ生まれたのか」をお聞きします。
みよしこういち氏
筑波大学大学院・数理物質科学研究科を修了後、就職せずボードゲームを作って生計を立てる。シナリオライターの学校やよしもとの学校を卒業後、面白法人カヤックの人事部に参加。 これまでに、バスで日本各地をまわる「旅する会社説明会」や検索ワードだけで応募できる「エゴサーチ採用」、ゲームの上手さで内定を出す「いちゲー採用」などの企画を手がける。
神谷俊(かみや・しゅん)氏
経営学修士。面白法人カヤックの組織文化を俯瞰するため、「社外」から同社の人事業務に関わる特命人事。面白法人のタレントたちのキャラ特性や、面白さが生み出されるプロセスへ注目しながら、面白法人という生態系の維持発展に貢献している。また、その一方で多様な組織に在籍し、独自のキャリアを展開。株式会社エスノグラファー代表取締役、株式会社ビジネスリサーチラボ(採用学研究所)研究員など複数職を兼務。脱専門家をポリシーに据え、幅広い領域を無節操に越境する日々。
同僚がお互いを評価する「360度評価」
──カヤックでは、実際にクリエイターを評価するにあたっては、どのような制度を採用しているのでしょうか。
みよしさん:
カヤックでは、「360度評価」を採用しています。これは「10人~30人のグループメンバーが、評価対象者をC〜SSの15段階で順位付けする」というもので、どのようにその人たちを順位付けをしたかは、本人しか知りません。
各々には「自分が社長になったとした時に、給料をあげたいと思う順番にランキングを付けてください」と言っていますね。
──それぞれが順位付けしているデータは公開されるんですか?
みよしさん:
本人には、自分がつけられた点数の平均だけが公開されます。誰が何点入れたか、ということまでは分からないということですね。自分の評価を上げようと思ったら、全員に上げてもらわないといけない、という仕組みになっています。
評価制度の成否は「被評価者の納得」にかかっている
──お二人が思う、上手くいく人事制度、上手くいかない人事制度を教えてください。
神谷さん:
人事評価制度で上手くいくかどうかは「被評価者が納得するかどうか」で決まると思います。
みよしさん:
そうですね。360度評価にしろ、等級制度にしろ、その職種の人の属性に合っていればうまくいくし、合っていなかったら上手くいかないと思います。
例えば、製造業をはじめとした、スキルが区分けしやすい、言葉にしやすい仕事は等級制度の方が良いと思います。
等級制度は「RPG」、360度評価は「どうぶつの森」
みよしさん:
等級制度は、ゲームで言えばRPGなんですよね。これだけの経験値を得て、このレベルになればこのステータスになるという仕組みです。
360度評価はどうぶつの森に近いと思いますね。分かりやすくレベルが上がったりはしない。いろんなことを言われて、いろんな場面があって、「この環境が自分は好きだ」と思えばずっとプレイするし、苦手な人は続かない。
営業職は等級評価の方が良いでしょうね。ある意味、ある程度レールが出来ているというか、「これをやっていけば成功できる」という道筋があれば、それに沿った評価形式が良いでしょうし、そういうビジネスモデルを作れているチームは強いと思います。
ただ、「給与アップ」や「ランキング」や「MVP」といったやり方はありますが、それでクリエイターの気持ちが上がるかと言われたら別だよね、ということですね。
神谷さん:
評価には、学習の側面もありますよね。被評価者が評価結果を踏まえて、自分の仕事を振り返るという機能です。クリエイターに関してはこのブラッシュアップがとても重要だなと思っていて、自分自身が作ったものが独りよがりにならないために、周りのフィードバックがあるべきかなと。「面白さ」って社会的なものですので。そういう意味では、360度評価のような多面評価は、クリエイターにとっては良いシステムだと思います。
組織内政治が存在する企業では360度評価はNG
──「360度評価」はクリエイターにとっては良い評価制度だと感じるのですが、欠点があるとすれば、どんなところでしょうか。
みよしさん:
派閥があるようなところでは絶対だめですね。そういった企業でやった場合、やりたい放題になります。
神谷さん:
そうですね。組織内政治みたいなのが発生してくる企業だと絶対にノイズが入るでしょうね。カヤックの組織文化があるからこそ成立する部分が大きいと思います。
従業員300人を超えたカヤックが抱える悩み
──現在のカヤックの評価制度や評価体系で、ここが課題だと思うところはありますか?
みよしさん:
今の評価が300人用に作られたものではないから、300人から1000人に増えたら今の制度のままいけるのかという問題はありますよね。
神谷さん:
規模の拡大によって、機能不全になる。また、360度はチームメンバーがみんなで評価するシステムなんですが、みんなが良い評価を付ける人は、ある意味「万人受け」するということですよね。
果たしてその万人受けすることが、面白法人として最高のパフォーマンスと言えるのかというところはありますよね。全員が評価するお笑い芸人って1年でブームが去るじゃないですか。さらに、万人受けするような存在は、時に人の評価を盲目にさせる。流行とかそうですよね。皆が良いっていうけど、本当に価値があるのか。そこは注意が必要かなと思います。
みよしさん:
そうですね。確かに尖っている人はいますけど、昔に比べたら少ないのかなと思います。組織が大きくなればしょうがないところはあるんですが、それをしょうがないと思ったら面白法人としては面白くないので、また変えていくつもりです。
それと、人数が増えすぎて変な奴がいても気づいていない可能性があるなとは思ったんですよね。合宿で「この人ヤバいな」と思った人が日報見たら、「あれ?すごい普通に見える」と思って、これはよくないなと思って、この前、課題として共有しましたね。「あの合宿の時の彼のヤバさが、社内でそのまま活かせないのは良くないと思う」という話をしました。
小さいことは、神様に任せたほうがいい
──最後に、カヤックさんの代名詞ともいえる「サイコロ給」についてお聞きしたいのですが、その目的は何ですか?
みよしさん:
(サイコロ給は)「給与体系を決める時に揉めると思うよ」みたいなことを、やなさん(面白法人カヤック代表取締役:柳澤 大輔さん)が先輩の経営者の人から聞いて、そんなことでいちいち揉めるんだったら、最後は神様に任せた方が良いんじゃないかと思って作った制度なんですよね。小さい部分は運で決めた方が良いだろうと。結局、完全に正しい評価なんて人間には出来ないので。神谷さんが話していた「評価を気にさせない」の究極というか。しょうがないと諦めさせるというか。
──実は、サイコロ給も、カヤックの制度制度の考え方につながっている。
神谷さん:
そうですね。評価制度を通して、会社からの「そんなもんだろ、気にするなよ」っていうメッセージが見えてるのが良いですよね。それで怒っちゃうような人は組織に馴染めないんでしょう。会社から評価に託すメッセージは結構重要かなと思います。他社がやっているからパクりました、というのは全然会社からのメッセージは見えなくて、工数の負担ばかりが現場にのしかかることが多いと思います。
会社の評価を作るのは社内の「文化」
みよしさん:
やなさんは「会社の文化を作るのは評価だから」とよく言っていて、文化は、言葉として伝わってこなくてもいいんですよね。明示的に言葉でメッセージが伝わってくると、受け付けなくなっちゃう人もいるので。
内省したり評価を変えていく過程で、自然とこっちが伝えたいことが伝わっていたり、「こういうことが評価されるんだったらここにいたいな」と思える人が残っていくという状態が自然ですよね。
逆に「このことについてはこの会社はここまでしか決めていないから、そういうことなんだろう」と解釈して、納得した人が残っているところもあります。
神谷さん:
特にカヤックの理念は特殊だなと思っていて、社長もホームページで書いていましたけど、「つくるひとを増やす」とか、「面白がる」とか、そういうキーワードがいくつかあったりしますけど、理念に描かれていることが明確ながらも抽象的なんですよね。絶妙な粒度。
「お客様を〇〇にする」とか、「世界一の〇〇になる」とか対象が具体的な表現ではなくて、ある意味で「スタンス」なので、そのスタンスを踏まえていればOKというか。どんな価値でも受容できる組織文化になっているのかなとは思います。
【2018年2月‟ヨコハマ展望台”オフィスにて取材:聞き手、撮影 @人事編集部】
企業プロフィール
商号:株式会社カヤック
所在地:【鎌倉オフィス】神奈川県鎌倉市小町2-14-7かまくら春秋スクエア2階
【‟ヨコハマ展望台”オフィス】神奈川県横浜市西区高島1-1-2横浜三井ビルディング 30F
事業内容:日本的面白コンテンツ事業
設立:1998年 8月 3日 合資会社カヤック 2005年 1月21日 株式会社カヤック
従業員数:正社員・契約社員253名(2016年12月末時点)
URL:https://www.kayac.com/company
【編集部より】
面白法人カヤックに聞く、「クリエイターと人事評価」vol.1の記事はこちら。
面白法人カヤックの採用に関する記事はこちら。
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