「次世代人材マネジメントフォーラム」レポート
これからの人事に生かせるHRテクノロジーの活用法とは
2018.03.02
働き方改革をはじめ、日本企業は旧体制からの変化を求められています。中でも多様化する人材や制度など、人材マネジメント領域は重要な課題になると言われています。
HRテクノロジーは複雑化する人材マネジメントをテクノロジーで解決する画期的な手段だと言いますが、実際にはどのようにテクノロジーを活用できるのかがあまり知られていません。そんなHRテクノロジーの活用法や人材マネジメントの重要性について学ぶ、「次世代人材マネジメントフォーラム ~HRテクノロジーが実現する生産性革命~」(主催:株式会社カオナビ)が2018年2月13日にパークハイアット東京で開催されました。今回は気になるセミナーの概要を紹介します。【取材:河野理沙】
DATA
「次世代人材マネジメントフォーラム ~HRテクノロジーが実現する生産性革命~」
日時:2018年2月13日(火)14:00-16:00
会場:パークハイアット東京 ボールルーム(東京都新宿区西新宿3-7-1-2)
定員:100名(事前登録制)
主催:株式会社カオナビ
協力:東洋経済新報社
構成:1部/基調講演 2部/パネルディスカッション
登壇者:岩本 隆(慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授)
【2部司会者】北崎 茂(PwCコンサルティング合同会社 ディレクター)
曽山哲人(株式会社サイバーエージェント 取締役)
仲川 薫(株式会社リクルートジョブズ 執行役員)
森 正弥(楽天株式会社 楽天技術研究所 代表)
柳橋仁機(株式会社カオナビ 代表取締役社長)
※敬称略
事務作業はテクノロジーに、ヒトは戦略人事に
はじめに、代表挨拶で柳橋氏【写真上】が登壇。柳橋氏は、産業構造の変化や労働人口の急激な減少により、働き方改革や体系的な人材マネジメント手法を取り入れたいが、何をしたら良いのか分からないと悩んでいる企業に向けて、「ぜひHRテクノロジーを知ってほしい」と訴えました。
続いて第1部の慶應義塾大学大学院 経営管理研究科特任教授の岩本氏【写真下】による基調講演が始まりました。
岩本氏は、ソサエティ5.0や第4次産業革命と言われるこれからの高度な情報技術社会に合わせて、「産業人材にも変化が求められる」と話します。働き方改革が新たな展開を迎え 、産業人材政策として生産性革命と人づくり革命が今後の課題となるそうです。
生産性革命では生産業務などの付加価値の低い仕事をテクノロジーが代替して効率化していることを例に挙げ、依然として人の手で行われているオフィス業務もテクノロジーを活用して効率化し、生産性を向上することが重要だと言います。特に、これまで日本ではあまり注目されていなかったHRテクノロジーは、近年の市場規模が年率40%を超えて成長しており、今まさに伸びている業界だそうです。同時にHCM(人材管理)アプリ市場も活性化してきており、クラウドべースでコストが安く、補助金も出るという理由で中小企業でも導入されることが多いことを紹介しました。
続いて、人づくり革命のポイントには次の3つを挙げました。
人づくり革命のポイント
●「生きること」「働くこと」「学ぶこと」を密に連携させること
●ワーク・ライフ・バランスからワーク・ライフ・インテグレーションへ
●ワーク・ライフ・インテグレーションのために生涯学び続けること
ワーク・ライフ・インテグレーションは聞き慣れないかもしれませんが、「仕事と生活の統合」という考え方を指す言葉です。仕事と生活を分けてバランスを考えるワーク・ライフ・バランスとは異なり、仕事と生活を統合することで相乗的に質を高めようというのがワーク・ライフ・インテグレーションの目指す生き方です。(参照「ワークライフインテグレーション」とは?(カオナビ人事用語集))
では、肝心のHRテクノロジーはどう取り入れれば良いのでしょうか?
データ〈数値・テキスト・音声・画像・映像・行動〉
→分析〈経営分析・機械学習・ディープラーニング〉
→アウトプット〈ダッシュボード・予測・レコメンド〉
HRテクノロジーを生かすためにはブランドデザインが最も重要になり、「どう連携させて、どう分析するか、どう経営に生かすか」と岩本氏は話します。
企業によって異なる課題や目標にどうテクノロジーを活用していくかは、まだ人が考えなければならず、それこそが戦略人事の役割であると岩本氏は語ります。
また、データ分析については社内のエンジニアでもできる作業であり、難しく捉える必要はないということです。
なるべく小さな単位で業務サイクルを回す
第2部ではモデレーターにPwCコンサルティング合同会社ディレクターで15年以上の人事コンサルティング経験を持ち、HRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)理事を務める北崎氏【写真上】を迎え、パネルディスカッションが行われました。
「労働環境の変化と働き方改革への取り組み」というテーマでは株式会社サイバーエージェント取締役で人事本部長の経験もある曽山氏【写真下】が「企業の人事はキャリアの多様化を見なくてはいけない」とコメント。副業や転職などキャリアの多様化を認める国のメッセージを受け取っている人材は企業独自のルールに縛られずに生きることを大事にしており、それを尊重した上で企業としてどのように才能や成長をサポートできるかが企業に問われているそうです。
実際にサイバーエージェントではGeppoというツールを用いて毎月社員のコンディションチェックし、変化があった時や人事が相談したい時に面談を実施できるようにしているそうです。
アンケートの頻度についても、年1回程度では間に合わないため毎月の実施に変更したそうで、タイムリーさがポイントだと言います。
柳橋氏も労働者のコンディションチェックについて、毎日・毎週ベースで把握できるようにすることが重要で、また日々の業務も小さいサイクルで回していくことが大事だと述べました。
「人事の仕事は勘と経験では回らなくなってきている」
株式会社リクルートジョブズ 執行役員でHR Intelligence Forum組織委員会も務める仲川氏【写真上】は、今の企業課題は人事課題に直結しており、人事の業務量が増え、複雑化していることを懸念した上で、「HRテクノロジーの活用が必須となることは明白で、どうやって人事業務を効率化していくか、企業は今から考えたほうがよい」と訴えました。
「人事の仕事は勘と経験では回らなくなってきている」と北崎氏。
楽天株式会社の楽天技術研究所代表を務める森氏【写真下】は、HRテクノロジーを社員の育成に活用することを提案。「研修をeラーニング化している企業はすでにありますが、ディスカッションが大好きな人、読み物が好きな人など、個々にあった育成方法が選べるようになることで効率化につながる」。
これからのHRテクノロジーについてというテーマでは、研究者でもある森氏が「人工知能が勝手にデータを作ってしまう時代。いずれ、データがあればシミュレーションができるようになる」と断言。さらに、「『新しい技術があるから大丈夫でしょ』という気概でHRテクノロジーの活用だけでなくいろいろな人事の取り組みにチャレンジしてほしい」と述べました。
一方で、曽山氏は人事課題を絞り込むことの大切さを訴えました。
「たくさんある課題をすべてやろうとすると何もできないケースが多いため、業績に直結する、もしくは効果のありそうなものだけを絞り込んで重点的にやることが大事」
北崎氏は「HRテクノロジーはあくまでも手段である」と強調し、時代に合わせて仕事が変化するように、人事のあり方もテクノロジーをうまく使って変化させることを考えるべきだとして、ディスカッションを締めました。
ディスカッションでは他にもどの企業で生かせそうなアイデアが多数挙げられました。小回りのきくデータにすること・効率化を考え、アイデアは失敗を恐れずにすぐ実践してみること・資格などのビジネススキルの情報をオープンデータ化し、社内で共有できるようにすること・イノベーションのために異分子を取り入れること、などがその例です。
HRテクノロジーをどう生かすかが、戦略人事の命題なのではないでしょうか。これまでの人事業務のあり方にとらわれず、柔軟な発想でチャレンジしていくことがこれからの人事に求められるスキルの1つになりそうです。
関連情報
慶應大特任教授 岩本隆氏による基調講演「AI・ビッグデータ活用による人事変革」ほか、HRテクノロジーを人事業務へ生かす具体的な方法を専門家が解説。
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執筆者紹介
河野理沙(こうの・りさ)(株式会社スキマタイズ) 東京都出身。主に「食」「健康」「ジェンダー」の三本柱で執筆をしている。常識に囚われないんだねは褒め言葉。犬猫より鳥派。
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