「内定力」著者・酒場のマスターの就活コラム
企業の思う「優秀な学生」と、実際に活躍する人材がズレる理由
2018.03.06
3月1日から本格的にスタートした、2019年卒学生の就職活動。採用担当者にとって、3月は大変忙しい時期です。今回は、多くの就活生に読まれている就活の指南書『内定力』著者で、自身の経営する居酒屋「猿基地」で就活生への支援も行う光城悠人氏に、「優秀な学生」について寄稿いただきました。採用業務に忙殺される中で忘れてしまいがちな、学生の立場に立った採用のお話です。
多分野で活躍している「卒業生」たちの、意外な過去
入社4年目で、大手センサーメーカーの全営業のトップ1%の売上目標を任される社員。
同じく入社4年目で、大手インテリア小売の法人営業で、全体のトップ10に入る社員。
入社6年目で、大手インターネット広告代理店のオウンドメディア編集長になる社員。
私が学生の就職活動を支援する飲食店を始めて9年余。ここから巣立っていった学生たちが、現在さまざまな企業で活躍しています。
毎年10人前後の学生たちが「卒業」していくのですが、その中には起業をして多業種の事業を立ち上げている子(あえて“子”と書きます)や、日本中のがん患者を支える個人活動をしている子、プログラミング事業などの教育事業を始めた子など、さまざまな形で活躍している卒業生たちがいます。
現在、売り手市場といわれる採用環境の中で、多くの企業経営者や人事・採用担当の方々は「優秀な学生」を採用したいと考えていると思います。
入社数年で頭角を現し、社員の中でも上位に入る活躍するような学生を採用できるかどうかは、会社の経営を左右します。そうした企業の方々から見ると、上記の彼らがそんな「優秀な学生」だったと思われる方もいるかもしれません。
しかし実際の彼らは、必ずしもそんなことはありませんでした。
サークルや部活でのリーダー経験も英語力もなく、スポーツや勉強に打ち込んで何かしらの実績を残したということもない、ごく普通の生活を送る、普通の大学生ばかり。
彼らは早い時期からの就職活動もしないし、夏期インターンに行った学生は一人もいません。むしろ情報解禁日が近づいてやっと動き出すので、むしろ私のほうが毎年焦るくらいです。
そして一方の私は学生を選べる立場にはなく、選抜をしたり、お金をとってセグメントしたりもしません。優秀かどうかに関わらず、ただ私の店に来た学生たちと一緒にお酒を飲みながら、彼らの相談にのるだけです。
そうやって関わってきた彼らの多くが、就活を経て、それぞれ入社した会社で活躍をしています。
学生の「素」を掴み切れず、ズレを埋められない企業
その経験を踏まえて現在の企業の採用活動を見ていると、どうも企業のみなさんが想像する「優秀な学生」と、本質的な意味で「活躍する可能性の高い学生」の間には、決して小さくないズレがあると考えています。
旧来の就職活動の枠組みで動いている学生たちと、さまざまな工夫やツールに取り組みながらも現在の学生の素の姿を掴みきれず、ズレを埋められない企業。この状態から、次の就職活動、次の採用活動にアップデートしていくことが、企業と学生の適切な関係性を築いていく上で重要なポイントではないかと思うのです。
忘れられがちな「学生は完成品ではない」という前提
例えば、私が学生と接する上での大前提があります。
それは「学生は完成品ではない」ということです。
何を当たり前のことを、と思う方もいるでしょう。もちろん学生は未完成で、これから社会に出て仕事を通して成長していくものです。基本的なマナーや商談のスキルすらない、という意味で未完成なのは当たり前です。
ただ、ここでいう「未完成」とは「社会人として」という意味ではありません。それ以前に、彼らは「学生として」も未完成、ということなのです。この前提があるかないかで、学生の捉え方や評価の仕方は大きく変わります。
企業は、学生の「今まで」しか評価できていない
私が経営者や人事に関わる方々の意見を聞いていつも抱く違和感は、目の前の学生の「今まで」を評価しているように見えることです。
今の能力、今のスキル、今の状態。もしくは、過去の実績、過去の成果、過去の動き方といったものによって学生を評価する。
もちろん新卒採用を行う上で、学生の今や過去を知ることは重要です。むしろそれがわからなければ人を評価することができないのは、当然ではあります。
しかし、そもそもの新卒採用の目的に立ち返るのならば、本来の目的は「入社後に活躍する人材を獲得する」ことであるはず。であれば、何よりも重要なことは、目の前の学生が「どんな活躍をしそうか」ではないでしょうか。
現状の能力やスキルや過去の実績や行動は、あくまでもそれを判断するための材料でありヒントであるだけです。それこそ「優秀な学生」という言葉がまさにそれを表していて、多くの方が設定している「優秀」とは、現時点での定性的・定量的な指標にすぎません。
つまり、多くの企業の方々が言う「優秀な学生」というのが、学生として「できあがった」状態を前提としてしまっているところにズレの根本があるのではないか、と私は思うのです。
「現時点で優秀な学生」の奪い合いから、視点を変えていく
学生は、(おそらく多くの方が想像している以上に)短期間で成長します。
ちょっとした刺激と、ちょっとした意識の変化で、急激に変わるもの、というのが私の実感です。
だからこそ私は、現時点で「優秀な学生」を探して各社で奪い合いをするよりも、もう少し視点を変えることで、より効果的な採用の実現可能性があると考えています。
例えるなら、学生は「起動スイッチがわかりにくい家電」のようなものです。
今でこそ誰でもiPhoneに慣れているかと思いますが、初めて手にした時は電源の入れ方にちょっと戸惑った方もいるのではないでしょうか。最近では体重計なども電源スイッチはなく、乗れば勝手に測ってくれるものもあります。ドラえもんの起動スイッチは、尻尾だったりもします。
学生一人ひとりの「起動スイッチ」は違う
そんな家電のように、学生たちにはまだ動いていない機能、起動していない機能があり、そのスイッチの場所は彼ら自身ですら気づいていない状態。その上、学生は一人ひとりそのスイッチの場所が違うのです。
そして、そのスイッチを見つけ出して、入れてあげさえすれば、その学生は急激に変化・成長していきます。
「ただでさえ忙しい採用活動で、わざわざそんな面倒なことを」という方もいるでしょうし、「そんなことまでしないといけない程度の学生は要らない」とも思うかもしれません。
ただ、そんな学生の中に「社内トップクラス」に育つ可能性がある学生がいるというのは、冒頭に述べた通りです。それこそ逆に、苦労して「優秀な学生」を採用したにも関わらず、入社後は期待通りではなかったという経験は、いくらでもあるのではないでしょうか。
もしくは成績が振るわない社員の上司を替えただけで、急に成績が変わるという事例も多数あります。
スイッチを見つけるために、できるだけ「活躍パターン」を知る
そのように学生のスイッチを見つけるには、採用にかかわる方が「できるだけ多くの活躍パターンを知る」ことが重要です。
テレビやマンガの主人公たちのチームのように、人はそれぞれ活躍の仕方が違います。
それと同じように、学生にも彼らそれぞれの活躍の仕方があります。
目の前の学生たちが自分でもまだ気づいていない特性に目を向けて、それを彼らに伝えつつ、彼らと一緒に、活躍するイメージを醸成していく。ひとつの「活躍する姿」に縛られることなく、学生が本来もっている特性を、最も活かせる方法を考え提示すること。それこそが彼らの成長を促進する「スイッチ」になるわけです。そのために、人の「活躍するパターン」のバリエーションを多く持っていることが重要なのです。
「現時点の優秀さ」ではなく、「成長のさせ方」に目を向ける
現時点で「優秀な学生」の採用を目指すよりも、そうした視点で「今はまだ特性を発揮できていないけれど、成長のさせ方が想像できる学生」に目を向けていく。それが、採用競争が激化している現状では逆に有効な戦略なのではないでしょうか。
人事・採用に関わる方々が学生のスイッチを見つけて刺激をしてあげることで、多くの企業と学生が良い関係で結ばれることを願っています。
【編集部より】
優秀人材の採用に関する記事はこちら。
応募者の素質を見抜く「引出し型面接」に関する記事はこちら。
執筆者紹介
光城悠人(みつしろゆうと) 立命館大学卒業後、エン・ジャパン(株)に入社。営業・ライター・クリエイティブディレクターとして7年間従事。退職後に、学生が新しい価値観に出会えるコミュニティの実現を目指し、2008年に京都で猿基地を開業。年間を通して学生とかかわる中で、「8キャラ」や「ぼうけんの書」などを活用した新しい就活の形として「就活ゲーム」を構築し、『内定力』(すばる舎)に著している。公式ブログ:『楽しく、気持ち良く、適当に。』
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