フリーランス女医が本音で語る女性活用
メンバーシップ型とジョブ型。日本企業の雇用制度問題から女性活躍推進を考える
2020.06.10
コロナウイルス感染拡大に対する緊急事態宣言が解除され、各企業がニューノーマル(新常態)に即した働き方改革に乗り出している。日立製作所は、ジョブ型人財マネジメントへの転換を加速するため在宅勤務を基軸とした働き方改革を推進するなど、働き方改革の1つとしていま「ジョブ型雇用」が注目されはじめた。
そこで、with/afterコロナの働き方を考えるうえでのヒントになるよう、@人事で過去に掲載した「ジョブ型雇用」について解説、考察した記事を紹介する。
日本企業の雇用制度が原因? 幹部が“ゆるふわ女性管理職”を好む訳
政府が「成長戦略の柱の一つ」と位置づけ、推進されている「女性活躍」。2020年までには、管理職など「指導的地位」に占める女性の割合を30%に引き上げることが掲げられていますが、総務省の「労働力調査」によると、2016年の女性管理職比率は「13%」と、女性登用の状況は芳しくありません。
今回は、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など医療ドラマの制作協力に携わり、医療の世界の第一線で働く女性である筒井冨美氏に、女性活躍が思うように進まない理由を、日本企業の雇用制度という観点から解説いただきます。【記事公開:2018年2月22日】
「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」の特徴
最近よく耳にする雇用制度の用語に、メンバーシップ型とジョブ型がある。それぞれの特徴は、まとめると以下の表1のようになる。
メンバーシップ型とは、昭和時代の日系大企業や大学病院などで広くみられた雇用制度である。職場は運命共同体であり、組織への強い忠誠心が求められ、終身雇用が基本になる。年功序列のピラミッド型組織であり、同年齢職員の給与差はあまりなく、管理職に就くのは定年直前となる。仕事範囲は曖昧で、「助け合い」「忖度」「夜の付き合い」が重視される。
一方、ジョブ型とは、「結果に応じた報酬」を基本にしており、外国では一般的であり、日本国内でも急増中の雇用制度である。職務範囲は明確であり、組織はフラットで、管理職は少ない。年齢と報酬・出世は比例せず、同年齢でも報酬・ポジションはバラバラになる。解雇・失職・転職が当然とされるが、「サービス残業」「窓際中高年」「過労死」は、深刻化する前に離職するので、発生しにくい。女性や外国人も多く、ネット親和性が高く、自己責任がモットーとなる。外資系企業やタレント、ヤクルトレディや私のようなフリーランス医師も、こちらに属する。
メンバーシップ型雇用が成功する条件を表2の左側に示した。各メンバーの能力が均一で、就職・離職年齢も均一である。助け合いと言われるが、要支援者が支援者よりはるかに少ない。共同体からの離脱(転職など)が困難で、外部交流(インターネットなど)も少ない。また、健全なピラミッド型組織を維持するには、中高年向けの管理職ポストを次々と新設する必要があり、業界全体のパイが安定的に成長することが必須条件となる。
昭和時代の大企業においてメンバーシップ型雇用が有用だったのは、表2の条件を全て満たしていたからである。日本経済全体が年5~10%の高度成長期にあり、定年は50~55才だったので老害が発生しにくい。女性はわずかで、なおかつ寿退社の段階で排除されたので、産育休時短のマネジメントも不要だった。インターネットはなく、転職支援企業も限定的だったので、「若い頃は苦労しても、いずれは報われる」と信じたメンバーの多くは、組織に人生の大部分を捧げた。
*メンバーシップ型組織における、賃金と生産性の関係を表したグラフ
労働者の生産性は、ざっくり言って40代をピークにした凸字カーブを示す。しかし、日本型大企業や大学病院のようなメンバーシップ型組織における賃金は、右肩上がりの直線となる。「若いうちは安月給でバリバリ働く」ことと引き換えに、かつては「中年以降はラクで高給」が保証され、「生涯勤めればトントン」と考えられていた。
崩壊するメンバーシップ型雇用
産業のグローバル化が進行する現在、日本型メンバーシップ型雇用は崩壊の一途にある。日本経済の停滞は長期化し、定年は実質65才まで延長され、人事の新陳代謝が滞って久しい。正社員の新卒採用数は絞られ、組織内の少子高齢化が進行し、ピラミッド型組織の維持も困難だ。女性活用というスローガンによって産育休時短も一般的になり、職場内での要支援者は増える一方だが、ロースキル正社員の解雇は困難で、支援者に相応の金銭的代償はされていない。
公務員・電力・テレビ局正社員などのグローバル競争のない規制産業においては、メンバーシップ型雇用は比較的温存されている。しかし、2016年の電通新人女子社員自殺や、2017年に公表された31才のNHK女性記者の過労死は、「名門とされるメンバーシップ型組織でも、下のメンバー(特に女性)の扱いは悲惨」であることを世間に示した。
若者にジョブ型組織が人気な訳
近年の東大生人気就職先ランキング上位には、典型的なジョブ型組織である外資系金融や外資系戦略コンサルタント企業がズラリと並ぶ。
【参考】東大生が選ぶ就職注目企業ランキング1位は?|@人事ONLINE
今の若者たちは日本型メンバーシップ組織が永続的なものではないことを、肌で実感している。諸先輩のように組織に滅私奉公しても、自分が中高年になる頃には諸先輩のような甘い汁は吸えないだろう……と予感している。ゆえに、彼らにとって「今の働きをキャッシュで報いるが、将来は保障しない」ジョブ型雇用は、検討に値するキャリアパスの一つなのである。むしろ優秀で野心的な若者ほど、ジョブ型雇用を好むのだ。
「社員に優しいホワイト企業」の正体
企業とは社員の集合体であり、国家は国民の集合体である。「弱者に優しい会社」とは、「エース社員に負担を強いて、弱者(と称する社員)に再分配する会社」とも言えるし、「子育て世帯の減税」とは「子持ちではない人たちに少しずつ増税する政策」でもある。
メンバーシップ型の組織の特徴は「下はブラック、上に行くほどホワイト」である。よって、数十年の滅私奉公勤務によって出世した高年管理職が、組織内の既得権者となる。上記の賃金/生産性のグラフにおいて、賃金と生産性が逆転する50代以降に顕著であり、経営破綻などで真っ先にリストラ候補になるのもこの層である。あるいは、「少数のホワイト正社員を、多数の非正規職員のブラック労働で支える」企業が「ホワイト企業」を名乗るケースもある。「ホワイトな職場」という事例が紹介されていた場合、その「ホワイト」が社内のどこまで浸透しているかを、注意深く観察してみると良いだろう。
お飾りとして使われる“ゆるふわ女性管理職”
日本型大企業における経営や人事の意思決定層は今なお6~70代だし、この世代の管理職は昭和的出世競争に勝ち残った爺ちゃん達なので、そもそもメンバーシップ型組織以外の雇用制度が想像できないタイプが多い。だからこそ、活用と言われても、「あくまで年功序列システムは維持したうえで、例外的に見栄えが良く従順な女性に限って、ボスの慈悲として時短勤務を認める」という運用がされてしまう。各種メディアで取り上げられる「キラキラ輝くワーママ事例」は、こうした背景から選抜されているケースが目立つ。
自社の雇用制度を根本的にジョブ型にシフトさせることは、60代以上の管理職自身にとっては不利益変更にしかならない。ゆえに、日本型大企業のサラリーマン経営者の多くは、「助け合い」や「女性に優しい」のような精神論をふりかざし、人事制度の本質的な改革を自分の引退以降まで先送りして、お飾り程度の”ゆるふわ女性管理職”でお茶を濁す……というのが、本人にとっては最も合理的な選択肢となっている。そして、改革を先送りされた企業は、じわじわと弱体化してゆくのだ。
「女性活躍推進」「働き方改革」が目指すべきゴールとは
真に有効な「女性活躍推進」「働き方改革」とは、日本型メンバーシップ型雇用からの脱却であり、終身雇用や年功序列といった昭和的幻想から目覚めることである。「全ての労働者がメンバーシップ型雇用」という形態はもはやほぼ不可能であることを自覚して、ジョブ型雇用を導入していくことによって、グレーだが公平(平等ではない)で柔軟な雇用制度を創ることである。
雇用の変革期である現在、ジョブ型雇用へのシフトは企業が生き延びる為には不可欠である。しかし、なまじ名門とされた日本型大企業ほど組織内の既得権者が抵抗するので改革が進まず、恐竜のように滅びる大企業は今後も発生するだろう。
かつて、進化生物学者のダーウィンが述べたように、「生き残ることができるのは、強い者でも賢い者でもなく、変化できる者」なのである。
【記事情報は2018年2月22日公開時点】
執筆者紹介
筒井冨美(つつい・ふみ) 1966年生まれ。地方の非医師家庭に生まれ、某国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、メディアでの執筆活動や、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)など医療ドラマの制作協力にも携わる。近著に「フリーランス女医は見た 医者の稼ぎ方」がある。
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